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第19話「宿業」

「このミミズ腫れみたいな(あざ)は何なんすか? 何か妙な力に目覚めるとか言ってた気がしますが?」


「最初に伝えたとおりだ。(烙印(スティグマ))が発現した時点で、諸君はその精神の在り方に即した何らかの〈宿業(フェーイヒカイト)〉を獲得している。

 それは体がゴムのように伸びるというものかもしれないし、(へそ)で茶を湧かせるというものかもしれない。だが諸君の精神に基づくが故、その多くは自身に馴染みある納得のものとなるだろうよ。

 それとその(烙印(スティグマ))、それ自体についてだったな?

 それは私が蒔いた〈聖核(ザーメンツェルン)〉と諸君の魂が融合した産物、その一端が表面化したものだ。

 この催しを行うに先立ち、余はこの蒲森区一帯に余の種を蒔いたのだ。

 我が種は、特に生命力の強い人間の精神と融合する。そして種と融合した人間は、種により神性をその身に宿す。

 諸君が、人間を受け付けぬこの〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉の招きに与れたのは、我が〈聖核(ザーメンツェルン)〉と融合していたが故だったというわけだ」


 種という表現が微妙に引っかかったが、それ以上に気がかりなこともあった。

「そもそもだけど、やっぱりお前さんは――カミサマな訳ですか?」

「余は神に匹敵する神性を有していて、この星における神の役割を果たしている。それを神と呼ばずして何と呼ぶのかね?」


 どうも釈然としない。

 こいつは自分が神だと断言することを避けているような節がある。

 こいつは神であって神じゃない? 何だそれは。訳が分からんぞ?

 だが気になっていたのは俺だけで、栂野は目下(烙印(スティグマ))と〈宿業(フェーイヒカイト)〉に意識が向いているようだった。


「特異な能力を獲得しているとおっしゃいましたが、それはどうやれば使用できるのですか?」

 その目には決意が滲んでいた。

 どうやらこいつも、腹は決まったらしい。

 この糞神様が用意した糞ゲーに付き合おうと。

「さあな。悪いがそこまでは私も知らぬのだよ。何せこの手順で半ば人工的に能力を授けるのは初めてである故な。私自身は、物心ついた頃から、言語と同様に本能的に超常の能力の数々を有していた。諸君らとは勝手が違うのだよ。それは自身で感覚的に掴んでもらう他無い。生き残りたくば、精々励みたまえ。さて、他には?」


 栂野と顔を見合わせる。

 俺はもう何も思いつかないので栂野に期待したが、かぶりを振るばかりだった。

 周囲を見渡しても、俺達の問答で概ね満足したらしく、声は上がらなかった。


「いいだろう。ではこちらから説明を続けよう。

 最も重要なルール、それは諸君らが残り三名になるまで殺し合うことだ。

 この〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉には、今宵より毎夜一時間だけ諸君を殺し合いのために召集する。長くとも一か月だが淘汰の進行が速ければもっと短くなるだろう。

 なお、〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉に精神が召集されている間、君達は現実世界で意識を失う。他人に心配をかけたくなければ、健康的な睡眠サイクルを維持し給え。

 といっても、現実世界に戻っている間は、この〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉での記憶は掘り起こせぬ故、忠告するだけ無駄なのだがね」


「おっおい、待ってくれ。明日起きたら、俺はここでのことを綺麗さっぱり忘れてるってのか?」

 狼狽した声で、遠くから誰かが尋ねた。


「然り。〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉での記憶は、君達の精神と融合した我が〈聖核(ザーメンツェルン)〉と不可分だが、種は現時点での現実世界では眠ったままだ。

 現実世界で〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉の記憶や〈烙印(スティグマ)〉による〈宿業(フェーイヒカイト)〉を行使すれば、世間の大混乱は不可避であるからして、案外君達にとっても好都合だと思うがね。

 そんな訳で、ここで誰が死のうが、極端な話自らの親友や彼女を手にかけようとも、一切記憶に残らない。

 翌朝には、謎の昏睡状態に陥った大切な人を心配し、同情ややるせなさに浸ることだろうよ。

自ら殺しておきながら、罪悪感の欠片も持たず、まるで自分自身も大切な人を失いかけている被害者のような態度でな」


「じゃ、じゃあハルキ……そのさっきお前に黒焦げにされた奴も……」

「ああ、現実世界ではその真相に気付くことは無い。しかし一方で、現実世界での記憶は当然失われることが無い。諸君らの中には、これはやはりただの夢ではないかと、未だ疑う者もいるだろう。だが、現実世界の彼等の容態を知った上で、明日再びこの〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉に来たならばその全てを信じざるを得まい」


 なかなかに悪質なやり方だ。

 現実世界で色々議論できたならば、多少ましな策の一つでも考案できたはずだ。

 あの化け物の異常さはともかく、少なくとも数ではこちらが圧倒的に勝っている。徒党を組んで奴に抵抗するなんて手もあり得た。

 だが、何も覚えていないとあっては、それも不可能。

 最長三十時間で、いつ襲い掛かってきてもおかしくない赤の他人相手に話し合いなんて、どう考えても現実的じゃない。


「記憶の話についてはよろしいかな? では次の話だが、滞り無く殺し合ってもらうため、脱落者ノルマと制限時間を毎日設けるものとする。あれを見たまえ」

 旭日が指を指した先、それまで何もなかったはずの空中に、数字の零が三つ浮かび上がった。

 それが如何なる技術によるものなのかは不明だったが、こいつの為すことを常識的な物理法則で計ろうとするだけ無駄だろう。

「あの数字が制限時間、そしてその隣にはノルマを掲げよう。

 脱落者が出るたびに更新し、一時間が経過した時点でノルマを達成していない場合は、殺害数が最も少ない者の中から吾輩が無作為に選んだ者を殺す。

 不足分を補うだけではなく、ペナルティとして一定数余分にな。

 制限時間内にゼロになれば、あとは諸君らの好きにして構わぬ。ノルマを無視して意欲的に殺し合うも良し、逃げ隠れするも良し。しかしノルマを課すとはいえ、君達にも自らの〈宿業(フェーイヒカイト)〉を把握するための時間が必要だろう。

 故に当面は低めの数字を設定しよう。もっとも、それでも百は優に超えるだろうがね。ノルマは当然今日もある故、私が開始を告げた瞬間には殺し合いを始めてもらう」


 間も無く本当に始まってしまう。その絶望的宣告を聞き、皆がハッと息を呑む。

「あとはそうだな、今宵はこの闘技場を用意したが、人数が減った後半日程では会場を変える予定だ。他にも適宜工夫を検討する。精々楽しみにしていたまえ。さて話すべきことは粗方話し終えたが、最後に一つ、どうでも良いことも伝えておこう。なに、ちょっとした意思確認だ」

 旭日の口角が不気味に吊り上がる。


「君達には殺し合ってもらうと告げたが、特別にこの戦いを棄権する自由を認めよう」


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