狐と女神とシュアラクレーム(中編)
あくまで大祓 巫は華奢で美しい女子生徒です。
主人公の顔面を片手で鷲掴んで、石畳にぶつけるなんて普通はできませんね?
ドゴッ
美少女に馬乗りにされて死ぬのなら本望だ、と目をつぶって死を覚悟したが、まだ生きているようだった。
目を開くと、そこは天国ではなく、ちゃんと僕の街の都市伝説の神社の石畳の上だった。
この状況を傍から見たら、壁ドンならぬ床ドンだった。
まぁ、床ドンされなくても、視界の中に女神が、大祓 巫がいる時点で、限りなく天国に近いのかもしれないがな。
「お主、何者じゃ」
お主?あぁ・・・
「お前の方こそ誰だよ。そもそも名前を聞くときは自分から言うものじゃないのか?」
一度は言ってみたかったセリフ第四位を言えた。
結構すっきりするなこの言葉。
ギュゥ
大祓 巫の左手が僕の首に蝶のやってきて、蛇のように締め上げた。
「グエッ」
カエルみたいな声が出てしまって少し恥ずかしかったが、すぐにその思考は吹っ飛んだ。
大祓 巫は本気で締め付けてきているのだ。
苦しさより死への恐怖。
僕の動くのどぼとけが、大祓 巫の手に沿ってゴリュッと動くたびに吐き気がした。
「コヤツ殺していいかの?」
大祓 巫が真っ直ぐコチラを見て、僕ではない誰かに聞いた。
僕に聞いていないと言う事は分かっているが、「殺していいわけあるかっ!」と言いたかった。
言いたかったのだが、その気力ははるか遠くへ。
「チッ」
大祓 巫は一人で何かに納得して、舌打ちもした後に、僕を鷲掴みにしていた手を少し緩め、ゴミをペッと掃うように僕の頭部を投げ捨てた。
投げ捨てた後も馬乗りは継続されていた。
「おい!ちゃんとは見えなかったけど、大祓 巫の中に入っているんだろ!!それと、どいてください」
「コヤツ・・・・お主どこまで知っておるのじゃ?」
『どいてください』という部分は完全にスルーされた。
「まあ、視えてたり視えてなかったり」
わざと相手がイラッとするように、煮え切らない答えを書いた。
「んむぅ?」
大祓 巫がヒロインとは思えないほど顔を歪めて、僕の顔をまじまじと覗いてきた。
クンクン
覗くだけではなく、においも嗅いできた。
僕は、大祓 巫の気味が悪いし、そもそも顔を近づかずけられるのが嫌なので、今、将に大祓 巫を払い除けて逃げたい。
だが、大祓 巫が馬乗りになっているので、金縛りのようになって全く動けなかった。
顔を真近にやられた僕は、大祓 巫の鼻が動物のようにヒクヒク動くのが見えた。
動物のヤツか?
僕は、『視える』のだ。
幽霊が。
見え始めたのは、保育園にいた頃だったらしい。
僕がある日突然、宙を指さして「なにこれ?」と両親に聞いたらしい。
両親は一瞬何のことか分からなくなったが、あぁ雲の事か、と納得し、僕に「あれは雲って言うんだよ」と言った。
「違うよ。人がいるでしょ」
あどけない顔から放たれた純粋無垢な言葉は両親の度肝を抜いて、総毛立たせた。
勿論、宙に人が浮かんでいるわけもなく、先に言った雲の形も人の形や顔を想起させるようなものではなかったらしい。
と、言う話を両親から聞いた。
その話を始めて聞いたのは、小学三年生の頃だった。
こんな話、誰も信じないだろうし、馬鹿にして笑うのだろうが、僕は納得できた。
だって、その当時、しっかりと視えていたのだから。
昔は、この現象の事を気味の悪いことだと思っていた。
それで、この原因を調べようとしたが、どうにもこうにも他人に言えない、言っちゃいけない事だったから結局三時間坊主で止めた。
今となっては、中二心くすぐる現象だったなと思いをはせている。
では、今、視えないのか?と問われたら、違う、と答えるだろうし、視えるのか?、と問われたら、これまた、違う、と答えることになるだろう。
なんだそれ!どっちつかずだな!!
