第14話「夢の終わり」
――俺は何かを忘れている。
二人からはっきりそう告げられたが、驚きは特に無い。
なぜならそれは、俺自身薄々感じ始めていたことだから。
そしてそれは、『世界の終わりの始まり』と深い繋がりがある。
つまり俺は、一連の昏睡病に関して、一般に明るみにされていない何かを二人と同様に知っている……?
その前提からは幾つか仮説が考えられるが、いずれも剣呑なものだ。
まず真っ先に思いついたのは、俺が二人と、あるいはそれ以上に多くの連中と、一連の騒動を引き起こしている加害者であるという可能性。
この場合、俺が昏睡病騒動の何かを忘れており、また俺に対して二人が真相を伏せていることの説明はつく。
だが、それなら二人の態度はいまいち腑に落ちない。俺を再度味方に引き込まないというなら、いっそ口封じでもすればいいはずだ。
それこそ既に昏睡状態にあるその他の生徒達のように。
これだけの不可解な事件を連日遂行できているなら、そのくらい造作も無いはずだ。それでもそれをしないのは、俺が二人の言うとおり親友だからか? どうも釈然としない。
何より、真相へ至る障害になるからと一旦頭から排除したが、俺達高校生風情が一体どうすればあんなオカルトじみた騒動を起こせるというのか。
次に考えられるのは、二人は昏睡病騒動の裏について何かを知っていながら、どういう訳かそれを誰にも話せずにいるという可能性だ。
だがこれは、一つ目の仮説以上に荒唐無稽だ。
なぜなら黙っている必然性が無い。
この蒲森区で一体何が起きているのか知らないが、謎の奇病について何か知っているならば、最寄りの病院にでも報告すればいい。これだけの騒動になっているんだから、高校生の眉唾情報でも無碍には扱われないだろう。
あるいはこれが事件性を孕む人為的なもので、二人は加害者ではないが何かを知ってしまった?
それなら警察に通報すればいいはずだ。
それとも二人がこの事件の情報を掴んだことが犯人達にもバレてて、圧力をかけられている?
いや、それならそれこそこの二人が即刻消されてるはずだ。こいつらが俺に情をかけるなら分かるが、得体の知れない犯人共がこいつらにかける情など無い。
あるいは。犯人は二人の親類か何か?
分からない。
可能性を疑うだけなら、色々できないこともない。
だがどれも裏付ける証拠が無いし、あまりに現実離れしている。
宇宙人が人類には見えない謎の細菌Xをばら撒いたとかってレベルだ。
ああもう付き合ってられるか。
別に思考を投げ出しはしない。
なぜなら俺の辞書に諦めるという言葉は存在しないから。
だが、戦略的撤退という概念を知らない馬鹿でもない。
頭が茹だった状態で無理に考えるのは、効率的じゃない。勉強と同じだ。
こういうときは、まず寝る。そして力の回復に努めるに限る。
いつもの就寝時間より二十分程早かったが、いい具合に眠気も感じられたので床に就く。
微睡へと意識が落ちていく中、そういえばもう一つ忘れていたことがあったと思い出す。
昨夜夢の中で味わった激痛、あれは一体何だったのか――?
◇
気が付くと、真っ白な空間にいた。
前後左右どころか天地までも、際限無く乳白色の虚無が広がっている。
その途方も無い異常さからして、ここが現実世界ではないことは明白だった。
ただこれが夢だというなら、少々気がかりなことがある。
それは、ここがいつもの新川特別支援学校の保健室ではないということだ。
いやそれ以上に不気味なのは、目覚めている間は一向に思い出せなかったというのに、いざ此方の世界に来たら、当然のように杉穂にまつわる一連の記憶が蘇ることか。
どういう訳か知らないが、ここ数日の間、俺は保健室で杉穂と過ごす夢だけを見続けてきた。
杉穂と過ごした俺の実体験をなぞるかのように、時系列に沿って。
だから、今日もあの保健室での夢を見るものとばかり思っていた。
あるいは、これもその夢の続きなのか?
俺は昨日、誰もいない保健室を歩き回り、そして杉穂の――その最期の断末魔を聞いた。
聞いた?
いや違う。
俺の脳裏に突然、杉穂の姿がフラッシュバックしただけだ。
だが、俺は杉穂の断末魔を確かに聞いた記憶がある。
これはどういうことだ?
なに、落ち着いて考えれば容易に推測できることじゃねえか。
これまでの保健室での夢は、、その全てが俺の実体験の回想だった。
ならば導き出される答えは単純。
そう、つまり夢じゃない。
俺は、杉穂が目の前で――死ぬところを目撃していた。




