レースの目的
私たちは走り出した。
レースもそろそろ後半戦になってくるだろう。プレイヤーたちもお互いがお互い潰し合う展開にもなっていそうだ。
だがしかし、最後に笑うのはこの私だって決まっている。私は幸運なのだから。
「一つ気になることがあるんだが」
「なんだ?」
「なんか、すんなりいきすぎじゃないか?」
と、ビャクロさんがそういい始めた。
たしかに。すんなりここまで来れている。なんの妨害もなく、何の障害もなく。ただただここまですんなり来れていた。
そこに疑問点を持つべきかもしれないな。
「ルール説明では確か魔物やNPCに殺されるかもと言っていただろ。魔物の類はそんなに見ていないし、NPCが襲い掛かっても来ねえ。これは普通の事なのか?」
「なかなか鋭いところをついてくるじゃん。ビャクロのくせに」
「疑問に思うのはそこだけじゃない気がするのよね…」
「…あ、私も一つあります」
そうだ。思い返してみればちょっとおかしいかもしれない。
「楽園のことを聞いた家のメイドと、運営が言っていたレースの名前が違うんですよ」
そういうと、パンドラさんが目を細めた。
「何て名前だったっけ。このレースの名前は」
「運営はメイクアップレース、と言っていたわ」
「でも、そのメイドさんからはメイク・ヒステリー・イン・ザ・レースと長い名前だったんです。やっぱおかしいですよね? 呼び方が違うなんて」
「そうだね…。なにか私たちは解釈違いをしてるのかもしれないな」
直訳するとレースの中で歴史を作れ、って言う感じになるだろうか。
レースの中で? 歴史を作る? どういうことだろう。歴史のかけらと関係があるのか?
「これって…もしかしてレースじゃないのかもしれない」
「レースじゃない?」
「地図をよく見てみる」
と、パンドラさんが地図を見始める。
私も地図を見る。地図を見てもなにもわからないが…。どういうことなんだ? これはいったい。
私たちは唸りながら地図を眺めていた。
一体なんなんだ? どういうことなんだ?
「メイクアップ…。化粧? 何を化粧するんだ?」
パンドラさんはぶつくさ言いながら考えている。
「お手上げ。あとはパンドラに任せるしかないわね」
「そうだな」
「化粧っていう意味もありますけど、子の場合って彩れとかそういうのでもいい気がしますね。化粧ってよく女性を彩るとかって言われてるじゃないですか。それで、今言ってるときに気づいたんですけどこの北の街ってパープルって名前なんですね」
「…? パープル?」
なんか、思いつきそうなんだよな。
運営はなんて言っていたっけ。そもそも、言い方がちょっとおかしかったかもしれない。日曜日までにしておきましょうかという言い方もちょっと疑問があるな。普通は日曜日ですと決まってるように言うもんだが。
「そうか、わかった」
と、パンドラさんが立ち上がる。
ものすごい笑顔だった。
「レースはレースでもこれ、ルートがきちんと決まってるんだ」
「というと?」
「いや、でももしかしてこれって…。いや、流石にないと思うけど…」
パンドラさんが怪訝な顔をしている。
なにか嫌なことでもあるのだろうか。
「なぁ、NPCが襲ってくるって山賊とか以外に考えられるか?」
「そりゃ…私たちが悪事を働いていたら騎士たちが襲い掛かってくるんじゃない?」
「それもあるが、もっと最悪な方向で考えてみてさ。悪事を働かないならNPCに殺されたら落としますとかあまり言わないと思うんだよ。言うとしても騎士に殺されたり…とかね」
「…あっ」
気づいてしまったかもしれない。
いいたいことが。
「戦争…?」
「そう、それなら問答無用で襲い掛かってくるでしょ。敵国だと知られたら。もしかしたらこれはレースじゃなくて侵略ゲーかもしれない」
そうパンドラさんは笑った。




