文化祭前 ①
私は制服姿で駅前にいた。
もうそろそろ文化祭もあり、文化祭は一般開放とするという。
なので、ビラ配りをしていた。私がする理由は一つで、最近外国人の観光客が増えてきて英語で話しかけられても対応できるようにするためだという。
「日本に産まれたかった…。なんで私がビラ…」
「まあいいじゃないか。俺は結構…やる気出てるが」
「イケメンはこういう雑務も快くやるもんねえ…」
「あはは。ま、外国人が増えてきたことを恨めよ」
木戸くんとそう話しながらビラを配っていた。
駅前で配ってるからたくさんの人とすれ違うし、私の可愛さに近寄ってきて受け取る人もいるし、木戸くんに釣られてくる人もちらほら。
美男美女って客引き寄せるよな…。
『すいません』
と、英語で話しかけられた。
私は振り向くと背の高いアジア系の人が立っている。
『何を配ってるんですか?』
『チラシです。我が校の文化祭のね』
『オゥ! 文化祭! いきます!』
と、ビラを一つ手に取って嬉しそうに駅から出ていく。
あれは日本のアニメを見て興味を持ったオタクだな。私の勘がそう囁いてる。
どうせ外国人が来たら私が応対するんだろーな…。日本語喋れる外国人という手軽なのがいるからな…。いいように使われるな…。
「みんな英語話せるようになれよ…。私の仕事が増えてく一方じゃないかよ」
「ま、イギリスで生まれたことを恨むんだな」
「くっ、日本国籍をとってるから日本人なのに!」
私はそう愚痴りながらもビラを配る。
「うおっ、すげー可愛い外国人の人だ…」
「何か配ってるぞ。行ってみようぜ」
と、他校の制服を着た学生が近づいてくる。
「は、ハロー」
「おま、英語喋れんの?」
「いや?」
勇気あるなお前。
じゃあその勇気に免じて英語で話してやろう。
『こんにちは。私はアテナって言うんだけど、君たちの名前は?』
「あ、あいむユウト」
『ユウト。いい名前! じゃ、なんの教科が好き?』
「え、え?」
ユウトは困惑している。
私が笑っていると、木戸くんが呆れたような声を出す。
「お前まだやってんの…?」
「あ、木戸」
『知り合い?』
「アテナさんももういいよ…」
というので英語を喋るのをやめた。
「知り合い?」
「俺の中学の時の友達。巽 悠人」
「改めて…悠人っす」
「アテナ・アゼリア。アテナでいいよ」
「は、はい。しゃ、喋れるんすね…」
「日本語? そりゃぺらぺらよぺらぺら」
巽さんたちは驚いたように私を見る。
「それで? ナンパかい? 私を」
「まだやってんのか…。昔ひどい目に遭ってるのに」
「昔は昔よ! それに、俺ら男子校だから女子に飢えてんの!」
と。
私はふぅんと興味なさげに頷きつつビラを渡す。ビラ配りは5時まで。
全部配ったらクラスメイトがジュース奢ってくれるというので本気出してるが…。
「ほら、ビラ配りの邪魔だ。いけ」
「ひどい! アテナさんもなんか言って…」
「バイバイ」
「うぐぅ…」
とぼとぼと去っていった。
あとビラは残り少し。現在の時刻は4時39分。この量ぎり終わるかな?
「よし、じゃ、誘惑するしかないな」
「誘惑?」
「ちょっと持ってて」
私は残り少ないビラを木戸くんに渡し、ポケットに手をいれる。
取り出したのはヘアゴムだった。
ヘアゴムで髪を纏め上げポニーテールにする。わざとうなじを見せるように…。
「よし」
「それが誘惑?」
「日本人男子はうなじに弱いって聞いたことある。っしゃー! ジュース奢らせんぞー!」
気合を入れて取りかかった。
私は堂々と天に手を掲げる。
「ジュースもらったりー!」
配り終えた。
木戸くんもギリギリ配り終えたらしく、女子高生にたかられていた。
「ムキムキですね! なんかスポーツしてるんですか?」
「あ、ああ。バスケしてる…。ちょ、アテナさん助けてくれよ」
と、頼まれた。
しょうがないな。
「私の連れに近づくなよ。ほれ、行くぞ」
私は木戸くんの腕を引っ張り走る。
向かうは学校。海に面した高校で潮風が私たちの鼻をくすぐる。
海のいい匂いが吹き付ける。
校門前に着くと、文化祭の看板を設置してる人が見える。
そして、我らがクラスの委員長も仁王立ちで立っていた。
「ビラ配りの成果は?」
「ジュースもらいますね」
「ちっ、全部配ったのか…。全部配るのは無理そうな数を渡したのに…」
やっぱりかい。
受け取った瞬間に多いって感じたからな。
「しょうがない。紅茶?」
「アップルティー。ホット」
「あい。木戸は?」
「お茶でいい」
委員長は返事をすると学校内に走っていく。
「…明日はもう文化祭、だな」
「そうだねー。屋台とかもたってきてるし…。そーいや男バスの屋台ってなによ?」
「焼きそば、だな。祭りの定番と言ったらそうなった」
「焼きそばかー。たしかに定番だよな」
この辺の夏祭りは焼きそばも売ってるし、たまに目玉焼きをのせてくれる屋台も見かける。
とろーり半熟の黄身が焼きそばに絡んで超美味いんだよな。
「俺は焼く係になった。店頭で焼いてるのが画になるって言われてな」
「たしかにイケメンが頭に手拭い巻いて焼いてたら女子は近づくわー…」
「はは。まあな。アテナさんは部活入ってないんだっけ?」
「面倒だからね。クラスの店しかやらんよ」
うちのクラスは中世風の喫茶店。
店員は全員執事服とメイド服。ただ、メイド服つってもアキバ系のようなミニスカートではなく、本格的なメイド服で「おかえりなさいませ、ご主人様!」とはいうがキャピキャピとした言い方ではなく、あくまで側仕えのような感じ。
「ま、お互い頑張ろうな」
「そうだね」
私たちはなんとなく拳を突き合わせる。
「おーい、飲みもん買ってきたー」
「委員長が来たぞ」
「喉に潤いと温かさをあげないとね」
私は飲み物を受け取った。
 




