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最期

作者: 洞 工夫

一等賞をとることが夢だったあの頃。もう戻れないことがわかっていても、ついつい振り返ってしまうあの頃。当時の僕は何だって出来た。出来ないことを探す方が難しかったかもしれない。


何故なら、光に満ち溢れていたから。その希望は決して裏切らないのだと確信していたから。その輝きが、僕の原動力で、それだけの原動力だったから、ガス欠になるのは当然だったのかもしれない。


郵便受けに入っていた同窓会の案内。すぐに握りつぶしてしまえばいいのにそうしなかったのは、やはり過去に縋りたかったからなのかもしれない。


あの頃の自分。当時の僕。その振り返りが現状を照らす光線になっていることは分かっている。その光線はあまりに眩しい。今の僕には、あまりにも。


参加か不参加。今の僕にはそれは、資格の有無を問われているようで、苦笑するしかない。その苦り切った笑みは、もうこの顔に張り付いてしまっていて、そう簡単には消えないだろう。おそらく、この先もずっと。


大人になれば自然と手に入れられると思っていた資格。それが何の資格なのか、自分でもよく分かっていない。でもそれは、まっとうな大人なら誰もが持っていて、知らずにちらつかせているもので、平然と手にしているのが当たり前だと思っている。いい歳して、この資格、持ってないの? そう突きつけられたらという恐怖が、どうしたって頭に過ぎる。それが考えすぎだと分かっていても、その意識は常にある。


これが劣等感なのか。子どもの頃は知らなかった感情。喜怒哀楽しか知らなかった、それも明るい感情しかこの世には存在しないと信じきっていた。悲しみなんてフィクションで、怒りなんて想像上のものだと本気で思っていた。消し去ろうとしていた感情が、今、返ってくる。それも、物凄い勢いで。


どうしようかな。という選択肢すら与えられていない。案内状を、なんの迷いもなくゴミ箱に捨てる。


このまま捨てられたらどんなにか楽だろう。今の自分を捨てることに、思いの外抵抗が無い自分に驚く。いや、驚くようなことではないのか。これは当然の行き着くべき考えなのかもしれない。


希望を抱くのはもうやめだ。むしろ希望は残酷だ。一筋の光を、無理やり作り出す。蜘蛛の糸のような細い望みは、夢を見させる。その夢はどこまでも温かい。冷え切った現実に反して、どこまでも続く楽園のように思えてくる。


そして、落とす。非情なまでに。とことん現実を突きつける。そういうものだ。それが生きるということなんだ。ああ、なんで僕は、生きているのだろう。


その問いに答える者はいない。そんなの決まってるじゃないか、と一人、苦笑する。


だんだんと、微かにしのぶ寒気のように、意識が遠のいてくるのが分かる。ようやくか。薬の効き目だけが心配だった。後は一等賞になる夢だけを見ていれば、それでいい。


いいんだ。それでいい。幕は唐突に閉じるものなのだから。



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