反省と後悔
あのところから戻ってきたはいいが、もう夜が遅い。
私はゴッドゴートの住処にテントを張ってログアウトすることにしたのだった。翌日は土曜日。土曜日だから朝からできるが…少々用事がある。
私はそのままログアウトし、ベッドに寝そべりそのまま眠りについたのだった。
そして翌日、土曜日。
私は喫茶店にきていた。喫茶店である人物を待つ。
カランコロンという音がしたので扉の方を見ると、目的の人物がそこに立っていた。気が強そうな見た目をしており、茶色い髪にたくさん髪飾りをつけているその女性。
その女性は私を見つけると手を上げる。
「よぉ」
「久しぶりね」
と、その女性は私の目の前に座った。
「コーヒー一つくださいな」
と、注文したのだった。
「よぅ、花井」
「何度挨拶すればいいのよ…」
「いや、なんとなくな」
そう、待ち合わせの相手は花井だった。
花井、あの時の花井だ。花井 瑞樹。いじめっ子だったあの花井。
「それで、仲直りしたいの?」
「そりゃ…そうね。あの時は本当にバカだったわ」
「今もでしょ。退学になったって聞いたぞ」
「…誰から聞いたの?」
「染岡」
私がそう言うとバツの悪そうな顔をする。やっぱいじめしてた子はいじめを続けるのかもしれないな。染岡は反省してるとはいえ。
いや、まぁ、いじめてた本当の理由は知ってるんだけど。
「あれは…ただやり返しただけよ。いじめられたからそれの仕返しで。だけどやった相手が悪かったわ」
「いじめられてたの?」
「そりゃこんな小生意気なガキみたいな私よ? されるに決まってるじゃない。だからやり返したら退学になったの」
なるほど。いじめにはいじめをね…。
「ま、それはどうでもいいけど…。たぶん、あんたの謝罪はまだ聞き入れないと思うぞ。まだあいつらの中には恐怖心が残ってる。花井とは一生出会いたくないと思ってるんじゃないかな」
「そう、よね」
と、悲しげな顔をする。
こいつがいじめてた理由は至極簡単だった。あの高井君に告白されたことがムカついた…わけではなかったらしい。
それは建前で、どうやら好きだったらしい。灘、じゃなくて三日月のほうが。ライク、じゃなくラブな意味で。で、彼女に一番近かった灘が気に食わなかったということ。そして、三日月にも絶望の表情をさせたかったということ。
要するに究極のサディスティックなのだ。人が嫌がる顔を見たいという願望がある人格破綻者。今はそのなりを潜めてはいるけれど。
「あんた親も親だからな」
「…私の親ってやっぱり頭おかしいのよね」
「いきなり家に突撃されていじめの事を突きつけてもそれがどうしたっていう風だからちょっとおかしいよ」
私が花井を殴った夜、母親がうちの家に突撃してきたのだった。
そして、どうして殴った、慰謝料とかもめて、いじめのことをいうがいじめられた方が悪いとぬかす。
その時丁度母さんが帰ってきて淡々と法律を述べて勝てないと踏んだのか逃げ帰ったけど…。あれはちょっとね。
「父さんはマトモよ…。父さんと一緒に謝りに行ったぐらいだもの」
「へぇ」
「門前払いされたから会ってはいないけど」
「やっぱりね」
花井が残した傷は染岡と同じくらいだからな…。
「ま、今は離婚して父に引き取られたけど」
「離婚したんだ」
「母さんの浮気よ浮気。結婚前から続いてたらしくてさ、私は浮気相手の子なんだと。父さんとは血がつながってないって」
「へぇ。母さんの方にはいかなかったの」
「血がつながってるとはいえ浮気相手のところに平然と駆け込むような恥知らずで気持ち悪い母についていこうとは思わないわよ…。父さんに頼み込んで父さんに親権をもってもらったわ」
ふぅん、いろいろと大変だな。
「ま、あなたからも言っておいてくれるかしら。私も反省してるから謝る機会をください、と」
「ま、伝えておくよ。結果はどうであれ私を恨むなよ?」
「わかってるわ。これは私が悪いんだもの。好きな子をいじめるっていうのは我ながらどうかしてたわ。そんなことしても振り向いてもらえるはずもないのにね」
と、自嘲気味に笑う。
私はジュースを飲み干し、喫茶店から出たのだった。




