狐と女神とシュアラクレーム(後編)
狐です。
森の妖精の女王に出会った。
僕の手を引きコチラだ、と『何処かに』連れて行ってくれている大祓 巫を、そう錯覚してしまった。
森の中に入る時は、虫とか想像して少し躊躇いが出てしまったが、大祓 巫に手を握られているのならどこへでも行けそうだ。
と思ったのが半分。
残りの半分は、大祓 巫のファンクラブに見られていないか?殺されないか?という恐怖だった。
具合がすぐれないが、大祓 巫の前ということもあってどういうわけか身体が動いた。
ガサササッ
森の道なき道を進んで行くと、光の筋が段々と増えてきたのが目に見えて分かった。
その次第に増えていく森の光の筋が多い方に歩みを進めると、開けた場所に出会った。
見ただけで幾年もの間そこに居た事を物語る木製の長ベンチ。
ベンチと同じぐらいの年代物でベンチともピッタリ丁度いい奥行きの黒くなってしまった木製の机。
その奥にどっしり構えるのは、僕の街。
その景色の下側だけに額縁のように立っている木製の柵。
ここだけポッカリと陽が束になって降り注いでいる。
まるで妖精たちのお茶会場みたいだな。
その幻想的な景色の中に不釣り合いなケーキ屋の箱とその箱からシュークリームを取り出してそれをばくりと食べている斜線の塊がいた。
大祓 巫がピタリと立ち止まった。
『あ』
斜線の塊の動きもピタリと止まった。
「九尾様?何を食べているんですか?」
『いや・・・・これはっ・・・』
「先ずはお客様にでしょ?」
『はっ・・・・・・』
「早く」
『・・・・・・・・』
「何日分にしましょうか?」
『お客様!!シュアラクレームをお召し上がりくださいィィィ!!!』
斜線の塊が、座っている木製のベンチと俺たちのわずか数mの距離を全速力で、形が崩れてクリームとかもブリュと出てしまっている不細工なシュークリームを奉げてきた。
うわぁ・・・・・・
なんでコイツシュークリームのことシュアラクレームって言ってんの・・・・・・・・
「オマエ一応神様なんだろ?良いのかよそれで」
『うぐっ・・・・それでも良いのじゃ。早う受け取れ!でないとワシの菓子が・・・・・・・・』
うげぇとなりながら、斜線からシュークリームを受け取った。
そのシュークリームは妙に重たいように感じた。
僕はそのシュークリームを口に運んだ。
「うえぇ?」
何かが変わった。それが何なのかはすぐには分からなかった。
が、足りなかったパズルのピースがピタリとそこにハマった様な感覚が襲ってきた。
「あ!」
また斜線の塊がロリ九尾に見えるようになった。
だが、どうせ瞼を閉じて開いたら視えないようになるんだ。
パチ
視えないようになるはずだった。
まだ視える。
大祓 巫が着ている巫女服をめっちゃ小さくしたバージョンの巫女服。
それに包まれている小学5,6年生位の体躯。
その後ろに余りあるほどのきつね色で先っぽが白い筆のような複数の尻尾。
めっちゃロリロリな雰囲気。
全部視えたまんまだ。
「え?」
『どうじゃ?美味しいじゃろ?』
「いや、それ俺が買ってきたヤツ・・・って言うのは置いといて・・・・・何かした?俺に」
『え?』
「?」
ロリ九尾と大祓 巫は知らない素振りをした。
「いや、視えるんだけど、このロリ九尾の事」
『え』
「え」
『視えてなかったのか!?』「視えてなかったんですか!?」
「え?」
どうやら目の前の一匹と一人は、僕が『視えている』と思っていたらしい。
『って!ロリ九尾とはなんじゃ!!』
両手を握りしめて[ウガーーッ]と威嚇するように、こっちに言ってきた。
「いや、ちゃんと視えてなかったんだよ。斜線がかかっているみたいに、ぼんやりと」
無視してやった。
「そうだったんですか」
『無視するでない』
少し可哀想な顔をして、ロリ九尾が言ってきて、少しも可哀そうには思わなかった。
「私はてっきり、ロリ九尾様の方向を見て喋っておられたので見えてるものだと」
『ワシも』
ロリ九尾は大祓 巫に「ロリ九尾」と言われたのを認識していないようだった。
『様』が付けば何でも良いのかよ。
「いや、そもそも違和感だったんだけど。何で最初から俺が『視える』前提で話されてるの?最初に来た時から、ぬるっと当たり前のように事が進んで行ってたからさ」
『それはなぁ・・・』
「あの苦吐階段こちら側の人しか上ってこれないんですよ」
「こちら側?」
少し胸がざわめいた。ときめいた。
「視える人です」
『まぁ、他にも・・・』
「霊的なものをしっかりと察知できる人は僅か数段で、少し察知できる人は遥か彼方に、ほとんど察知できない人は永遠につかない」
大祓 巫に言葉を遮られまくったロリ九尾はシュンとしてしまった。
それは良いとして、それって『苦吐階段』の話か?
