第24話「身分」
思えば俺が自分の〈宿業〉を理解したのも、その頃だったか。
俺が二人と合流する前の、殺し合い四日目。
周囲の奴等は続々と自分の〈宿業〉を発露させ、使いこなしつつあった。
その只中、俺は未だ自身の能力を把握することすらできずにいた。
他人を殺す覚悟はできていたが、徒手空拳ではあまりに分が悪い。
為す術無く、脱落者ノルマが達成されなかった場合の数合わせに怯えながら、俺は逃げ回っていた。
一方個々のミクロな変化だけでなく、全体のマクロな変化も起こりつつあった。
はじめはバラバラの個だった参加者達は、現実世界で通う学校や性別により知人友人同士で集まり、徐々に組織化しつつあった。
そんな潮流の中、当然片学の連中によるグループも構成されていた。
彼等の、いや彼等に限らず集団で行動する参加者達の多くの考え方は、組織として合理的かつ群衆として人道的だった。
三人しか生き残れない以上、グループの構成員とて皆が生き残れるわけじゃない。だが少なくとも、その確率を上げることはできる。
そのためにはまず、グループによる三つの生存者枠の確保。
つまりは、グループ外の者達を殺していけばいい。
そしてグループ外の者を殺すにしても、優先順位がある。
自分達と同じようにグループで行動している者達は危険だ。
人数が多い分だけ当然強力なので、わざわざ喧嘩をふっかけることはない。
単独行動を取っている奴を狙うのが安全だ。
それに仮に自分達が生き残れないとしても、生存者はなるべく立派な人達であってほしい。
犠牲者達の代わりに生きる訳だから、その魅力と価値を持つ人が望ましい。
逆に言えば、殺すなら生きていてもあまり意味が無い、より極端に言えば死んでもいいゴミ共を優先的に選ぶべきだ。
単独行動をしていて、しかも死んでもいいゴミカスうん○野郎。
――なんだ、いるじゃないか!
俺に白羽の矢が立ったのは、必然の結果だった。
「このッ! ゴミがッ!」
「クソ! 何で無駄にしぶといんだよこいつ! こんだけやりゃ普通死ぬだろ!」
片学の顔見知りグループと遭遇してしまった俺は、当然の襲撃を受けていた。
これまで赤の他人に狙われかけたときは、何とか逃げ延びてきた。
だが奴等は俺を俺だからと理由で、どこまでも執拗に追い続ける。
しかも六人がかりで包囲してくるとあっては、逃げ切るのは不可能だった。
やがて闘技場の壁際で捕まった俺は、抵抗虚しくあっさり殴り倒されて地に臥し、ひたすら袋にされた。
「なあユウヤ、こいつマジどうなってんの? こんだけ殴ってこんだけ斬って、何でまだ生きてんの? マジきめえんだけど」
「俺も分かんねえよ、んなもん。アレだ、流石に首飛ばしゃ死ぬだろ。その薄気味悪いゾンビ野郎も」
「えー、そりゃ流石にグロ過ぎてきついわ。てかずりぃよ、ユウヤ。周りの監視は俺がやるからこいつぶっ殺すの代わってよ」
「いや、俺にぶっ殺させてくれつったのは黒崎だろ。まだ一人も殺せてないからやべえし、そいつのこと大っ嫌いだったからって」
「あーはいはい、分かったよ! やりゃいいんだろ、殺りゃ」
死ぬにしても、こんな糞しょうもない奴等に殺されることになるとはな……。
いや、ねえよ。
俺がこんなゴミ共に負ける訳が無い。
負けていい訳が無い。
「へっ……いくら殺し合いだっつっても、てめぇら言うことがそれかよ……」
「何か言ったかクズが! いつも兼嘉に付きまといやがって、きめぇんだよ! 兼嘉はマジ聖人だからお前みたいなぼっちを可哀想に思って仲良くしてやってっけど、てめえの方は空気読めよ! お前みたいなゴミが甘えてんじゃねえよ!」
「そんで? あいつは、栂野の阿呆は、お前にそんなこと言ってたか?」
「言う訳ねえだろ! あいつは良い奴だから自分の損は顧みないんだよ!」
「なら何で、んなことてめぇに分かんだよ。んなもんてめぇの決めつけだろうがよ。卑劣極まりない最低最悪糞野郎のお前は! 単に俺が気に入らねえってだけなのに! 栂野をダシにしてそれを正当化してるだけだろうが! どっちがゴミなんだか分かったもんじゃねえなァ!」
あ、やべえ……。自分の置かれた状況をすっかり忘れてた。
啖呵切ったはいいが、俺は今嬲り殺しにされている最中だった。
俺の悪い癖だ。案外短気で喧嘩っ早くて、すぐに頭に血が上ってブチ切れて、それでその結果は基本ろくなことにならなくて。
そんなことを今更反省してももう遅い。
「てめぇイキってんじゃねえぞ!」
黒崎の異様に長い刀が俺の首に飛んでくる。
俺を追ってくる途中、こいつの剣は、全長から推察される射程圏外から何度も俺に襲い掛かった。おそらく剣が伸びるか斬撃を飛ばせるとかそんな〈宿業〉だったんだろう。
だが今更そんなものに頼ることも無かった。
こうして至近距離で斬れば、それで事足りるのだから。
「痛ってぇえ!」
既に致命傷を無数に負っていたが、今のはとりわけ堪えた。
旭日の言うとおり、〈神の庭〉での身体は化け物じみて頑丈だった。
だがそれにしても痛いものは痛い訳で、いやむしろ頑丈でいくら叩いても壊れないからこそ何度も何度も痛みを味わわされる訳で。
今日の俺は終始激痛に悶絶していた。
その今までの痛みと比較してなお一線を画す、それは凄絶な痛みだった。
身体に力が入らなくなり、ばたりと横に倒れた。
「嘘だろ……。おい、冗談じゃねえよ……」
「冗談も糞もねえだろうが糞! てめぇがやったんだろうが! 痛てぇんだよ糞野郎!」
「違うそうじゃねえよ! おおお前……何で首だけで普通に喋ってんだよ!」




