嘘下手令嬢
私は結局ログアウトせずに王の元に向かった。
ボロ王城の中に入り、王と謁見する。
「……俺なんかが入って警戒されないだろうか?」
「……さぁ?」
私はそう言っていると、王がやってくる。
「久しぶり…ではないがよく来たな。ミーミル殿」
「久しぶりです」
「それで、どうしたのかね?」
王はそう聞いてきたので。
「実はこの男をうちで雇いたいんですが」
「……? 雇えばいいだろう」
「この顔、見覚えないですかね?」
と、アニキスの顔を見せる。
王の顔色がちょっと暗くなっていた。どうやら脱獄した囚人と分かったらしい。
「なるほど……。死刑囚の一人か」
「この国では死刑の決定権は最終的に王にあると聞いております。死刑囚の死刑取りやめも王にしかできぬと。なので取りやめてはくれないでしょうか」
「お願いします。俺はもう、悪さは致しません」
「脱獄って言う悪さ犯しとるくせに……」
王のツッコミはもっともだ。
確かに今現在進行形で悪さしているわ。
「ま、いいだろう。ミーミル殿が監視しているなら信頼はできるしな」
「ありがとうございます! 街を出歩くかもしれませんので指名手配など取り消していただけると幸いなのですが」
「ま、そうだろうな。わかった。騎士たちには伝えておく。が、一つ条件がある」
「条件?」
「今までの被害総額を補填することだな。何の罰もなしに出られるとは思うな」
「……かしこまりました」
「ざっといくらですか?」
「そうだなぁ……。6億、ぐらいだろうか」
結構だまし取ったんだな。
だがしかし、その手持ちの金額、今、手元にある。
「…私が払うんでいいですか?」
「……ま、よいじゃろう」
私は財布から6億を取り出す。
この前、フレンチトーストを食べた後にまたパンドラさんのところにいったらお金をもらった。というのも、これは渡し忘れていたレースの時の礼金?らしい。
なんつー偶然だろうか……と思いながらも王に金を渡す。
「これでよろしいでしょうか?」
「うむ。では、今度からは心を入れ替えるようにな」
「はい」
と、アニキスと私は出ていくのだった。
アニキスは、私の後ろを黙ってついてくる。
「……ありがとう。何から何まで」
「ん、いいんだよ。雇うって決めたんだから厄介事とかは最初に消しておかないといけないからね」
「本当に……あんたには救われてばかりだな」
「救ってるつもりはないけどねー」
私の場合、救うつもりはほとんどない。
可哀想だからって同情はしない。大体何も考えない。
「ま、うちから逃げたいなら逃げてもいいしさ。気楽に行こうよ」
「……逃げるつもりはない。俺はクズだが、俺を救ってもらってとんずらこくほどクズじゃない」
と、王城の廊下を歩いていると。
アレクとエリザベート令嬢が歩いているのが見えた。あちらもこちらに気づいたようでこちらに駆け寄ってくる。
「ミーミル殿!」
「ミーミルさん。お久しぶりです」
「お久しぶり」
私は挨拶を交わした。
「あ、そうだ。王子、ヴェニカっていう令嬢知ってる?」
私は思い出したかのように王子に問いかけると、王子は苦笑いだった。
「ああ、あの嘘下手令嬢か」
「あれは嫌な事件でしたわね……。ヴェニカ令嬢が嘘が苦手でちょっとしたいたずらがばれて叱られて……」
「ははは、それは昔のことだ。それでミーミル殿。ヴェニカ令嬢がどうした?」
「ん、いや、どんな令嬢だったのかとか、恨んでないか、とか」
そう聞くと、王子は笑う。
「私がヴェニカ令嬢を? まさか。たしかに毒殺されそうになったがあの子はあんなことをする子じゃないさ」
「ヴェニカ令嬢が王子と婚約できないから死のうとかは?」
「そんなことはないさ。彼女は彼女で好きな人がいた。あの事件は従者が主犯とみて間違いないだろう。それを証明するものがないから何とも言えんが、彼女自身の性格で判断するのならば絶対にそんなことはしない」
「そうですわね。多少の茶目っ気とかはございますが、人を殺すような勇気はみじんもないですわね」
ふむ、じゃ、あの話は真実味を帯びてきたということか。
「恨んでないならいいんだけどさ。それじゃ、帰るから」
「ヴェニカ令嬢によろしく頼むぞ」
「……気づいてたの?」
「あからさまに匂わせてましたわよ」
「あらそう……」
私も嘘が下手ですね。可愛いところあるね。