その意見はごもっとも。
そう今の、現在の僕の『視える』状態は、微妙なのだ。
昔の特に全盛期は、霊が視界に入るとその霊の死んでしまった原因とかが脳内に入ってきたりとかして、話したり、最悪触れたり出来た。
それに比べて今の状態は・・・・・・退屈だ。
触れない。ほとんど見えない。一方的に話が聞こえる。
つまらなくなってしまった。
もしこの『視える』状態が衰えたのが、昔無くなってしまえと願ってしまったからだったとすれば、自分の肺に杭を打ち込みたい。
僕がここに着いた時。
大祓 巫のすぐ近くに薄くぼやけた影が見えていた。
僕が丁度大祓 巫の隣を通り過ぎようとしている時に、その影が大祓 巫の中に入って行った。
大祓 巫は『憑りつかれた』
「お主!昔の坊だな!?」
!?
まさかの中身俺と知り合い?
「そうだやはりそうだ!この匂いは間違うはずがない!」
「ちょっと待ってくれ。それって何か俺が匂ってるみたいじゃないか?」
「そうじゃな!」
学校のマドンナの大祓 巫に『臭い』なんて言われたら、恥ずかしさで死にたくなっちゃうだろ。
やめてくれよ・・・・・・・・
「それって、霊的に?それとも人間的に?」
人間的にって言うのもちょっと変だったな。
「霊的にも人間的にもじゃ」
あぁ、オワタ。今日が人生最悪の日だな。
「まぁ、良いやそんなことより・・」
「お主何でここに来れたんじゃ?普通に来るだけじゃここには着かんぞ」
「ん・・・・まぁ」
もう攻撃してこなくなった大祓 巫が上に、僕に馬乗りになっている状態。
ここは天国か?
憑りつかれてるんだろうけど・・・・・・・・
「なんじゃそれ!んむ?・・・・・・・」
憑りつかれた大祓 巫が違和感を声に現した。
「んばぁっ!」
子供の落書きのようにひかれた枕ぐらいの大きさの斜線の塊が、僕の中に入ってきた。
ぐぼんっ
うげ、なんか違和感が・・・っ
「なぁにするんじゃ!!」
ん?
「何でもかんでもありませんよ、九尾様」
大祓 巫は不機嫌そうな顔をして、コチラを見つめる。
そして、見つめながら馬乗り状態を解除して、立ち上がった。
あぁ、大祓 巫は憑りつかれた状態から抜け出せたのか。
「うるさいの!私は、ここの神なんじゃぞ!崇めるのじゃ!!」
じゃあ、今喋ってるの誰だよ?
「一日・・・・・・」
一日?
「はい!すいませんでした」
寝ころんでいた僕の体を瞬時に起こして、土下座した。
僕の体?
「ふっ・・・・・」
大祓 巫がコチラをしたり顔で見てきて、挙句に鼻で笑われた。
「俺の体で土下座してんじゃねぇ!」
『ギャボンっ!』
お、戻れた。
僕の体から強制退去のように追い出された、僕には斜線の塊のようにしか見えない九尾様?は、ゴロゴロと地面を転がって行った。
コイツ、霊じゃないの?
「お前何なんだよ!憑りつかれたのなんか初めてだぞ!」
憑りつかれ処女。
「おや、戻りましたね?」
『手粗いのぉ・・・もっと丁寧に出せんのか!!』
何なんだこいつ、斜線のくせして!
「大祓 巫さんコイツお祓いとかできませんかね?」
「巫で良いですし、敬語はやめてください。同い年でしょう」
心に花が咲いた。
でも、大祓 巫が僕の事を知っていること自体が驚きだった。
「同意です。この神は愚鈍で愚劣で薄ノロで阿呆で馬鹿でホントに要らないです。この立場じゃなかったら、滅殺してます」
やっぱり自分は敬語なのね・・・・・・
そんなことより薄ノロって『薄めたノロウイルス』みたいじゃないか?
じゃなくて!!ナニ?やっぱりコイツ、神なの?
