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74、001-1 挿話

 +++


 砂埃が目の前を覆っていた。

 彼は瀕死だった。身体は既に塵となって宙へと消えていっている部分もある。

 それでも彼は必死で身体を引き摺りながら、前進していた。元いた場所から歩き抜け、城の回廊を通り抜けていく。


 視界を遮る鬱陶しい砂埃を邪魔だと思っても、最早、手で振り払うことすらしない。体力はもう残り少ない。余計な力をここで使うわけにはいかない。



 意志の強い眉を持つ整った顔立ち。高価な織物で綴られた衣服を身に纏い、身体中から気高さを放っている者。

 彼はこの国の王だった。


 ……だった。


 過去形だ。




 国はまさに今滅びようとしている。


 王は歩き続けた。そして、見付けた。



「――見付けた!まだ存在してくれていたか」



 か細い声で歓喜の声をあげた。


 血だまりに沈んだその人物に視線を向けた。


 リヒター、王の友が剣に突き刺され倒れていた。

 わずかに残っている生命の残滓。

 彼に意識はもう無い。後数分で命は尽きるかもしれない。




「全て、失ってしまったよ。――国も、民も、愛した者達全てを!」

「……」

「すべては私の責任だ。私の甘さが皆を不幸にしたのだ」

「……」

「いや、私は元々王の器では無かったのだ」


『甘ったれたことを言うんじゃねぇ』

 倒れた男がそう応えてくれたような気がした。


「ああ、……リヒター」


 震える手を、王はリヒターの肩の上に乗せた。


「我が友よ、ありがとう。そなたとの友情だけが私に残された真実だ。だからこそ、私も最期の術を使うとしよう」


 王は優しく笑う。

 彼の身体の端々が塵となって消えていくのは続いている。


 涙を流しながらも王は詠唱を開始した。


(やはりおまえも冒されている、か)


 リヒターの身体を触って理解した。リヒターも王と同じ呪いを受けて冒された。これは魂まで侵食する。解呪には膨大な魔力か、外部の助けがいるだろう。


「だからこそ、私は抗う。私がこの国の最後の民だからな。私が復讐するまでこの戦いは続くのさ。ざまあみろだ、勇者。私はここで死ぬが、ここで終わりではないぞ」

 王の身体から最後の術が放たれる。


 術の流れは緩やかだが、正確で変則的な"異術"。


『そんな術を隠し持っていたのか、最後まで嫌な奴だ。――死に方すら決めさせてくれないとはな。そういうところが昔から苦手なんだよ』

 リヒターに意識があるなら、そう言うに違いないと王は思った。


「こんなこと言ってもおまえは聞き入れるかどうか分からないが……。おまえはおまえの道を生きろ。過去に囚われるなよ」

 


 王もリヒターも共に光の粒子に呑み込まれる。


「魔王はここで滅びる。だがこれで終わりでは無い。私は悪役ではないからな。さて、先が楽しみだ」 


 静かな術は一際大きな風を最後に起こして、潰えた。

 後には何も残らない。城には静寂が訪れる。




 そうして彼の地の歴史は幕を閉じたのだった。



 ……。

 …………。

 ………………。









 やがて時は巡り、運命の星道は『水』の時代へと移行する。




 +++


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