閑話:三人が感じた歪み
時は少し戻り、ガイルがやられた後。
パンドラたちは平原で先ほどの嵐のようなミーミルについて語っていた。彼女たちが感じたのは、ミーミルの危うさだった。
「……ミーミルちゃんってさ、どこかやっぱ歪んでるよね」
「そうね。友達を傷つけられただけであんな怒って……」
「怒るのは無理ないかもしれないが、なにかあのミカボシとかいうやつらを強く守ろうとしているな」
三人のミーミルに対する評価は同じだった。
どこか歪みつつも、何かを守るためにいる、そういう感じがしている。
「そういえば、あの子のこと、私興味本位で調べてみたのよ」
とワグマが言う。
「金持ちこわっ! 調べられんのかよ!」
「ちょっと苦労はしたけどね。本名も一応は知ったわ。で、あの子、小学校時代に暴行事件を起こしてるそうなのよ」
「やはりそういうことはあるか」
ビャクロが納得したようにうなずく。
「友達がいじめられたからいじめっ子をボコボコにしたそうね」
「ふぅん」
「この歪みはいつぞやのパン子と同じように感じるわね」
「私はあそこまで頭おかしくはない」
と、パンドラが強く否定する。
パンドラが感じていたのは依存していることと、もう一つあった。
「あの子、普通に人殺しを躊躇わない子だから違うよ。あれは善悪関係なく人を殺せる目をしている」
「……そうかしら?」
「二人にたいして強く依存している。たぶん、二人の障害となるものは排除するって感じなんだろうね」
「それはあんたもじゃない?」
「あれは私とはベクトルが違うよ。私は二人にいらないものを厳選してたよちゃんと。二人の成長につながればって思ってさ。でもあの子は違う。いらないものも、いるものも全部排除しようとしてる。実際してるんだろうね。私でもあの子はちょっと怖いよ」
パンドラがそう語る。パンドラが考えているのは先ほどのPKのことだった。彼女は友達が傷つけられたからと言って殺しに来たが、このPKはミカボシ、クシナダの二人が依存せずに自立していくいいきっかけにもなれたかもしれないのにということも考えており、必要悪と感じていた。
だがしかし、その必要悪ですらもミーミルは排除する。二人を傷つけまいと必死に。それは彼女もどこか二人に依存していて、二人の為に手を穢すことも厭わないという歪んだ愛を感じていた。
パンドラが怖がるということを聞いて二人はどこかあの子に戦慄していた。
「私も私で大概頭おかしい自覚はあるけどあっちのほうがよっぽどだよ。むしろ、私よりちょっと頭がおかしいと思う」
「パンドラがそういうんならそうなんでしょうけど……」
「あんなかわいい子がなぁ」
「少なくとも、あの子には基本逆らわないほうがいいかもね。あれを敵に回したら相当厄介だよ」
パンドラが不敵に笑う。
「そうね。あれ、才覚は全盛期のビャクロ並……もしかしたらそれ以上あるかもしれないわね」
「才能も私とは違うぞ。私はどちらかといえばテクニックで勝負していたがあっちは本当にパワープレイでゴリ押してる」
「そう?」
「テクニックは私よりないがパワーが私より断然あるせいで全盛期のころ戦っていてももしかしたら負けてたかもしれないぞ。あれはすごい」
「パワープレイでビャクロが負けることはそんな考えつかないけどね」
「もしかしたらあの子らを守るために力をつけ…」
「いや、パワープレイは単純にごちゃごちゃ考えるのが嫌なだけでしょ。私みたいに搦め手とか考えるの面倒だから力ずくで突破するタイプだよ」
ミーミルの戦闘自体の能力も理解はしているパンドラだった。
作者が描いた主人公の中で一番頭おかしい子は実はミーミルちゃんです。
パンドラちゃんは自覚ありありで人を殺してましたがミーミルちゃんはそんな自覚ないと思ってます。




