始まりのオッサン(神)
この話は少し前に書いた物の改訂版です。
楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。
もし良かったら評価ください。
目の前に入ってきたと思えば、一瞬で端にはけていくボヤ~とした光を放つ窓々。
次から次に繰り出され、タンッタンッと軽機関銃のように音を出し回転数を増していく俺の乳酸が溜まった脚々。
口の中でベタベタと張り付くようにまとわりつくように存在感を遺憾なく発揮している唾や痰達。
そして、後ろから絶対に全力でなく追いかけてきているのに何故か差が開かない、薄青とスカイブルーの縦のボーダーの上に青い空に雲が浮かばされた薄手のパーカーに紺色のズボン、そして革靴を着ているオッサン。
確実に案件なこの状況に陥るまでの手順を教えよう。
―――――――――――――――――――――
ミンミンジーワジーワジョワジョワーーーー
セミたちの大合唱に包まれながら誰も、生徒も、通行人もいない通学路を人肉を求めるゾンビのように並木道の端の方進んでいく。
「あ~~・・・温暖化か~~~~」
今日の天気は、空の蒼が僕の身体を劈くような快晴中の快晴。
雲一つなくボーっと立っているだけで人間の丸焼きが作れてしまうような34度。
神のおこぼれかのように少しだけ風が通っているのが救いだ。
それにしても、34度より暑く感じるな。
「絶対セミのせいだ」
セミがいるであろう木を睨むのだが嘲笑うかのように鳴き声が増された気がした。
・・・睨んでセミが黙る能力・・・とかあっても使い道無いな・・・・・
あぁ、馬鹿馬鹿しい。能力とか馬鹿馬鹿しい。
こんなこと考えてしまうなんて俺の頭はおかしくなっちまったのか?
「・・・」
おかしいのは元からだった。間違いなく。
そんなことより、何で僕は学校に向かっているんだっけ?
「アハッ・・・」
ほら、もうおかしかったw
熱中症気味なのかな?学校着いたら食堂にでも行って飲み物買うか。
思い出した!置いてきちゃってた教科書を取りに来たんだった。
学校の冷房効いてるかな~~?効いてなかったら急がず焦らず走らずに真っ直ぐに教科書を奪取して帰ろう。
肩も何故か痛いし。
スマホによる目の疲れか暑さにまいってしまったのか最近肩が痛いのだ。
痛いと言うよりは動かしづらいみたいな?
学校の正門が視界に入ってきた。
徒歩15分の所に住んでてよかった、と久しぶりに思わされた。
ジリジリ・・・
守衛とかが当たり前のようにいないセキュリティガバガバの門をくぐり抜けて、体育館の横を通った。
体育館から弾性が強い茶色のボールが何個も弾む音がした。
俺も昔やってたな、バスケ。
今となっちゃ技術もクソも無くなってるだろうけどな。
そもそも論で、元から技術もクソも無かったからな・・・
誰一人としていないバスケ経験者、教えてもらった作戦は通用せず、キャプテンも最後らへんはやる気が無い。
どうだ?面白そうだろ?
僕なんか最初の練習試合でディフェンスのやり方が分からなくって先生に泣きついたくらいだったからなw
どれもこれも今となっちゃ全部いい思い出だけどな。
そんな回想は置いといて、僕は自分のロッカーがあり中への架け橋的な感じになっている第二のガラスの扉に到着した。
キィー
それを開くと少し涼しい空気が僕の身体の表面を駆け巡った。
少し肩の違和感が緩和された。
「うひょ~~~~」
きんもちよかった。
沸いてた汗が一気に引っ込んでいくのが分かった。
快感にも似た涼しさを全力で体で受け止めながら、自分のロッカーの前に移動する。
暗証番号は”0130”
飼い猫の誕生日だ。
僕の学校は上履きに指定が無いので、僕はアシックスの青色の靴をいつも履いて移動している。
その靴をロッカーから出して、履いて、教室に向かっていく。
僕の教室は三階に存在する、ので大変かと思われると思うが、僕の学校にはエレベーターが存在するのだ!
