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第17話「邂逅」

 再び周囲は騒然となる。

 たった今、目の前で二人が惨殺された。

 その恐怖をも上回る驚愕と絶望に、彼等は沈黙を維持できなかった。


 俺とて動揺を隠せなかったのは同じだ。

 だが、奴――旭日の得体の知れない超常の力と圧倒的な武力、躊躇無く次々に人を殺したこと、そしてそれにもかかわらず俺達を殲滅はしなかったこと。

 それらを踏まえれば、動機や富士山より高く積もる膨大な疑問はともかく、奴の用件は何となく予測できていた。

 それにしても、これは思いついた中で最悪の可能性だったが。


「私語を許可した覚えは無いぞ?」

 奴が口を開くと、場内は三度静まり返る。

 必死で息を殺して漏れ出る嗚咽(おえつ)が、現状を明快に物語っていた。

 多勢に無勢の圧倒的人数差に反し、俺達は今やこの男一人に生殺与奪の全てを握られた俎板まないたの鯉だった。


「なに、そう難しい話ではない。この国にも『過ぎたるは猶及ばざるが如し』という言葉があるであろう? 貴様等人間は個体数を増やし過ぎた。故に少々強引な方法にはなるが、私が少々の直接的介入も加えて調整してやろうというだけだ」


 確かに、世界人口についてそんな話を聞いたことはある。

 現時点で既に十分多すぎる人口は、途上国の発展に伴う人口増加を中心として、今後更に増え続けるらしい。

 来世紀には下手したら百億も超えるとか超えないとか。

 それに対して、イルミナティだのフリーメイソンだのいう胡散臭い連中が、適正人口は五億だか十億だか云々と騒いでるとか騒いでないとか。

 それにしても、この人数を三人に減らせというのは無茶が過ぎるだろう。

 そんな俺の疑問を見透かしたかのように、奴は言葉を続ける。


「貴様等の中でも比較的広い見識を持つ者は、こう考えているのではないかね?『そこまで減らす必要はあるのか』と。

 それについては別の問題があるのだが、これも実に単純な話だ。

 貴様等日本人は、世界的に見て無駄に多すぎる。これほどの矮小な島国に、何もここまで過密に人間を詰め込むこともなかろう。故に国土面積に応じた適切な個体数に調整する。

 他にも世代間の調整等実に緻密な数式があるのだが、貴様等ではそこまで理解できまい。故に省略するが、経緯など所詮重要ではない。

 貴様等がまず理解せねばならないことは二つだ。

 貴様等は増え過ぎた故、人数を減らす必要がある。

 そして貴様等はこの場内で最後の三人になるまで殺し合う。

 それだけだ。さて、ここまでで何か質問はあるかね?」


 質問はおろか、誰も旭日と目を合わせようとすらしていなかった。無理も無い。下手なことを言えばそれだけで殺されるかもしれないというのに、わざわざ危険を冒す者はいない。

 だから――俺が前に出た。

「なぁ、何でお前が皆殺しにしないの? その方が手っ取り早いと思うけど?」


 周囲の視線が、一斉に集まる気配を感じた。

 チキン共が俺を忌々しげに睨み付けているんだろうが、俺とてそんなものに構ってる余裕は無い。

 旭日はすぐには答えず、俺の眼をじっと凝視していた。

 俺を値踏みするように蠢く紅い瞳は、妖しい煌きを湛えている。

 全身を呑み込まれるような恐怖に抗いながら、何としてでも視線を逸らすまいと足の爪先に力を入れる。


「それはな、私なりの貴様等への配慮だよ」

 一頻り俺と睨み合うと、旭日は先程までと変わらぬ淡々とした声で語り出した。

「貴様等の個体数を減らすこと自体は既に確定事項だが、貴様等とて訳も分からず理不尽に殺されるのは本意ではなかろう? ならばせめて、生き残る者の選出は、貴様等自身の手に委ねよう、そうした思いやりだよ」

「ならじゃんけんか何かでいいだろうよ。肉弾戦やらせるにしても、殺し合いまでさせる必要があるのかよ!」

 無意識に声が熱を帯びた。それに気付いて咄嗟に呼吸を整える。


「道理よな。貴様の勇敢さに免じて率直に言えば、実はこちら側の都合もあるのだ。貴様等の中には、平等に公正に無作為に生存者を決めるべきだと考える者も、いるやもしれぬ。だがそれでは、私が困るのだ。選りすぐられた一人の生き残り、それはこの中で私が与えた競争を勝ち残った、勝者でなければならない。此度の殺し合いは単なる人口削減措置ではない。正確には劣等淘汰措置なのだ」


「劣等淘汰か。現代日本じゃ、到底大っぴらには通用しない発想だな。だが百歩譲ってやるにしてもだ、それならそれでやっぱり他に方法あんじゃないのか? 自称カミサマがこの国の仕組みをどれだけ把握してるか知らねえが、お前なんぞが出張ってくるまでもねえ。この国にはな、受験戦争に就活戦争と、メジャーな格付け競争は既に用意されてんだよ。一握りの資産家の子息以外は、実質強制参加とかいう糞仕様でな。分かるか?」


「私を誰と心得る? この国の現在の階級制度など知らぬ訳があるまい。だがそんなものは、一世紀にも満たぬ直近に限った選定方法であろう? 現に貴様らが比較的よく知る直近ですら、その評価基準は様変わりしているではないか」

 それは、次代の担い手の一人たる俺自身、実感していたこと。

 時代はもう、根性で死ぬ気で勉強して塔大に入りさえすれば、それで生涯幸福人生安泰なんてほど単純じゃない。


「貴様が申した就活戦争においては、『コミュ力』を最も重視するのが今日のトレンドだ。だが『コミュ力』なる造語が盛んに使用され出してから、果たして何年が経過したか? 所謂(いわゆる)学歴主義が最も顕著だった時代には、学歴こそが最重視され対人折衝能力は二の次だった。その時代で必要とされる能力が異なっていたのだから、当然のことだ。ここまで説明すれば、貴様も理解できよう?」


「つまり……そんなコロコロ変わる尺度で優劣付けてても仕方無いと?」

「然り。故に私が試験的に用意したのが、この戦場だ」

「そこは納得行かねえぞ。現代の評価基準を無視する理屈は分かった。だがそれは、腕っぷしの殴り合いが妥当だなんて結論は導かない」

「それは貴様がこの戦場を誤解しているためだ。ここは確かに戦場であるし、貴様等はまさにその殴り合いに臨むことになる。だがな、この戦場で貴様等の強さの源となるのは、肉体の強さではない。魂の強さだ」


「魂の強さ? そりゃどういう……」

「彼が最初に言ってたことと関係しているんじゃないかな? ほら、ここは純粋精神の世界だとかっていう」

 俺のフォローに入る声は、ここでは初めてとなる俺の知人にして同胞のものだった。


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