狐と女神とシュアラクレーム(前編)
この話はまだ本編じゃない。
本編に至るまでの経緯。
こんなことがあったのかもしれない話。
「クソ・・・」
ズッ・・・ハァ・・・ズッ・・・ハァ・・・
石階段を昇る際に靴が擦れる音と、自分の吐く息だけが、脳の中でゴムボールが反射し続けるように繰り返し響いた。
「クソ!!あ゛~~~~~~~・・・・・・何でこんな所に来ちゃったのかなーーー!!!!」
山の中腹辺り。
長い長い石階段の左端の方。
そこで僕は終わりの見えない階段の先を見つめて叫んだ。
しかし、もう一人の冷静な僕は、『疲れが過ぎると幻覚を見る』と言うけど僕は見るのかなぁ、なんて悠長なことを考えたりしていた。
何でこんなことになったのか。何でこんなことになったのか?
俺の方が聞きたいわ!
~~~3時間半前~~~
7月12日
快晴 24.5度 湿度は忘れた
「じゃあ、今日はここまで!質問あるヤツは後で来い。解散!」
ガラララ
『朝から補習』という極めて地球を滅ぼしたくなるような憂鬱なスケジュールをこなした後、僕は一旦帰宅することにした。
因みに、補習って言うのは期末テストの補習ではなく、自主的に(*半強制的に)取った補習だから勘違いしないでくれ。
僕の家は、学校から歩いて数分と言う好立地の一軒家だ。
まぁ、普通で平凡で何ら変哲もない、思春期の残滓が残る僕にとって余り良いモノとは思えない家だった。
だからといって、うねうねしたような奇抜で奇妙で奇天烈な家に住みたいかと言えば、違うのだからめんどくさい。
ガチャ
バタン
親から小学六年生の頃に渡された合鍵を使って、自分ちに入った。
案の定、誰もおらず家は静寂を極めていた。
『Turn off』になっていた家の居間の電気をつけて、テレビの電源も点けた。
どうにも面白くないワイドショーが映し出された。
けど、毎日同じようなことの繰り返しを強いられているこの人達には敬意を示す。
乙。
ゴッ
冷凍庫の奥の方に置いてあった冷凍チャーハンを出して、電子レンジにぶち込んだ。
出来上がりまでの間、期末テストのせいで見れないまま取り溜めておいたアニメを見るように準備を進めた。
ティン!
チンしたチャーハンを器に移し替えた。
冷凍食品を食べてしまうという罪悪感が少し和らぐから。
と言っても、いつも食べているわけではないんだけどな。
ピッ
アニメを再生した。
僕が予約していたアニメは色々あるが、見たのは夏っぽい青春なラブコメのアニメだった。
一話見て、二話目の突入してその半ばぐらいにチャーハンを食べ終わった。
近頃の冷凍食品は美味しいな、と昔の冷凍食品を知らない僕はそう思った。
二話目も見終わって、僕は運動をしたくなった。
『したい』というか『しなきゃ』という危機感に近いものだった。
部活もやめてしまって、こんなぐーたらな日々が続いてしまったら、夏休み明けにはアメリカンなデブになってしまうのは必至だろうから。
だからといって、わざわざスポティーな服を引っ張り出してジョギングするほどでもなかったので、制服のまま出ることにした。
ガチャ
バタン
流石に学校指定の革靴だと走りにくいし、壊れてしまうから普段よく使うスポーツシューズで出掛けた。
気まずいから同じ学校のヤツに会わないことを願って。
山が360度囲んでいる。
この街は非常に面白い形の地形の上に成り立っているらしい。
地理の先生曰く、こんなに大きな窪んだ土地が普通は無いらしい。
文献とかで色々この地形にまつわる事が書いてあったりとか、それが正しいのかどうかとかウンヌンカンヌン。
まぁ確かに今一度見てみると、面白い地形ではある。
一度grugluマップで見たのだが、ほぼ真円の窪地なのだ。
どう出来たのかは地質学者とかが調べるべきなのだろうが、ついついなぜできたのか考えてしまう。
タッタッタッタッ
ジョギングと歩きの間位のスピードで運動していると、親がひいきにしている電気屋さんが目に入った。