勿論、いつもは使用を禁止されているのだが・・・今日ぐらいはいいだろ?なぁ?
上ボタンを押してエレベーターが来るのを待つ。
ピーーン
周りを警戒するが、全く教師の気配、もちろん生徒のすら無かったのでそのままエレベーターに飛び乗った。
3のボタンを押して
1・・2・・3
ピーーン
はい、着いた。
教室の中は暗闇に包まれていたが、光がチラチラと動いていた。
どうやらカーテンから光が漏れ出しているようだった。
ガチャ!
お約束のように扉には鍵がかかっていた。
「・・・」
鍵を取りに行くことになった。
鍵が管理されているのは2階の教員室の中なので仕方なくエレベーターで2階に行くことにした。
ピーーン
職員室にはポツポツと光が付いてたり付いていなかったりしており誰かがいるようだった。
居るとしたら誰なのだろうか。高校一年の先生がいないように・・・・・・
ガラガラ
「うおっ」
肩が一気に軽くなった。
今なら肩が外れて飛んでいきそうなぐらいだな。
それじゃダメか・・・
扉を開けて数歩中に進んで、すぐ左側には、始業式でお辞儀をしてハゲとズラがばれた小倉教頭がいつもめげずにズラを付けて座っている椅子があるのだ。
あるのだが・・・今回は、七三分けが崩れたみたいな髪型の知らないオッサンが机にかかとを乗っけて極道のボスみたいに座っていた。
そのオッサンは、教師とはあんまし思えないような格好をしていた。
新任の教師とかかな?でも、こんなラフな格好して良いのかな?
オッサンは全体的に青っぽい服装であった。
それでもやっぱりおかしくね?教頭の机のとこ明かりついてないし、普通座っちゃいけないもんじゃないのか?
ぺこり
教員室に大人がいるから、反射的に頭を下げてしまった。
ちゃんと顔を見てみると、ジーーーッとこちらを見ながら、タバコを加えていた。
マジか。今時喫煙かよ・・・
初見のオッサンを横目に鍵が置いてあるところまで行く。
因みに、明かりがついている所には先生がいたのだが、暑さにやられてか、ボクの受け持ちではないからか、まったくこっちに見向きもしなかった。
ガラガラ
鍵を手に入れた僕はエレベーターに向かう。
ピーーン
夏休みだからかすぐに僕のいる階に来てくれる。
それに乗り込んで、一個上の階に向かう。
ガチャリ
ガラガラ
横に動かして開けるタイプの扉を開いて、すぐそこにあった電気のボタンを押した。
別に明かりは無くても良いのだが、やはり・・・闇は怖いからな。
自分の席にはやはり、夏休み中の必要な書類やらなんやらがごっそりと入っていた。
それを肩に下げていたバックの中に詰め込んだ。
ぐぅ~~~
腹が減ったわけではない、エアコンに当たりすぎたことで腹の調子が悪いのだ。
バックを置いて、僕の教室のすぐ近くにあるトイレに逃げ込んだ。
ジャ~~~~~~~~~
「は~~~そんなに出なかったな」
僕は便秘がちなのだ。
でも、一時だけゆるゆるの時があったな。たしかグミにハマった時だったよな。
ま、そんな僕の腹事情をお伝えしなくても良いんだ。
ついでに鼻でもかんでおこうか。
カラカラカラ
巻き取ったペーパーを鼻に当てる。
「すぅ~~」
コツコツコツ
誰かが歩いている音がしてきた。
ズビーー
僕って年がら年中花粉症だからな~~、これホントだよ?なんかブタクサとか杉とかがいい感じに重なり合って年がら年中くしゅんくしゅんとする羽目になったのだ。
コツコツコツコツコツ
更に音が近づいて、どうやら僕がいるトイレに入ってきた。
え?誰かいたの?
