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第37話「謀反」

 その後俺達は、僅かな時間を使って旭日を斃す術を検討した。

 とはいえ、使えるものは、俺たち自身とこの空間にあるものだけ。

 持ち時間も僅か二十五分。

 結局いつぞやの部活中に冗談半分で話し合った案を雛形に、なぞって確認する程度にとどまった。


 元も子も無いことを言えば、どうせ相手はあんな得体の知れない化け物なのだ。

 いっそ子細な計画なんて無い方が臨機応変に動けてベターかもしれない。

 そんな気休めを自らに語り聞かせながら、ついにそのときを迎えた。



「行けるか、仰木?」

「もちろん、いつでも」

 制限時間は、既に残り五分を切った。

 間も無くノルマ未達によるペナルティが執行される。

 この空間の監督役として配置された四体のホムンクルスのうちの一体、朱雀の手によって。

 故に――


「貴様……こんなことが」

 朱雀の頭部が、体育館の床に転がる。

 仰木が背後からその首を両断したのだ。

 噴出する鮮血は、人間のそれと相違無かった。

 首だけになっても喋り続けているあたり、やはり人間とは構造が違うらしい。人間でこんなことが可能なのは、不死身を能力とする俺だけだ。


「しつこい」

 仰木がそう吐き捨てながら頭部を縦横四つ切りにすると、朱雀だった物体も果たして声を発しなくなった。

「うん、分かってる」


 俺が仰木の方に視線を向ける。

 ただそれだけの挙動で仰木は俺の意図を汲み、立ち姿勢を維持していた朱雀の肉体に向き直る。

 そして居合い斬りの要領で、首から下の胴体も瞬く間に八分割した。


「安晴程じゃないにしろ、こいつらやっぱり頑丈だね」

「創造主サマはこんなもんじゃねえだろうさ。ダブルタップどころかサウザンドタップくらいは必要かもな」

「違い無いね」

 妖刀が吸った血を振るい落としながら、仰木が頷く。


「ともあれ、第一段階はクリアだ。二人共お疲れ」

「まあそうだな。だが、こいつの始末なんて前座ですらねえ」

 今回は実質出番が無かった栂野から労いの言葉が出るが、実際本番はまだまだこれから。気を抜いている余裕などあろうはずも無い。


「兼嘉、次は頼むよ。このプランAは、お前と安晴の活躍が鍵なんだから」

「期待に応えられるよう頑張るよ。二人は死ぬなら死ぬでいいって考えだけど、やっぱり僕はそこまで達観できない。死にたくないし、死なせたくない。だから、生き残るためにも絶対成功させて見せる」


「馬鹿、こいつと一緒にすんじゃねえよ。俺は死ぬ訳無い、絶対に勝てると確信してる。そして俺が勝つということは、俺と運命を共にするお前もまた絶対に勝つということだ。大舟に、いやまさしくノアの方舟に乗ったつもりで構えてりゃいい」

「そうだね、それじゃここからは別行動だ。健闘を祈る」

「おう」

 二人が散り散りに自分のポジションに付く。 


 程無くして、そのときは訪れる。

 上空の数字は未達のノルマの「2」だけを残し、制限時間がゼロとなったことで霧散した。

「さぁて、いよいよだ。どこからでも……もとい、神なんだから奇襲とかせずに真正面から正々堂々かかって来いっ!」



 天井の無い体育館に、上空から見慣れた曙光が差し込む。

 太陽の光を円柱状に束ねたような眩さは、形状こそ不自然だが、本来は人間に恵みをもたらすものだ。

 だが、この〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉で既に一か月近くを過ごした俺達には、不気味な紅い空を割るその輝きは不吉の象徴としか映らない。


「まずは、これの説明を聞こうか」

 光の中から現れた旭日は、全身をバラバラに切り刻まれた朱雀の傍らに降り立つと、平坦な声音で俺にそう尋ねた。

「なんだ、思ったより冷静なんだな。いきなりぶっ殺されるんじゃねえかってビビってたのに」


「貴様がそれを望むのならばすぐにそうしてやろう。もっとも、望まずともそうするがな?」

「おいおい、まるで俺がやったみてぇな扱いは勘弁してもらおうか。見ての通りそいつは斬り刻まれて絶命してる訳だが、俺にはそんな芸当は無理だ。何せ俺はこんな傷をつけられる武器は持ってねえからな? そいつを殺ったのは俺じゃなくて仰木だ」


「ほう? ならば、その犯人は一体どこへ行ったのだ?」

「ああ、あの糞野郎もとい糞尼、棄権した挙句最後にやりたい放題やりやがったよ。あのノルマの数字を見ろよ」

 素知らぬ顔ですっ(とぼ)けながら、真っ赤な嘘を告げる。


 ちょうど一週間前に俺達に付与された棄権という選択肢。

 それは、(審問の篩(アイン・ジープ))を続行するその他の参加者達にとって、あまり好ましいものではなかった。

 なぜなら、棄権による脱落者はその日のノルマには含まれない。


 故に棄権者が増える程、その日のノルマ達成は困難になる。

 皆が皆一気に棄権して生存者数がその日のノルマの数に肉薄すれば、その日のうちに生存者が最後の一人にまで減るなんてことすらあり得る。


 だが、その悪質な仕組みが今日の俺達には有益に働いた。

 実際には仰木も栂野もこの殺し合いを続行しており、この世界に生き続けているが、それを偽ることが一応の理屈としては可能になる。


 とはいえ、こんな嘘、俺自身ですら到底通用するとは思えない。

 それどころか、ひょっとすると全てが全てお見通しって可能性だってある。

 何せここは、奴が作り上げた世界。

 手が回らないから監督役のホムンクルスを代理で置いているとは聞いたが、奴が他の眼や耳を持っていない保証などどこにも無い。

 あるいは実際に俺達の行動を把握しておらずとも、俺の思考を読むことくらい奴なら容易にやってのけるかもしれない。


 だが、別にそれでも良かった。

 ここで俺が果たすべき役割は、あくまで時間稼ぎに過ぎない。

 奴に真相を見抜かれていようと、奴が実際には全てを承知の上で、俺の苦しい弁明や惨めな命乞いを見て嘲笑するためだけに俺を泳がせていようと、関係無い。


それまでに二人がこの計画を無事成功させれば、それで俺達の勝利なのだから。

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