序章 世界が死んだ日
世界を表す色は何色が相応しいと思うだろうか。
地球を象徴するように大自然の緑と偉大なる海色か?
人の暖かさを表したオレンジか?
その身に宿した情熱のように弾ける赤色か?
人類のあらゆる可能性を秘めた虹色か?
ーーーーー否、否、否否否否!!!
この腐れ切った世界はどの色にも属さない、属してはいけない、属す権利もない。
それでも世界に色を付けたいなら、この色がきっと世界にはお似合いなのだろう。
白にも黒にもなれない、ましては他の色にもなれない半端な灰色と。
そう、目の前に広がるようなくすんだ灰色がきっと世界にはお似合いだ。
人間の死体で作られた山は無数に存在し、その数を数えるだけで脳が震え、吐き気が込み上げていく。
太陽さえも世界を呆れ、飽きたように遠ざかっていく。
ーーーあぁ、寒い。
生き残っているのは正真正銘、僕だけだった。
太陽が遠ざかる所為だろう、周りの気温がどんどん下がり凍えていく。
光もどんどん彼方へと旅立っていく。
「…」
僕は寒さに倒れた。
その瞬間、鼻を抉るような臭いで肺を埋め尽くした。
人の肉が焼けた臭い、役目を終え空中をさ迷っている欠片の火薬の臭い、そして沢山の、いや全人類が死滅し、その命の残骸、血の臭いが混じりあっていた。
体は凍り付き、霜が降りてきている。
皮が、骨が、筋肉が、細胞がその寒さを『死』と勘違いして役目を終わらせていく。
暗闇の中、僕は僕の唯一の光を見つけた。
光も凍てついた氷の牢獄に閉じ込められていた。
世界の穢から己を守るように。
変わらない端麗な容貌に僕は胸を躍らせた。
世界は灰色、汚れている。半端ものばかり。
でも、目の前にいるこの人は違う。
見開いたは瞳に嵌め込まれた翡翠の宝石のような、人類では有り得ないような美しい色を持っている。
血でその雪肌が汚れても自分の体に異物が刺さっていたとしても穢される事は一生ない。
その正体がこの灰色の世界を消し去った張本人だとしても、魂は美しい翡翠のままだろう。
さようなら、僕の神様。
次の瞬間、僕の体は氷と血肉が混じりあった欠片となり、四散した。