『何なのじゃ!!ワシは神なんじゃぞ!!!』
斜線でも分かる・・・今コイツはふんぞり返って精一杯威張り散らしている。
「貴方にそのような資格はありませんし、正確には神じゃありません」
『うぐっ・・・・地味に傷つくのじゃっ!』
「じゃあ、威張るなよ。肩の荷が下りるぞ」
『餓鬼に諭されるほど腐ってないわ!!』
イラッ
そういうとこだよ
「まぁいいや。お前が頭が凝り固まってホルモンみたいになってるのは分かった」
『なんじゃと!?』
「それでなんだよ。昔の坊じゃないか、とか神とかそうじゃないとか。色々聞きたいことがあるんだけど」
『では供物を捧げよ!』
「は?」
『当たり前であろう!話を聞いてもらうのだぞ!?坊は礼儀を知らんのか?』
まぁ、言ってることは正しいのかな。
でも、今、与えられるものなんて無いからな。
「今、持ち合わせないから今度にしておくよ」
『その右手に持ってるものは何じゃ』
僕の右手に握りしめられていたのは、さっきばかりにケーキ屋で買ったシュークリーム達が入っていた箱だった。
「あぁ、これな」
『それでよいぞ』
斜線がぬるぅと手を伸ばしてきた。
お、好反応。
「いやぁ、さっきお前に押し倒されてぐちゃぐちゃになっちゃったんだよね」
僕はそう言って、その箱を開き、斜線に見せた。
『ス~ハ~ス~ハ~なんと香しい!それで良いのじゃ!それを捧げよ!!』
「えぇ、でもなぁ~~食べれるものじゃないしなぁ~~~」
『えぇい!分かった。私が話すから!!くれ!』
「誠意」
『分かりました!シュアラクレームを私にお恵みください!私に相談に乗らせてください!!』
斜線の塊が更に固まって、ズザーーッと足元に到来した。
「え」
一瞬。
ほんの一瞬だったが、土下座した小さい人成分が多めのよくイラストとかで見る尻尾が九本生えている狐の姿が見えた。
小さいと言っても、幼女的な感じだった。
目をぱちりと閉じて開いたら、元の斜線の塊に戻っていた。
「あぁ・・・・・・」
少しあっけにとられた。
あ
大祓 巫がいるの忘れてた。
存在を忘れてしまうなんて、ファンクラブに殺されちゃう。
恐る恐る大祓 巫の方を見ると、僕が見たのに気付いた大祓 巫が『よくやった』という顔をして、良いねmarkをくれた。
『おい!早く渡さんか!』
「あぁ、そうだな。ホレ」
目をギランギランに輝かせているであろう斜線の塊に持っていた箱を差し出した。
『キャッホウ!久しぶりの菓子じゃ!!』
斜線の塊が、箱を持って飛び跳ねた。
あぁ、さらにぐちゃぐちゃになっちゃうだろ。
「久しぶりと言いましても、四日振りじゃないですか」
『四日じゃぞ!?四日!!気が狂いそうになったわっ!!!』
斜線の塊がまた、ロリ九尾になった。
そのロリ九尾は、口からつば飛ばしながら一生懸命に訴えていた。
ズギィン・・・・・ズギィン・・・・・・・・
脳の中身がジュクジュクと広がるような痛みが波のように襲ってくる。
世界がぐにゃりと揺れた。崩れた。
ドっ!
あれ?俺今倒れてるのか?
「大丈夫ですか!?」
大祓 巫が駆け寄って、僕の安否を確かめた。
『おぉ~~どーしたんじゃ~~?』
ロリ九尾である斜線の塊が、僕の顔を覗き込んできた。
コイツに心配されるとか、むかつくな。
ていうか、こいつ煽ってきてるだろ?
「いや、大丈夫」
漬物石を全身に敷かれたように重い身体を半分起こして、俺はそう言った。
『そんなにこれが欲しかったんじゃな?』
「いや・・・・」
ちげーだろ。
シュークリームが欲しすぎて倒れる人なんていないだろが。
「そうだったんですか?」
「ん・・・・まぁ・・」
大祓 巫に聞かれたら、どうにも反論ができない。
『だったら、あそこで食べようではないか!』
「あそこですか?」
『うむ!では先に行って待ってるぞい!!』
石畳の脇に生えている木々の方に、斜線があっという間に行ってしまった。
「走らないでくださいよっ」
『うむ~~!!』
森の方から返事が聞こえた。
「では、行きましょうか」
大祓 巫がこちらに手を差し出してきた。
「ども」
ロリ九尾が言ってた『何処かに』行く事になった。
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