コツコツ・・コツ・・・
音が僕のいる個室の目の前で止まった。
どうやら誰かがいるらしい。多分。
多分ていうか絶対かな。俺が幻聴を聞いていない限り、だが。
夏休み、誰もいない学校の小の方も大の方もガラガラのトイレに、しかも、ちょうど僕がいる階の僕がいる個室の前で立ち止まった。
「うう゛ん!」
咳払いもした!
「あ~え~~君なんで僕の事見えたのかな?」
喋った!てか・・・あれなのかな?
「まぁ、知ってるんだけどね、神だから。視えるんだろ?えっと~~視えるって言うのは魑魅魍魎の類のこと・・・」
ベギィ!
僕は全力でドアを蹴飛ばした。
「な゛!」
脅しのつもりだったのだが、音だけでなくドアも、その喋っている誰かに当たってしまったようだ。
ま、この時点で確実に不審者だからいっか。逃げるか!
「すいませんでした~~!!!」
チラッと誰かの方を見るとさっき、今さっき見たことのある青っぽい色の服を着ていた。
ダッシュで教室に置いてあったバックを回収して、ロッカーに向かおうと階段に差し掛かった所でトイレから出てくる職員室で教頭の机に座っていたオッサンが目に入った。
何も考えずに唯々真っ直ぐにロッカーに到着するように階段を駆け下りた。
ロッカーに到着して、オッサンが居ないことを確認して、外履きを履く。
そのままガラス張りのドアを開けて、肌で外気を感じると、また涼しい空気が肌を滑り抜けた。
「は?」
外に出た・・・いや、出たんだ・・・暑苦しい空気もしっかりと感じたんだ?じゃあ今なんで校内に居るんだ?
外に出たはずが学校内にいることになっていた。
元からそこにいたかのように。
階段の階の標識を見ると、僕の教室がある3階だった。
奥からオッサンが近づいてきた。
「ちょっと待ってくれよ。君と話をしなきゃいけないんだ。君の肩こりも治す方法を知っているんだぞ?あれ?」
オッサンの目の前からもう僕は居なくなっていた。
肩こりのために知らんおっさんの施術受けるわけねーだろ!
その頃の僕は廊下を駆け抜けて、階段に差し掛かっていた。
またロッカーに向かっていった。
一回ダメだったからと言って、二回目がダメだとは限らない。
実験は何回も行うものだからな?
タッ・・ズドン!
めんどくさいっていうか、先を急ぐので、階段を全部飛び降りる。
タッ・・ズドン!タッ・・ズドン!タッ・・
「あ?」
階段の踊り場にあのオッサンが立っていた。
もう飛んでしまっていた僕は、空中を移動できる能力とか持っていないので
ズドン!
と、そのままオッサンがいる踊り場に降り立った。
瞬間、クルリと方向を変えて、上に向かって残り少ない体力で登っていく。
それにしても、あのオッサンどうなってんだよ?
先回りも先回り過ぎないか?さっき外に出たと思って戻された?時にいた場所は廊下の真ん中あたりで、オッサンは僕のことを追い抜かしたりしていないから・・・真反対の所にあるもう一つの階段から降りてこっちに来たって言うのか?中年のおっさんが?
いや、まぁ確かに痩せてて少し中年ってイメージとは違うのかもしれないけど、流石にそれは出来ないだろ?
そんな早業出来るのなんて、日本で数名ぐらいなんじゃないのか?
その数名にあのオッサンが入っているとは到底思えなかった。
走りながら考える。
さて、どうしようか。たとえ逃げたところでこの学校という狭い範囲での逃走中なんて視聴率が高まるわけがない。というのは冗談で・・・どこに逃げたらいいんだ!!