その電気屋さんの主人と家の父が同級生だったか幼馴染だったかで、家の家電とかを揃えてもらった、と言う話を小耳にはさんだ。
その電気屋さんの中に、その人がいないか何となく気になって覗いてみたが、壁とかの構造的に見えるような感じではなかった。
覗き込んだついでに見えたのが、その電気屋さんの隣りに建っていた洋風の家だった。
その家は僕の家とは違って、非凡で、走っている僕の目を引き留めてしまう程の禍々しさを放っていた。
『見えた』というよりは『見させられた』と言う感じで、不思議な引力があった。
外国のB級映画に出てきそうな鉄製の高い格子がその家を囲んでおり、その中はツタとか何んやらでうっそうとしていて、晴れているのにそこだけ夜みたいに影が落ちていた。
「魔女でもいそうだな」
でも、前からここにあったかな?こんな家。
こんな家って言うのも失礼だった。
まぁ、こんなにうっそうとしているのだからある程度昔からあったのだろう。
それより走らなければ。いったん止まってしまうと、呼吸が苦しくなってくるからな。
まぁとりあえず走った。
いや、まぁ、スピード的に言えば走ってはいなのだがな。
あの不思議な家から結構離れた所で、僕は走るのを止めた。
「はぁ・・・はぁ・・・・・」
疲れた。
ちょうど近くにあった自動販売機で、『綾鷲』を買って飲んだ。
緑茶は好きだ。
何て言ったって渋くて、あったかくても冷たくてもスルスル喉に入って行き、潤してくれる。
逆に、ティーは嫌いだな。『午前ティー』とか。
甘すぎるよ。甘いのが飲みたかったら、『四ツ矢』でも飲んどけばいい。
後、タピオカは嫌いだな。缶に入ってるやつに限っては。
前に缶に入っているタピオカミルクティーなるものを買って飲んでみたのだ。
『カエルの卵』
一番最初に脳内に浮かんだイメージだった。
それ以来、タピオカは口に入れていない。
ングッ・・・ングッ・・・
ある程度疲れていたし、チャーハン食べてる時に水分らしい水分を取らなかったので、僕は『綾鷲』を三口で飲み干してしまった。
ガコッ
カッ・・・コンッ
空のペットボトルを自販機の伴侶のように寄り添うゴミ箱に投げた。
が、外れた。
これからの僕の未来を表しているようで、少し怖かった。
大学受験とか、ね。
ガコン
さっき投げ地面に転がっているペットボトルを拾って、今度はしかっりとゴミ箱にダンクシュートを決めた。
今度目に入った物は、ケーキ屋だった。
こんな所にケーキ屋があるなんて知らなかった。
だってここに来るのが初めてで、半迷子みたいになっているから。
まぁ、スマホがあるんだから大丈夫なんだけど。
取り敢えず、ケーキ屋で何か買って帰ろうか。
カラン
色々な種類のケーキ。
知らないケーキも、よく見るケーキも、どれもこれもキラキラと宝石のように輝いているように見えた。
走って腹が減っているという事もあったのだろうが、普通こんなに美味しそうに見えるか?
あ、ここのケーキは単純においしそうなだけだわ。
カラン
「ありがとうございました~~!」
背中によく教育された定員さんの挨拶を受けながら、そそくさとケーキ屋から撤収した。
勝ったのは『シュークリーム』六個。
自分の分。妹の分。両親の分。
多くない。ぴったしだ。
残りの二つは・・・・・・・・(ソウダ)お供え用だ。
僕用では、多分違う!
シュークリームの入った箱を持ちながらフラフラと帰り道をスマホで調べながら歩いていると、綺麗な黒髪をなびかせながら女神と遭った。
遭ったと言うのは少し違うな。
一方的に見た、って感じ。
勿論、女神の大祓 巫はこっちを見る素振りは一切していなかった。
大祓 巫の姿は、僕と同じ学校の制服だった。
勿論、女子用の。
僕のは男子用。
その大祓 巫は、スタスタと曲がり角を曲がっていった。
少し後をつけて、曲がった角を覗いてみると、大祓 巫が石階段の前で準備運動をしているのが目に入った。
次の瞬間。
ドヒュン!
長い長い石階段を大祓 巫は四段飛ばしでピョンピョンと駆け上がってしまった。
ビッビ~~!!
