第32話「理不尽」
昼は時期外れの長期休暇の中でひねくれた青春を謳歌し、夜は世紀末の狂乱そのもの中で凄惨な殺し合いに身を投じる。
糾われる縄の如く、日常と非日常が交互に過ぎ去っていく。
その濃度は、俺の生涯のどの地点のそれよりも濃厚だった。
そして迎えた(審問の篩)二十八日目。
ついに生存者は、俺達三人を含めて十五人となる。
「おう、今回は合流早かったな」
まずは仲間と合流する。
俺達に限らず、それがほとんどの参加者に共通の最優先事項だった。
〈神の庭〉において、参加者の戦闘開始地点は毎夜ランダムに変更される。
闘技場で十把一絡げの乱戦状態だった序盤は、最後まで三人での合流が叶わないこともあった。
ここ数日は、生存者が減って戦場も狭まったため、随分スムーズになっていた。
「早いってかゼロ秒じゃん。変化が起きてないんだから速度も何も無いでしょ」
仰木の言うことはもっともだ。
だがそれは本来あり得ないこと。
俺達がここに召集される際は、開始直後の即死防止のために一定の間隔が空いているのが常だった。
「何だろう、何か分からないけどとりあえず物凄く嫌な予感がするんだけど……」
訝し気に視線を動かす栂野の頬を、冷や汗が伝う。
「地形から察するに例のアレでしょ。前にも一回あったじゃん」
「アレっていうと、安晴が意識不明になったあの日の飛び地マップかい?」
二人が言っていることは当然俺も理解できる。
これは殺し合い開始からちょうど二週間目、俺が死にかけたらしい十四日目にだけ用意された戦場のマップに雰囲気が似ている。
この〈神の庭〉では、参加者は全員同じ空間に押し込められるのが基本だ。
故にその気になれば誰が誰を殺すことだってできるが、このマップは違う。
奴の設計により、飛び地同士が互いに断絶した異世界のような造りとなっていて、参加者はたまたま同じ空間に召集された面子と制限区画内で殺し合うことを余儀無くされる。
この縛りは、仲間同士でグループを組んで戦っていた多くの参加者を苦しめた。
俺達三人も当然、その例に漏れなかった。
一人では不死身だけが取り柄の雑魚と化した俺は、無様に逃げ回ることしかできなかった。
そしてやはり俺は――その日の記憶がどうしても一部思い出せない。
俺はあの日の時点で既に、栂野のアシストを得てそこそこの人数を殺していた。
だからノルマ未達によるペナルティを食らうこともまず無いだろうと逃げに徹していた。
そこまでは覚えている。
同じ区画に召集された奴等も、仲間と合流できないため慎重に行動する奴が多かったはずだ。わざわざ俺を狙ってくる奴もそう多く無かったし、何より杉穂が俺を守ってくれていた。
後半まで互いが互いを睨みあった何とも居心地の悪い膠着状態が続いていた。
最終的に杉穂が殺された――その一瞬の光景だけが断片的に残っている。
しかし杉穂が殺されたその前後、そして俺が意識を失うこととなった原因がやはり思い出せない。
「安晴? 顔色悪いよ」
「そりゃそうもなんだろ。ここってたぶん片学の体育館だろ?」
あながち嘘でもない。
記憶が虫喰い状態の十四日目のことも気がかりだが、俺達三人だけの会場にこの空間が用意されていることも、俺に別の恐怖を与えていた。
「臭いよねー。いや、たまたまだってんなら別にいんだけどさ? でもよりによって私ら三人にここをあてがってくるとなると、これもう完全に狙ってそうしてるんじゃね? っていう」
「狙ってるってことはつまり――」
栂野の顔が、ますます蒼褪める。
隣を見やれば、軽い口ぶりだった仰木も真顔で眼を見開いていた。
「その通りだよ諸君」
どこからともなく、第四の声が発せられる。
そしてそれは、俺達が既に聞き慣れた無機質で中性的で不快なものだ。
上空を見上げると、果たして奴はいつものように悠然と宙に佇んでいた。
ゆっくりと高度を下げ、そのままピタと俺達の前に着地した。
「今日は随分と早いお出ましだな。お前が来んのはいつも殺し合いが終わった後じゃなかったか?」
「ああ、当初はその予定だったのだがね、少々予定が変更となったのだよ」
ますます不穏の色が濃くなる。
変則に次ぐ変則。そして告げられる、予定が変更になったという言葉。
「一応訊くが、例えばお前が今ここにいるのは今日の殺し合いが終わったから。つまり今日はもう殺し合わなくていい。なんてこたぁねえんだよな?」
「無論だ。その目を見る限り、君達皆が既に心得ていたようだがな。良いな、実に素晴らしい。流石ここまで生き残っただけのことはある。そう、事態の急速な変化というものは往々にして良からぬものが多い。君達は現実というものを真摯に見据えている」
「焦らすなよ。はっきり言え」
「ああ。突然で驚くことだろうが、急遽枠を削ることになった。この(審問の篩)、勝者は最後まで勝ち残った一人のみとする」




