狡猾の罠師
その日ログインで来たのは午後からだった。
警察署から帰ってきて眠って…。気が付くと午後一時。完全に昼夜逆転してる気がしなくもないが…。
普通はレースの参加者は午前から活動するだろうにな…。
「やっとお目覚めかな?」
「あ、先にログインしてたんすね…」
「ま、暇だからね。本当はこいつらは暇じゃないけどね」
と、指をさすのはワグマさんとビャクロさんだ。
「ビャクロさんって大きな大会控えてませんでした?」
「いや、そうなんだがまあ、大丈夫だろう」
「ワグマさんって阿久津グループのトップなんだから本当はゲームやってる暇は…」
「イベントの為に前倒しで終わらせてきたのよ」
こ、この人たち規格外すぎない?
「でもこの時間にログインするなんて珍しいな」
「あー、ちょっと現実で用事があって」
まだちょっと眠かったけどログインしました。
「それで歴史のかけらを集めましょうか…。ここら見渡す限り木がないですし揺らして取るというのもできませんね」
「目視でもそれらしきかけらは見つからないな。もう取られているか、隠されているかだろう」
「…穴掘り?」
「くっ、オケラの力をもらうべきだった!」
見渡す限りの芝生。
これは探すのに苦労しそうですわ。近くにもそれらしきものが見当たらないしな。というか、ここは大陸のど真ん中だし開始からもうすでに三日が経過しているから到達していてもおかしくはないところだ。
もうちょい先へかけていくということもできるが…。
「ん、なんかくる」
私は振り向いた。
その瞬間、足のあたりにナイフが飛んでくる。私は反射神経で叩き落とすと、プレイヤーが三人目の前に立っていた。
「ちっ、ミーミルを潰しておけばレースは楽だと思ったのによォ」
「でも殺しちゃダメだよ?」
「わあってるって。半殺しだよ半殺し」
と、自信満々に姿を現した彼ら。
どうやら私を半殺しにしてレースに参加させないようにするらしい。PKは禁止されているけどプレイヤーに対する攻撃は禁止されてはいないもんな。
殺さなければ大丈夫ということだ。
「…この場合正当防衛って通じますか?」
「通じるね。殺しても文句は言われないんじゃない?」
「よし」
ただし、PKは正当なる防衛であれば可能となる。
殺されそうになった、ということは殺しても大丈夫だろうな。
「ま、攻撃を仕掛けるんなら君たちももっと慎重にならないとね?」
と、その時だった。
近づいてきたかと思えば、突然目の前からいなくなる。私は思わず近づくと、地面の底に落ちていった彼らがいた。
お、落とし穴?
「ま、一番有名で力があるミーミルさんを狙うのは当然だよね。警戒しないわけがないじゃん」
「い、いつのまに?」
「午前中。監視されている気配があったからさー。こっそり落とし穴掘っておいたんだよね。ワグマとビャクロをわざと戦わせてさ」
「派手にやったけどお互いダメージなしだ」
先読みしてたのかよ…。
「ま、死ぬダメージは受けてないだろうからルール的には問題ないね。あと、私特製のクモの巣がひかれてることを感謝しなよ」
「ね、ねばねばしてるよ! と、とれない!」
けらけら笑うパンドラさん。
て、敵に回したくねー…。
「敵だって複数で行動してるんだから私たちの対策も立てないとさー。だめじゃーん? あー、面白い。30にもなってこんなことするとは思わなかったわ」
「いい大人が高校生くらいを罠にハメるって相当大人げないわね」
「ま、仕方ないだろう。それに、パンドラはミーミルを勝たせる気満々だしな」
と、ビャクロさんが言った。
「ま、私はもともとイベントだけに参加すればよかったからね。レースの勝ちには興味ないさ。それに、神獣についてのこともしれたし借りが大きいからね。どんな手を使ってでも勝たせてやるさ」
と、何かを懐から取り出した。
それは大量の歴史のかけらだった。
「え、なんでこんな量を…」
「ほら、昨日急いでかけてきたじゃん? 蜘蛛の糸を広げておいてさ、引き網漁みたいに取ってきたんだ。あと、後続に対する罠も含めてね?」
「罠?」
「この落とし穴に使ったような巣をいくつもばらまいてきた。引っかかると抜け出すのに相当苦労するだろうね。結構粘着性がすごいから」
うわぁ、抜け目ないっていうかなんというか。
なんていうか、この人の性格を表してるな。粘着質なんだろうなこの人自身も……。悪い笑顔だよほんとに…。尊敬どころか恐怖しかわかないぜ。
「さ、まだまだレースはこれからだよ。いこうか」
「もうこれからは走りでもいいな。私もワグマもミーミルも飛べるからな」
「飛べないのはパンドラだけよ…」
「ここが街中ならスパイダ〇マンみたいにできたのにな…」
そう嘆きながらそれぞれ翼を出した。
 




