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第31話「真相」

「何だと……! そんな、そんな残酷な」


「いやいや、考えてもみろよ? どうせ個体数を一気に減らさなきゃなんねえことに変わりねえんだ。生かしておいたところで、その多くは三年後の予算大幅カットでどうせ死ぬ。それならせめて、生存を勝ち取るために自分達で競わせてやるってのは、連中に対する慈悲ですらあるんじゃねえか?」

「しかし、人数が増減するにもかかわらず殺し合わせてしまっては、セネトでの勝利により私が移民枠を拡大できたときに」


「あー、そりゃアレだ。てめぇが連中の魂を一時預かり状態で保持しときゃいいだろ。肉体ごと完全に消滅させれば蘇生は不可能だが、魂だけ分離させて溜めときゃ問題ねえ。別に個体数自体が増えるんじゃなくて、肉体と魂の整頓の仕方が多少変わるってだけだ。そのくらい無能なてめぇでもできるだろ?」

「だがそれにしても、殺し合いという勝負では筋力等の肉体機能に優れた成人男性ばかりが」


「それもそうだな。そんなもんは見ててもつまんねえ……いや、単一の尺度だけで優劣を決めるってのは公正公平って見地から見て最低だからって意味だ。

 それならアレだ、殺し合う時点では魂だけ抜いて肉体は削ぎ落としときゃいい。それとだ、お前が地球から吸い上げた魔力も返しといた方がいんじゃねえか?」

「貴様、なぜそれを⁉」


「いや、錬金術と魔術を組み合わせて、地球からこの神界に到達したんだって四百年前に粋がってたのはてめぇ自身だろ?

 なのに、今やてめぇが飼ってる虫けら共は魔術の魔の字も使えねえ。

 向こうから神界にコンタクトを取るのも、当然不可能。

 なら、てめぇが意図的に地球から魔力を枯渇させたと考えるのが自然だろ?」

「ち、違う! わ、私は凡人がうっかり禁断の果実に手を出すべきではないと考えてだな……!」


「あーそういうのいいから。別にお前が地球の人間に寝首掻かれるのが怖くて牙抜いたとか、そんな事情にゃ興味ねえしな? 俺が言いてぇのは、地球に魔力を戻せば、興行……じゃなかった、ともかく殺し合いが捗る。だからそうしろ。それだけのこった」

「しかし」

「ああもうめんどくせぇ。手っ取り早く魔力をぶちまける方法って言やァ、アレっきゃねえだろ?」


「貴様……わ、私に一体何をしろと……?」

「何かだと? 笑わせんな。んなもんナニに決まってんだろうがよ」

 クベーラが指を鳴らす。

 すると彼の背後から、豊満な肉体を持つ女型の天使が実体化して現れた。


「話は聞いてたな、ナラク? そういう訳だから、この童貞くせぇガキの相手、頼めるか?」

「承知いたしました。クベーラ様の仰せのままに」

「おい待て! 私は何も」

「口を慎め下郎! 貴様如きがクベーラ様に口答えとは何様だ! 分を弁えよ!」


 ナラクと呼ばれた女型の天使に一喝されると、ダリオスは最早自分に拒否権は無いと悟る。

 手を引かれるがまま喫茶空間を後にし、地球方面へと姿を消した。


「ま、これに関しちゃ、本来あったはずのものをあるべきところに戻すだけだ。ならちょっとした善行ですらある訳だ。あのヘタレ無能は自分自身を半ば理解してるが故に、地球から魔力を吸い上げた。だがこれで神と地球の人間を隔てる絶対の壁は崩壊する。ひょっとしたら、早速――いや、まさかな」

 地球にもたらされる混沌を想像し、クベーラは好奇に顔を綻ばせる。

 全てが彼の思惑通りに進んでいるのだから無理も無い。


 クソ虫と侮蔑する地球の人間が、自らの第二金星へ流入することの阻止。

 ダリオスから巻き上げる臨時歳入。

 更にはクソ虫共の殺し合いをダシにした賭博による小銭稼ぎ。

 その一石三鳥の計画の布石を打つことに成功したのだから。


 その後程無くして、地球の中でも極東の島の一点、極めて狭い範囲にダリオスの魔力が降り注いだ。

 本来ならばその島全てに大量の魔力が注がれる予定だったが、魔力に対する免疫を持たぬ現代人のアレルギー反応をダリオスが危惧し、発射直前の土壇場でそのほとんどをカットしたためだった。


 ダリオスは無論ナラクからの叱責を受けた。

 だが、そもそもの殺し合い計画自体が試験的なパイロット版であること、故に地球への魔力流入も最小限であるべきことを説明することで、クベーラの事後承認を得るという条件付きでナラクの説得に成功したのだった。


「ってことになったんで、よろしく頼むぜ、アイオーンの旦那」

 ダリオスとクベーラは共にアイオーンのもとを訪ね、クベーラが移民計画の概要を説明した。


「そうか、貴様がそこまで……いや、承知した。移民枠の定数は暫定七〇万人であるが、ダリオスの自己負担によりその定数を適宜増減させるとな。双方合意の上での決定ならば、余も異論は無い。臨んだ結末に至れるよう精々励むと良い」

 人間達への哀れみから自分が用意した、移民枠の提案。

 それすらも無に帰すダリオスの愚かさに、アイオーンは落胆を禁じ得なかった。

 しかし二人に計画の詳細を一任した以上、口を挟むことも叶わなかった。

 ダリオスの糾弾を思いとどまり、厳粛に首肯した。


 かくして神界を束ねる神仏大会合意の下、惨劇は幕を開けた。


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