第1章 終わりを迎える永遠の18歳
ちょっとグロ注意です
ーーーーー人生とはクソゲーである。
全員が1度は思う事だろう、言い方によるだろうが。
社畜と成り下がるのは新人サラリーマンからベテランサラリーマン、いや、社会人となった大人全員の事を指すのだろう。社畜とは全年齢対象。万歳。
社畜という意味を、実態をSNS上で語られるだけの情報しか知らない、まだ世間知らずなただの女子高校生が社代理である。
そんな女子高校生にとって、クソゲーはある。
いやもしかしたら、一部を除いた全国の高校生にもクソゲーだと感じるだろう。
考査である。
様々なジャンルから深海の如く深く、空よりも高く、固い地面から根掘りされて広げられるテスト範囲。
知恵を獲得し、万全な体制で鉛筆を持ったとしても死角から出てくる担当教科教師からの難解問題。
拘束具と成り果てた机と椅子からは誰も逃げられない魔の時間。例え、答えが合っているとしても疑心暗鬼に陥らせ、体の消耗が激しいテストの待ち時間。
あげたらもう、キリがないなのであと一つは語らせて欲しい……そう、テスト期間の苦しさだ。
机と向き合う時間=電脳世界侵入不可能としか受け取れない私にとって苦しみの期間でしかない。
テスト中のテスト勉強はまだ良い。
翌日に実施させるテストの勉強だけすればいい話だし、1日目&2日目が終わったという小さな解放かんがモチベーションとなるためまだ良い。まだ、だが。
学校集会などで親はテストの事を知っている。
隠蔽など出来ず、ゲームなんてしていれば真っ先に取られる。…だから、こうやって学校の図書館でサボっているのだが。
(折角サボりに来たのに結局、真面目にしてしまう私が憎らしい!)
仮想のアイコンがあるとすれば笑いながら泣いているという何とも表しづらいものだろう。
目の前に広がるのはテスト範囲ページと何度も解き、間違った答えや疎らに散らばる赤丸が乗っているB5サイズのリングノート。最初は綺麗な字だが後からの乱雑さは集中力の乱れを物語っている。
気付けば窓から入ってくる夕暮れが机を赤く染めていて、時間も17時を回っているではないかと。
(お、ビンゴじゃん)
どうやら、私の体内時間は間違っていなかったらしく17時丁度を短針が指していた。
リングノートを表紙に戻し、教科書等をカバンにいれる。帰りの準備をしていた、その瞬間。
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。
視界が大きく揺れ、体が何かに蝕まれたような感触が纏わりつき、脳が震え、全身から冷や汗が吹き出る。
全身を駆ける細胞達が1つの意志を持ったように暴れだし、あらゆる組織を破壊して筋肉から皮膚から出ていこうともがいている。
「痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
両手で今にも細胞達が飛び出してきそうな、赤黒く膨れ上がった出来物を己の皮膚を指の腹で優しく撫でる。
わずかの皮膚同士の接触にも関わらず、出来物は大量の鮮血を撒き散らしてそのまま四方に飛び散った。
「あ……………あ"ァァァァァァ!!」
言葉では表せられないような激痛か腕に襲いかかる。
皮膚が無理やり破かれてそこからとめどなく出ていく血たちが図書室の床を濡らしていく。
何これ、何なの、どうなっているの!?
