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第18話「正論」

 あーあ、出会っちまったか。


 旭日の言葉から、予期はしていた。

 それでも、こいつがこの場にいる事実を突き付けられるのは、精神に応える。


「あとさ、さっきから命知らずにもほどがあるよ、安晴。もう少し口の利き方に気を付けないと」

「うっせえな。なら栂野(お前)が代わりにやれや。お前ら揃いも揃ってビビり倒してダンマリ決め込みやがるから、仕方無く俺が矢面に立ったんだろうが」


 こいつの存在にショックを受けたのは事実だが、一方でとてつもない安堵も感じていた。

 全てが未知であまりに理不尽な世界。

 俺がよく知る、俺をよく知る知己の存在はこの上なく心強かった。

 こうして文句を言ってるだけでも、浮足立っていた自分が地面に着地する実感がある。


「彼が説明した通りだ。この〈神の庭(ヘァル・ガルテン)〉における貴様等の肉体は精神の具現。体積や筋肉量をはじめとした肉体自体の性能とは一切無関係だ。この世界では、女子供がプロの格闘家よりも強いということもごく自然に起こり得る」

「うーん精神の強さってのは、何とも曖昧かつ抽象的……じゃないでしょうか?」

 栂野の野郎が俺の爪先を踏みやがるので、申し訳程度に敬語に軌道修正した。


「ああ、実に抽象的だとも。だからこそこうして(ふるい)にかけるのではないか。精神の強さは、基本的にはその人間に内在する、色も形も未だ持たぬ根源的なエネルギーだ。それはこの私を以てしても、正確に計測することはできない。故に、そのエネルギーをできるだけ元の状態に近いまま維持し、可視的能力に転写して比較する。それこそが、君達がこれから望む殺し合いなのだよ」


「そして根源的――言い換えればより純粋で本質的な価値による比較だから、受験みたいに形を与えられた二次的三次的能力の比較より適切だということですね?」

「然り。理解できたかね?」

「まあ……俺は頭良いから何とかな。周りの連中がどうだかは知らんが」

 こいつがいて助かった。

 ここまで来ると、言語性IQの高さの割に動作性IQが低い俺には少々きつい。


「他には何かあるかね?」

「お前はさっき、最後の一人になるまで殺し合えって言った……ですよね? それなら、俺達がそれを拒んだらどうすんのですか?」

「無論その可能性も考慮してある。その場合は貴様等に代わり、私が手ずから殺そう。その場合、殺した人数が少ない者から順に殺していくことになるがね?」


「それはなぜですか? こんなことを強いられた中じゃ、確かにしょうがない部分はあるかもしれない。でも殺しなんて、人として最も酷い最悪の行為だ。それならむしろ殺した人から順に殺すのが自然なのではないでしょうか?」

 うーん、こいつはこいつでなまじ良識がある分、会話が噛み合わないな。


「誤解してもらっては困るな。

 この戦場では、殺すことはむしろ正しい行為なのだよ。それは、この殺し合いが優秀な人間を選出するためのものだという目的を鑑みれば、当然のことだ。

 だがあえて君達の感覚に即した回答もしよう。

 良いかな? この戦場では三人しか生き残れない。

 ここで生き残りたいと願うことは、自分以外の人間のほぼ全てを皆殺しにしてもいいと考えることと同義なのだ。

 真に他人を殺すことを(いと)うものならば、すぐさま自決するはずだからな。

 それを踏まえれば、この戦場にとどまりながらも誰も殺さぬ者とはすなわち、他人には事実上殺し合いを押し付けておきながら、自分自身は殺しの罪悪感や自分が逆に殺される危険からは逃避する、卑劣な偽善者だと考えられる。

 なれば、そうした者から優先的に退場させるというのは貴様等の心情としてもそう受け入れ難いものではないはずだ。

 吾輩としても、そんな薄汚い精神が生き残ることなど求めてはおらぬしな」


 理屈は通っている。

 隣の常識人は口をワナワナと震わせながら拳を握りしめていたが、それでも食ってかかりはしない。旭日(こいつ)の言い分を理解する頭と、いくら許せないことであっても正しいことは認める冷静さと強さがあるからだ。


「まだ何かあるかね?」

 こいつを根本から否定することは、少なくとも現状は厳しい。

 ならばここは一旦、こいつの言う殺し合いとやらに付き合う前提で考えるしかない。


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