まぁ、取り敢えず走ってみる。
こんなに全力で廊下を駆け抜けたことが無かったので初めて分かったのだが、気持ちいいんだな。
しちゃいけないことを・・・まぁ、普通に走ったりとかしてるけど、持てる力を尽くして走るのは、理性と行動が相反していて僕のまだ知らない何かがくすぐられるようで快感だ。
「ハァ・・・ハァ・・・!!あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ~~~~」
体力の衰えが隠せない!
と言っても、やっぱり高校二年の基礎体力にあんなオッサンが勝てるわけ無いよな。大丈夫だよな?心配になってきたぞ、ここんところホントに体力落ちてきてるからな。
「ねぇ?そろそろこの追いかけっこも飽きてこない?」
「うひょ!」
僕の顔の隣りには崩れ七三分けのオッサンの顔があった。
遠くにまた別のおっさんの姿が確認できた。
もし、変質者の仲間だったら・・・最終手段の拳で語るしか・・・・
そのもう一匹のおっさんに距離を縮めていく。
あ、警備員さんじゃねぇか!
ていうか、この学校に警備員なんていたのか!!
「け~~びいんさ~~ん!!このすぐ後ろに付いて走っているオッサンどうにかしてください!!!変質者です!!」
警備員さんにヘルプを求めたのだが、『はて?』みたいな顔されて終わった。
「見えないんですか~~!?!?」
通り過ぎながら聞いたので二つ目の返答は聞けなかったし、顔も見えなかった。
が、どうせぽかん顔は変わらなかっただろうな。
こうなってくるとこの並走してくるオッサンの『神』って言う言葉は信じられないけど、『魑魅魍魎』だって言うのは納得がいく。
じゃあ、どこ行っても逃げ場ないじゃん!
そうだ、屋上に行こう!
さっきの警備員さんみたいに『なんだこいつ』みたいな顔されたら、心がポッキーだからな。
ダダダダダダダダ!!!!!!
階段を一段飛ばしで駆け飛ばしていく。
尚もオッサンは追いかけてくる。
何故か笑みを浮かべながら。
屋上の扉の前にエネルギーを保存しながら、辿り着くが、どーせ扉は開いていないと思ったが、一応ドアノブを回して体当たりしたら普通に開いてしまい、勢いのあまり前のめりになった重心を瞬時に戻すことができず、落下防止のフェンスにぶち当たった。
ガシャンッ!
「クソ・・・・あちぃ」
オッサンが、遅れて屋上に到着する。
横たわっている僕に一瞥をした後、蒼蒼しい空を眺めた。
「うげぇ、確かにあっち~な」
「おい。アンタなんなんだよ」
オッサンは上を眺めながら、生えている無精ひげを撫でて、こちらに目を向けた。
「キミは、魑魅魍魎や神の類が見えるね?」
「・・・・」
「全部知ってるんだから、黙ってても意味がないぞ」
「あぁ、見える」
~~~~~~~
小さい頃から、僕には『幽霊とか』が見える。
ぼんやりとではなくハッキリと。
しかも、その幽霊がどうやって生まれたか・・つまり、『どうやって死んだのか』という情報が頭の中に入ってくる。
まぁ、見えるだけで触れたり、逆に触られたりとかされないし、[ハッ!!]とかやって祓う事も出来ない。
どうしてこんなに要らない能力が手に入ったのか、理由も原因も知らない。
この異変に最初に気づいたのは幼稚園生の時だった。
その頃、ある日から結界を破ったかのように見え始めた。
それを心の内に留めておくことは小さい頃の僕にはできなかった。
それを言われた先生の反応は言わずもがな、だろ?