無知に襲いかかってくる死の恐怖はパニック状態を起こし、正常な思考を鈍らせ、殺していく。
右膝はなんの前触れもなく消し飛んだ。
バランスを取れない体は無様にも転がり落ち、血で濡らした地面へ顔を強打する。
何も、理解できない。
そんな時に頭の中に重く響く声が聞こえた。
『血肉を捧げろ』
「きゃぁあぁぁぁああ!!!!」
「ど、どうなって…あ」
「やだやだやだ死にたくなーーーーーー」
「まーた、奇声なんつーのあげて…いや、構ってる暇はねぇ。やっべ、遅れそぉーーーー」
重そうな荷物を持ち慌てて走っていた部活に向かっていた野球部員の上半身と下半身が吹っ飛んだ光景を見た。
放課後何処に遊びに行こうか駄べっていた女子生徒の首が吹っ飛び、その血で濡れ、残虐な事実を見た女子生徒もまた、ただの血肉と成り果てた。
事の状況が掴めず、ただ呆然としていた教師も。
下を向きイヤホンで目の前にある地獄にも気付かなかった生徒も。
草木の手入れをしていた事務職員も皆、同じような結末を迎えた。
どんなホラー映画、グロ映画、アニメよりも私が見ている光景は、酷く残酷で本物の地獄絵図だろう。
目を瞑る。そんな現実見たくない。
それは叶った。
ブチ、という音を立て、眼壺に真紅の液体が溜まり、染まり、やがて暗闇に変わる。
ワケもわからず、麻酔でも打たれたのか痛みは嘘のように消えて、体が氷のように冷たくなっていく。
「あー…まじかよ、またか」
このような光景をその一言だけで示し、目の前に転がる人間を、いや人間だったものを嫌悪の篭もった目で見ていた。
星も月も浮かばない夜を纏ったローブの裂け目から衣装と真反対の角張った白肌の手を突き出し、言葉を紡ぐ。
「契約者となる魂、我が受け持つ。御身の魂、我が身を削り、守り抜く事を誓う事をここに。これは冥界までの契約である。『死神』の名にかけて________」
虚空が風を呼び、闇が現れ、魔方陣が妖しく周りを照らす。
肉塊は答えるように魂を吐き出し、魔方陣から放たれる微粒子が魂を優しく包み込むように、何処にも行かせないように黒い鳥籠を形成していく。
何万回とその言葉を口にしてきた者として、詠唱は億劫である。その声調からして気だるそうである。
もうちょっと低燃費に生きたいんだから。無駄な生力は使いたくないと思っていると、人間の魂が突如目の前から逃げた。
そう、逃げたのだ。
呆気なく鳥籠の錠を壊して、出ていった。
こんな状況、初めてである。
死者は大抵、過去にどんな結末を迎えようとも言うことは聞く。
何故なら、死ねば生きていた頃の欲は失せるからだ。
どんな頑固な者でも、死神には心を許し、運命を受け止めて冥界へ導かれるのを待っている。
なのに、あの魂は『自ら』、鳥籠の鍵を開けて出ていった。はっきり言おう。
「あの魂、馬鹿だろ!馬鹿だっ!!」
契約を中途半端に結んだ故に面倒は見なければならない。
鳥籠に向けられた己の力を打ち切り、魂を追いかける。
魂は体の質量が消えた為か移動速度が尋常じゃなく早い。
人間で言う霊体化は通常の人間よりかは早くなるだけで死神の脚力なら追いつけるはずだが、霊体化していない丸型の魂状態と鬼ごっこをするならばこちらにも質量がある為、あちらの方が当然、速い。
虚空の地面を連続に蹴り、魂に追いつこうとする。
すると、何処からか声がした。
『おいで、おいで、おいで』
「あ?」
最初は老婆のような枯れた声。
次は若々しく妖艶で男なら誰でもついて行きそうな声。
最後は友達を早く来るように催促する幼子の声が魂を呼んでいた
決して、死神の力ではない何かが彼女の魂を呼んでいる。
「なっ…!?」
突如、他のものの新たな魔方陣が展開されていた。
魂の奪い合いなどない話ではないが多くの者は手を出さない。
暗黙の了解、というものが根付いている。
守らないのは余っ程、空気の読めない馬鹿野郎だろう。
「お前、何の権力があって死神の職、取ってんだ!」
『おいで、おいで、おいで』
「話聞けや!あぁ、クソ!おめぇもノコノコついてってんじゃねぇよ!ばーか!」
『おいで、おいで、おいで』
脳を高速回転させ、脳内に閉まってある知識の本を引っ張り出す。
魂を呼ぶ、死神の誘いに乗らない、それ以上なもの。
魂が望んだこと、願ったこと、そうなって欲しいと思った願望が今まさに、引き寄せている。
魂が死神に抗う意思はないが生前の意思というものが強くある限り、生前の意思が優先度が高まり、それを感じとった神が呼び寄せているとしたら。
「そいつを転生させる気か!?やめろよ!分かった分かった!他の魂渡すからそいつ連れてくな!給料が減給なるんだよ!!てめぇ、どう責任とるんだよ!」
魂が魔方陣に触れる前に死神が走りながら展開していた術を放った刹那に魂と転生させるモノは消えていった。
魂を追い掛けることに夢中で、術を放った後に死神が電柱に衝突していた事は誰も知らない話だ。