近づかないワケ
どうやらクロムさんは有名な女優らしい。
そして芸能界でも結構な変わり者として有名でありいじられたりはするが友達がいないということだ。というか、クロムさん、生きていた中で友達ができたことがないらしい。
「てかちっちちゃん、ゲームしてたんだ」
「私もゲーム好きだからね! っていうかフレンドなろうよ!」
と、ちっちちゃんからメッセージが届く。
プレイヤー名はリリーホワイト…。百合? なんかちょっとだけ直感で変な気持ちになる名前だが…。気のせいか。
私はフレンド登録を済ませる。
「それにしてもちっちちゃんの名残がある見た目だけどなんか違う人っぽいね」
「そりゃ私有名なアイドルだからね。見た目ちょっと弄んないとバレるっていうか」
「人気者は辛いですね」
私は芸能人じゃないし身バレの心配はしなくてもいいから安心だ。
「私は弄ってないが」
「先輩は弄らなくても近づかないじゃないですか」
「あ?」
「ひいっ」
クロムさん、眼光が鋭い。
これ見た目でものすごく威圧してるし普段真顔だから相当周りを威圧してるだろうな。見た目は可愛いんだけどすごく怖いっていうか。
「先輩…すいませんでした」
「怒ってない」
「紛らわしい…。もうちょっと笑顔になれませんか? 笑顔を作ったら自然と人が寄ってくると思いますよ。可愛いんだし」
「…こうか?」
と、クロムさんが笑顔を作る。
それを見た私たちはコメントに困った。いや、なんていうか…。
「いじめっ子みたいな笑いって言うか、悪役?」
「そういえば先輩、ヒロインには一度もなったことないって言うか基本悪役ですよね…」
「そんなにひどいか?」
「なんていうか、私たちを嘲笑してるみたいな感じの笑いです…」
笑顔が下手って言うか…。悪役みたいな笑顔は得意みたいだけど普通のヒロインみたいな笑顔にはなれてない。
顔が怖いからか? 私のほうがもっとヒロインっぽく笑える気がする。
「ならこうか」
「…何かを企んでそうな笑顔です」
「こう?」
「やられそうになって無理やり笑ってる感じの顔ですね…」
どうあがいても悪役になる顔だな…。
「…千絵、試しにやってみろ」
「うーん、こうですかね?」
と、にこっと微笑む。
うん、たしかにこれは天使みたいな笑顔って言うか…。普通に可愛い。
「お姉さまもやってみてください」
「…こうかな」
私は笑って見せる。
「なんていうか、爽やかな男性みたいな笑顔だ」
「男らしさが溢れてる気がする!」
「…嬉しくないんだけど」
あの、普段から言われてますけどそんな男らしいですか?
下着とか見られたら普通に恥じらう乙女ですけど。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。それが私ですけど? そんな乙女ですけど?
「とりあえず先輩は笑わないほうがよさそうですね」
「ふむ…。たしかに現役アイドルがそういうのならそうなんだろうな」
「ただもうちょい表情を柔らかくする努力とかをしたら変わるんじゃないでしょうか」
「善処する」
と、クロムさんがコーヒーを飲み干した。
「では、リリィ。これから大事な話があるから出直してきてくれるか」
「えー」
「……」
「は、はい。出直しますよ…。怖いなぁ…」
と、ちっちちゃんが出ていった。
「では、その、なんだ。改めてイベント、よろしく頼む」
「こ、こちらこそ」
頬を赤く染めて少し口角が上がっていた。
できとるやんけ、自然な笑顔。
 