その光景が信じられずポカンとしていたら、車にクラクションを鳴らされた。
僕が避けて、車が行った後、石階段に恐る恐る近づいた。
『苦吐階段』
階段の入り口のど真ん中にひょっこり生えたような石の柱にそう書いてあった。
誰が考えたのか趣味が悪すぎるだろ、コレ。
上を見上げると、石階段が天高く山の頂点まで続いていた。
この山の上にある神社は、この街のシンボルみたいな物である。
この街の地形は、言った通り円状に窪んでいる。
そのちょうど真ん中、円心の所に天麩羅に付いてくる大根と生姜の塊のように山が聳え立っている。
この街のシンボルと言ったが、この神社は全くと言っていいほどシンボルの役割を果していない。
誰も行ったことが無いのだと言う。辿り着いたことが無いのだと言う。
それは何故か?誰も知らない。
存在は信じられているが、誰も見たこともないし行ったこともない。
もうその神社は、この街のシンボルではなく、都市伝説に近いものになっていた。
この日の僕はどこか狂かったのかもしれない。
急に運動がしたいと、いつもはしないジョギングみたいな事をして、知らない場所に出掛けて、知らないケーキ屋に寄って、シュークリームを爆買いして・・・・・
兎に角、今日の僕はどこか違った。
その都市伝説を前にした僕は、この階段を昇ろうとした。
本当かどうか確かめたいという気持ちは少しは有ったが、大半は『良い景色を見ながら食べるシュークリームは美味しいのか』という事を確かめたいと言う気持ちだった。
TVとかでよく見る『こんな良い景色で食べると更に美味しいですね~~!』っていうコメントの真偽をいつも考えていた。
景色でうまみ成分が変わってくるなら、テキトーにVRでもかぶせておいて、良い景色を映しておいたらそこらのコンビニ飯を提供しても、評価が上乗せされて星4ぐらい貰えるのだろう。
それは違うか・・・・・うん・・・・・・
ズッ・・・
石階段に一歩乗せた。
~~~今に至る~~~
「クソクソっ!」
汚い言葉がダムが決壊したようにドぅルドぅル口からあふれ出てくる。
人生で一番暴言を言った日になりそうだ。
記念日だね。
「クソ!!」
クソクソ言いながらも、石階段を昇っていく。
そう言えば、この階段の名前・・・・・・・・
『苦吐階段』
少しゾッとした。鳥肌が立った。
『苦』は罵詈雑言の事で、『吐』は言葉で出す。
「ハハッ」
いやぁ、まさかね・・・・・
でも、もし、製作者の意図がそれなら実際に意図通りになってしまっていた。
それは何か癪だった。
それから15分か30分か正確な時間は分からないのだが、兎に角、無我夢中に階段を昇っていると、心が段々と澄んでいくのが分かった。
丁度それに差し掛かって、あっさりと頂点に着いた。
ヘトヘトになりながらもだが、頂点に着いたことは達成感があって良かった。
階段を登り切った先には・・・・・・・・
「え?」
巫女姿の女神が、大祓 巫が、竹ぼうきを持って、石畳を掃いていた。
つい出てしまった声を取り戻そうとするように、口を右手で塞いだ。
僕は、そのまま『良い景色を見ながらシュークリームを食べる』という目的を達成するために、ノソノソと石畳を進んでいった。
お賽銭を入れるために。
と言ったものの、大祓 巫に近づいてみたかったってのが本音だった。
するとこちらに気づいた大祓 巫が見つめてきた。
自意識過剰かもしれないが。
「猫飼君?」
え、僕の名前を?
真横
ちょうど、ホントに丁度、大祓 巫の真横を通った時。
チラリと大祓 巫の顔を見てしまった。
男としてはしょうがなく、こんなに可愛い娘がいるのに見ないと言うのは逆に失礼にあたる、と本能的に見てしまった。
それが逆に功を奏した。
目の色を変えた彼女が僕の顔めがけて、掌底を突き出してきたのだ。
意味が分からない。
何のために。
イライラしたから?俺の顔が気に食わなかったから?何か嫌な事でもあったとか?生理とか?
ゴッ!
考えはまとまらず、取り敢えず避けようと努力はしたものの、その大祓 巫の一撃は僕の顔の芯を捉えて、体ごと吹き飛ばした。
その格ゲーのように飛ばされた体は、ドシャと地面に叩きつけられた。
「カハッ・・・・・」
ろくに喧嘩もしたことのない僕には、衝撃的だったし、ショックだったし、美少女にぶっ飛ばされるたりさせられて新しい扉が開いてしまいそうだった。
倒れている僕に、大祓 巫は馬乗りになって、腕を振り上げた。
あ。
流石にヤバイ。
でも、美女に馬乗りにされて殴られて死ぬんなら別に悪くも無いと思った。
僕は、目を閉じた。
ドゴッ
明日も投稿するので是非読みに来てください。
もしよければ、評価ください。
さらにもしよければ、感想ください。
僕にもこんな夏休みが訪れればいいのに・・・・・・・・・・・・