「あぁ、良いぞ食べてて」
『あぁ』
流石に少し可哀そうだった。
ロリ九尾は、モソモソとシュークリームを食べ始めた。
僕も持っていたシュークリームを二口で食べた。
「座ろう」
そう言って、大祓 巫に座る様に促して、僕も木製のベンチに座った。
目の前に大祓 巫、その大祓 巫の隣りにロリ九尾。
ロリ九尾も言うて不細工じゃないから、悪くはない。
だが、俺は決してロリ好きではない。
『もぁ、じゅぁからワシの事覚えておらんかぅったのか』
シュークリームを頬張って、リスみたいになりながらロリ九尾が喋ってきた。
かろうじて聞き取れた。
だが、最初の『もぁ』の意味が分からなかった。
「あぁ、まぁったく知らん!」
ゴヌン
ロリ九尾が、小さな身体の全部を使ってシュークリームを飲み込んだ。
『ガーン・・・って、まぁそうじゃろうなぁ、あれっていつの話じゃったかの?』
「あれって何なんだよ」
『昔にワシと会っているんじゃよ』
親戚のおばちゃんみたいなテンションで言ってきたので、聞き入る体制に入ってしまっていた。
『その時になぁwwwお主がなぁwwwwwwプハァッ!』
イラッ
俺のあずかり知らない俺に関する事で、笑われるのは純粋に不快だった。
『親が帰ってしまったらしくてなぁw泣いてたから菓子をくれてやったんじゃ。そしたら泣き止んでのぉwww』
「へ~~」
普通にムカッ。
コイツの言動一つ一つストレスになるんだよな、何でだろ?
「え、九尾様?それって駄目だったんじゃないんですか?」
『何がじゃ?』
「人にあちらの物を与えたらダメなのでは?」
『え、あぁ・・・・・・・・・・・・・・・・』
ロリ九尾の顔色が面白いぐらいに急に悪くなっていく。
『ヤバいのじゃ・・・・・』
「ナニ?俺がヤバかったの?」
目の前の一人と一匹が慌て始めたので、僕もちょっとソワソワしてしまう。
というか、何がダメだったのかが気になった。
「えっと、この世で『視える』能力を持てる人は、二種類います。」
大祓 巫が解説を始める
「一つは遺伝性の物です。そういう家系が日本には複数いるんですよ」
「この街にも?」
「はい」
適当に間を持たせるために半分ジョークで聞いたつもりだったのに思ったより何倍もの驚きの暴露だった。
「そして、二つ目は後天性の物です。これはその名の通りに生まれた後、神から貰った物になります。例えば、神の気まぐれ、神託、それと神から何かを授かった時に付与されるんですよ」
「そんなハッピーセットみたいな感覚で貰えるのか!?」
大祓 巫はキョトンとした顔をする。
あ、そうだった。
ハッピーセットはおまけ目的に頼むものだったな。
「でも、僕授かるみたいなそんな大層な物じゃないんだろ?お菓子だったんだろ?」
『・・・・・・・・』
ロリ九尾に聞いたのだが、ロリ九尾は頭を抱えて、木製の机を見つめていた。
「菓子でもダメなの?」
「はい。神からの授かり物だったら」
何でも
「ダメです」
神からの貰い物。
あ。
ココアシガレット
が頭に浮かんだ。
アイツも俺に与えようと、いや、授けようとしていたんんだけど?
大丈夫なのか?この地域の神は。
てか。
「神様って近い地域に何人もいていいものなのか?」
大変(?)な状況の時に聞くのも失礼かもしれないけど聞いてみた。
「・・・・・遭ったのですか?」
「え」
大祓 巫の目の色が深くなった。
「その神は、全身紺色で汚らしい格好をしていましたか?」
その目が普通一般的に言う『恐怖』とは全く別角度からの全く知らない『恐怖』を放ち、僕の心臓に巻き付いた。
答えられなかった。
『え、ナニ?あいつの居場所知ってるのか?』
ロリ九尾が頭を抱えるのを止めて、こちらに顔を向けてきた。
「いや、知らん」
「知らないわけないでしょう?」
大祓 巫に肩をガッと掴まれた。
おもっ!
『・・・・・・・・いや、本当に知らないんじゃろ。それに、アイツは痕跡すら残さないからの』
「・・・そうですね」
諦めムードになった。
なったのにも関わらず、大祓 巫の手はまだ俺の肩を鷲掴みにしていた。
「イタいっ!」
「あ、すいません」
絶対わざとだ!
閑話休題
ロリ九尾がニヘラニヘラと笑いながらこちらに語り掛けてきた。
『でじゃ。さっきの話なんじゃが・・・・・・・・・・・・・・・・ここだけの話って言う事にしといてくれんかの?』
「ロリの体で大物政治家みたいなこと言うなよ」
『ロリ言うな!まぁ、この際呼び方は何でもいいけど、約束守ってくれるかの?』
「黙ってないと何かあるの?」
疑問だ。
この事がバレても、そこまで怒られる案件ではないだろ?
だって『視える』人を一人増やしただけだろ?