ま・・・・この事は物心ついてから親に言われるまで忘れていたんだがな・・・
~~~~~~~
「知ってたよ」
「なら聞くなよ」
幽霊のおっさんにドヤ顔されてむかついた。
「そうだ!」
オッサンが何か思いついたらしい。
胸ポッケに入っていたタバコの箱から一本取り出して、僕に差し出した。
「いるかい?」
「いらねぇよ。見ての通り高校生だ」
「・・・・」
オッサンはニヤリと微笑んだ。
「これココアシガレットね?」
よく見ると箱にもココアシガレットと書かれていた。
尚も僕に渡そうとしてくるココアシガレットを振りほどいた。
「暑くて口の中のコンディションが最悪だし・・・そこまで、ココアシガレット好きじゃないから」
オッサンは、そうかいと言って、差し出そうとしたココアシガレットを口に運びタバコのように加えた。
「まだ急がなくても良いか」
とも呟いた。
閑話休題
「あ」
「なんだい?」
「アンタ幽霊なんだろ?見た感じ悪霊的な奴じゃなさそうだけど。あと、さっき触・・・・」
「悪霊!?」
いや、どこに引っかかってんだよ。
「このオレが悪霊ぉ??ふざけるのもたいがいにしろよ!さっきの逃げるのもそうだし、キミは一体何なんだ!!」
確かに悪いことはしたのかもしれないな・・・・と欠片も思えなかった。
が、話が進まなくなりそうだったので謝ることにした。
「あーすまん(棒)」
「許す!!」
「許すんかい!!」
「そりゃ神だからね、懐が深いんだよ」
棒読みで許してくれる神って・・・・
「まぁまぁ、そんなコッタで話を戻そう」
「あぁ、そうしてくれ今にもこの暑さで昇華してしまいそうだ」
パチンッ
オッサンは急に指パッチンを一つ繰り出した。
「・・・・ん?なにし・・・」
ザザザァァーーーーーーーーッッッ!!!!
土砂降った。
「どうだ?これで暑さもしのげるし、オレが神って言うのも信じてくれたんじゃないかな?それに、ココアシガレットも食べれるんじゃない?」
オッサンはニヤリと微笑んだ。
快晴につく快晴という雨を連想させることを叶わせないような天気だったのにも関わらず、雲が示し合わせたように体操みたいに集まって雨を降らせたとなると・・・・そうなると・・・・
「・・・・」
「えっ?なんだって?」
どこかのクソ主人公みたいなこと言うなよ。
「だから!信じるって言ったんだよ!」
「ど~も~」
と言っても、8割だけだが。
雨が僕と屋上を叩きつける中、話は進んで行く。
「んで、キミの肩こりの事だっけ?」
「いや、こっちが聞きたいんだが」
後、肩こりじゃない。この年で肩こりはないだろ。
「キミ魑魅魍魎見えるんだよね?」
「見えるって言っただろ?」
「じゃあ最近鏡見た?」
家の洗面所には大きな鏡が存在している。
嫌でも毎朝見ている。
「毎日見てるが?」
「じゃあ・・・・知性はある・・・・二かな」
オッサンが荒ぶる空を見上げながらブツブツと何かを呟いた。
雨音で良くは聞こえなかった。
「肩についてるよ」
「ついてる?」
「憑く、ね?妖怪が憑りつくの憑く」
「え!?」
慌てて肩を見てみるが、何もいなかった。
「居ないじゃん」
「いや・・・・いるんだけど・・・・そこまでの目じゃないってことか」
またぶつくさつぶやいた。
「なんだよさっきからブツブツ。それにそこまでの目とかなんだよ」
「・・・・ま、神にできないことはない」
オッサンが、加えていたココアシガレットを人差し指と中指で挟み口から取り出した後、僕の肩をポンと払った。
「なんだよ?それに無視すんなよ」
「動かしてみ?」
また無視かと思いながら、肩を動かしてみると、滅茶苦茶に肩が軽くなっていた。
職員室に入った時みたいだった。
「もしかして僕が職員室に入った時もなんかしてくれたのか?」
「いや?何もしてないけど・・あ~~今払ったのがオレの神力にビビったんじゃない?」
『かみりょく』ってなんだよ、『しんりき』とかじゃないのか?
