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第48話「解放」

 ダリオス・シートン――俺達蒲森区の中高生に対し旭日の名を騙り、殺し合いを強制した元錬金術師の神が消滅してから、一週間が経過した。


 かのクソッタレな前神は、自らの神としての終焉と共に、溜め込んでいたその全てを吐き出した。

とりわけそのうちの二つは、人間界に大きな変化をもたらした。


 一つは、蒲森区の中高生たちの精神。

 〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉にて(審問の篩(アイン・ジープ))への参加を余儀無くされ、脱落していった敗者達。

 旭日が一時保管していた彼等の魂は、旭日の神としての死と共に、崩壊する神殻の内より漏れ出し、人間界の元の肉体へと吸い寄せられていった。


 本調子には程遠い者、未だ目を覚まさぬ者も多いが、そのほとんどは快方に向かっていた。

 ネットでは『世界の終わりの始まりの終わり』と称され、患者達の生還の祝福と、非日常の終焉への嘆きが入り乱れる、悲喜交々の声が寄せられた。


 それよりもはるかに問題なのは、もう一つの置き土産――人間界への魔力の還元だった。

 ダリオスが神の座に上り詰めた直後、地球から意図的に枯渇させた魔力。

 それが戻ることで、人間界では物理法則を超越した事象の実現が可能となり、〈宿業(フェーイヒカイト)〉も使用可能となっていた。


 幸い、〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉での記憶を引き継いでいるのは俺だけであり、俺と仰木の能力は使えたところで日常生活での出番は皆無。

その気になれば悪用できる栂野の『影の支配者(クリーマアンラーゲ)』も、本人が虫唾が走るレベルの善良な真人間故、やはり使用されることは無かった。


 近い将来、何者かが魔力の再生というこの異常事態に気付き、それがこの世界に大きな変革をもたらす可能性は多分に孕んでいるが、未だその段階には至っていない。


「えーそれでは、これから転入してくる新しいクラスメイトを紹介します」

 担任の堀越は、朝っぱらのHRからそんなよく分からないことを言った。

 転校? いや、公立小中までじゃあるまいし、高校がそんな簡単に転校生を受け入れるなんて聞いたこと無いぞ? 片学は半端な自称進学校とはいえ、流石に定員割れはしてないし、編入なんてそもそも受け付けていたのか?


「本日よりこのクラスでお世話になります、(あさ)()()()(おす)です。皆さん、よろしくお願いします」

 教壇の上には見覚えのある、中性的な容姿をした白人の美少年が立っていた。は? (おす)ってなんだよ! 完全にDQNネームじゃねえか!


 (あさ)()はつかつかと机の間を横切っていくと、当然のように俺の隣の席に座った。

 前言撤回。この混沌へ突き進んでいく人間界では、早くも魔力を悪用する輩が現れたかもしれない。


「おいてめぇ、こりゃ何のつもりだ?」

「何のつもりかだって? 嫌だなァ。流瑠香ちゃんの『清算の救済者(ゲファッター・トード)』は、僕という存在そのものは殺さず、僕の神殻だけを叩き斬った。結果として僕は神の座から引き摺り下ろされるが死にはせず、人間界に堕落した。

 神になるとか何とかほざいてた君も、錬金術のれの字も知らない状態で自力で神界に辿り着くことなどできる訳も無く、こうして人間界に単なる一人の人間として帰って来た。結果として神の座は一時的に空位となり、誰も手綱を握らないから混沌化の一途。どうする安晴⁉ 地球の命運は君の手に! そんなつもり」


「『そんなつもり』じゃねえよ! 通るか、んなもん! てかお前キャラ変わり過ぎだろ!」

「そうかい? 元来の僕はこんな感じのはずなんだけどなぁ。もし僕が変わって見えるとしたら、それは神として君臨してた時代の大幅な記憶の欠落と、環境の違いのせいじゃないかな? 人間は脆弱な生き物だ。どれだけ強く心を持っても、時空の荒波に研磨されれば、在り方は知らず知らず歪んでいくものだからね」


「まあ……それは一理あるか……」

 破滅が目前に迫っていたことには変わりは無くとも、どこか他人事のような感覚だった現実世界と、はっきり危険を実感させられた〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉。

 その両者において、栂野は言うに及ばず、仰木でさえも旭日という絶対的絶望の前に屈した。俺とて杉穂の加護が無ければどうなっていたか。

それを思えば首肯せざるを得なかった。


「ああ、それと。もちろん三年後の人類削減案は撤回されてないし、されてたとしても今や僕含め誰もそれを知覚できない状態なんで、ぶっちゃけヤバいよ?

いやぁ、僕もあのまま神やってたなら何とかかんとか世界人口を調整したよ? 

でもねぇ、僕、神様辞めさせられちゃったから。ま、そんな訳だから、僕を殺した責任、きっちり取ってね?」

「お、おぅ……。お前、とりあえず放課後和室来い」

 全身から血の気が引き、俺は人生で初めて教室で失禁した。



「まあ、そうなるよね……」

「いんじゃない、別に? どのみちこいつの手は借りなきゃいけないだろうし」

 部室で先に待っていた二人は、まるで俺がこいつを連れてくることを予期していたかのように平然と出迎えた。


「えーまあ、そんな訳だ。ここ最近の総人部は仰木案ばっか活動内容に採択されてたが、今日ばかりは俺の案を押し通させてもらう」

 ホワイトボードの前に立ってマジックを手に取ると、自棄糞気味に案を殴り書きした。

「今日の、いやこれから当面か……。これからの我が部の活動それは――」

 息を大きく吸い、高らかに宣言する。


「神界への到達手段を考え、俺を神の座に押し上げることだ! 新世界の神に、俺はなる!」


 ――杉穂、俺はもうお前に逃げねえ。お前に自分の理想を押し付けねえ。自分がなりたい自分には、俺自身がなる。だからよ、ただ俺を見守っていてくれ――



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