「このロリ九尾様は、結構最近神様代行になられたのです」
ロリ九尾言うな、とロリ九尾が言ったのだがやはりロリ九尾だった。
「へ~~~」
『どうじゃ?凄いじゃろ?』
ヤバいって時に吞気に立場自慢とかやっぱ阿呆の子だ。
「いやぁ、代行って・・・なんだかなぁ」
『それでもワシほぼ神じゃから!』
「九尾様・・・・・・・・」
大祓 巫が呆れ切ったように、九尾のお子様自慢を制止させた。
大祓 巫も僕と同じことを考えたっぽかった。
『あ・・・・・はい。ちゅ~訳で、ワシは今、神みたいなことをやっているんじゃが。見た通りワシ妖怪上がりなんじゃよ』
「九尾って妖怪だったのか」
『そうじゃろ』
「一般的にはそうですね」
知らない『普通』を押し付けられたみたいでちょっと嫌だった。
「いや、でも、お稲荷様とかあるじゃん。あれってメッチャ狐だしほぼ神みたいな扱いだろ?それにあやかれば・・・」
ロリ九尾がハァァァァと深くわざとらしくため息をつく。
「なんだよ」
『お主、本当に決めつけがヤバいのぉ』
「は?俺がいつ決めつけたって言うんだよ」
『さっきのワシとの思い出をバッサリと知らんと決めつけおったり、お稲荷様の狐が神だと思い込んでたり、それにワシをなめておったじゃろ?』
また深くため息をついた。
『神であるワシから忠告してやるぞ。あんまり決めすぎて周りの状況とか立ち位置とか見誤るでないぞ』
イラッ
「神様代行からのお言葉有難く頂戴いたしますぅ~~後それと、まだ俺お前の事舐めてるんで御心配なくぅ~~~」
ウガーーッと襲い掛かってきたロリ狐を尻目に、図星だからムカつくんだな、と納得した。
ロリ狐が喋るといちいち会話がストップするので、大祓 巫にチェンジした。
「妖怪上がりの九尾様は、他の妖怪たちから反感を買っているのです。理由は、九尾様は元からこの神社にいらっしゃったので、それが要因となって選ばれたのではないのかという意見がありまして、九尾様のこの性格もありまして、炎上ってことです」
あぁ、納得。
「じゃあしょうがないね」
『えぇ!?内緒にしてくれないのか!?』
「いや、するよ」
『するんかぁい!どっちやねん!!』
「まぁ、お前で結構笑ったし、こんないい景色の場所教えてくれたんだし、貸し一つね?」
『ぅあっれぇ~~??今の話の流れじゃと、こっちに貸しが一つある状態なのじゃが・・・・・まぁ良いわ。これで一件落着じゃな』
大丈夫かよ、こんなロリ九尾が俺らの地域の神様役で。
「九尾、今何時ぐらい?」
『なんでワシがそんなもん知ってるんじゃ』
「神だろ」
『思い込むなって言ったばかりなんじゃがの~~』
大祓 巫がスマホを取り出し確認してくれた。
「3時半です」
「じゃあ帰ります」
『用事か?』
「いや、何となく」
『もっとここに居ってもええぞ』
田舎のおばあちゃんかよ。
「なんでだよ。帰りたいんだよ」
『だってコイツワシに冷たいんじゃもん。よく無視するし』
そう言って大祓 巫を指さした。
言われて、確かにそんな感じなんだろうな、と思った。
「うちはうちよそはよそって言葉知ってるか?」
『ダメじゃーー近頃の餓鬼は冷たいのぉ~~~』
餓鬼って言ってる辺りもうかまちょとしてダメだろ、と言おうと思ったがめんどくさいので止めた。
「じゃあそのシュークリーム置いていくから食べてくれよ」
『は?』
シュークリームが入っていた箱には、跡形もなく何にもいなくなっていた。
「じゃあ俺が処分するから、持って帰るわ」
「ありがとうございます」
『え・・・・お主優しいの』
大祓 巫がいる手前そっちで処分してくれとは言えなかったのだが、ロリ九尾の性格悪い奴の良い面を見てしまったかのようなリアクションは気に食わなかった。
「じゃあな」
「お見送りします」
『そうじゃな』
ガサガサ
元来たうっそうとした道を辿って、境内に戻った。
そして、石畳の一本道を辿り、石階段、『苦吐階段』の前にやって来た。
「見送りありがとう」
「いえ」
『お主ともっと話したいことあったんじゃけどなぁ』
ロリ九尾は昔を懐かしむように言った。
「オレはもう十分だ」
『冷たいのぉ~~~~』
「じゃ」
苦吐階段の方を身体の前方に向ける。
『またくるのじゃ!』
「しつけ~よ、次はケーキでも買ってきてやろうか」
『マジか!?』
トッ
一歩踏み出した。
「うぇ!?」
目の前に見たことのある石柱が現れた。
グニュッ
下腹部に石柱がのめり込んだ。
どういう原理かはわからないが僕は苦吐階段の入口まで飛ばされたらしい。
少し悶絶した後、立ち上がり、見てはいないのかもしれないがロリ狐に向かって中指を立てた。
じゃ、帰るか。
あんまり閲覧伸びなくて、ガーン
ブクマとか感想とかください。
励みになるので