「ん・・・・まぁありがとう」
「いや、神って言うのは本来こういうものであるべきなんだ」
何か愚痴を言い始めた。
ここは居酒屋でもないのに。
「他の神はさ人には手を貸さないって言うのが、美徳って考えてるけど、貰った信心とお賽銭のこと考えたら何かしてやらないと、ってね」
それから一息吸って、続きを放そうとし始める。
別に神事情はあんまり興味が無い。
「あの~~~、もう帰っていいか?」
そう聞くと、オッサンは少し目を細めてこっちをジッと見つめた。
流石に失礼だったかな?
「ま、そうだったね。人は神に何でも願うけど、神に興味は何にも持ってないもんね」
「あ~~~」
ヤンデレみたいだな。
「申し訳ないな(棒)」
「いや、それが正しいよ。今の時代に神が自然界のヒエラルキーの一番上に存在するなんて本気で思っている人なんて極稀だからね。それに、一番上にいたとしても、特に人間に影響は及ぼせないからね」
オッサンはそう言って鼻で笑った。
「は?それじゃあさっき言ったことは何だったんだよ」
「心意気・・って所かな。実際に何するとか言ってないだろ?勘違いすんなよ」
たじっ・・・・
オッサンの言葉には少し怒気が混じっていた。
「君は思い込みが激しいなぁ・・・・今の事も然り、肩こりの事も然り、ココアシガレットの事も然り。いつからテメェの目線が『真実を見ている』目線だと勘違いしたんだろうね?」
オッサンはそう言い終わると、にっこりと笑って更に話を続けた。
「思い込みって言うのは人をも殺すから気を付けておいても損はないんじゃないかな?」
パチンッ
またオッサンは指パッチンを一つ繰り出した。
すると、雲達が、雲の子散らすようにどこか行ってしまった。
最初からいなかったように。
オッサンは何かを考えている素振りをしている。
が、すぐに持ち直して話し始めた。
「ん~~~!帰っていいよ」
何がオッサンの後ろ髪を引いたのかは少し気にはなるが、またギンギンな陽射しが突き刺さったので、真っ直ぐ帰ることにした。
扉の前まで到達したときふと疑問がわいた。
「あ」
「なんだい?」
デジャブだ。
「さっき神は人間に手出しできないみたいなこと言ってたけど、何で雨を降らせることができたんだ?」
「キミは揚げ足を取りたがるね~」
「いや、揚げ足を取ろうと思ってやってるんじゃないけど、ただただ気になっただけだ」
少し遠くの方でオッサンが頭を掻いて、その後めんどくさそうに口を開いた。
「この土地を私の直属に支配できる土地として決定した後、簡易的な現実との切れ目を作って、現実には問題が起こらないように相違の壁を生成して、中で雨を降らせたってわけ」
「それって・・・・」
「俗にいう結界、ってやつかな?」
「そりゃいいや」
ドアに手をかけて
もう一つ質問。
「何でココアシガレットなんだ?」
「禁煙」
神も禁煙するらしい。
ガチャ
ーーーーーーーーーーーーーーーー
コリッカリッ
僕の学校の屋上の出口のドアの設計上もっこりするしかないコンクリートの塊の上で座って、神オッサンが銜えたココアシガレットを上下させていた。
そのオッサンの目線の先には学校を出た僕がいた。
「はぁぁぁぁ~~~~~~~~」
オッサンは深くため息をついた。
「言えなかったな~~~」
オッサンは両腕を胴より後ろに支えとして置いて、ココアシガレットを上下させたまま、空を仰いだ。
「これから君には辛いことがあるかもしれない・・・・っていうか、あるんだけど、何も出来ない神ながらに君の幸せを願っているよ」
バリッゴリッ
オッサンはココアシガレットをかみ砕いた。
ココアシガレットそんな好きじゃない。
何でも知ってそうなオッサンキャラが好き。
エヴァのかじさんとか、物語シリーズのメメさんとか。