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68、午後の研究室で その2

「ところで、ユースさんって騎士団員じゃないんですよね?」

 床に積み上げられていた最後の一冊を棚に戻し終えて、満足したところでふと思い立った。


「何で騎士団棟に実験室を構えるもとい、"居座って"いるんですか?」

「本人を目の前にして良い性格してるじゃない」

「ふっふっふっ」

「フッフッフッ」


 二人ともニヤリと笑う。だが、間に日本海溝ぐらいの深い溝があるのは気のせいだろうか。


「僕達研究者は、表向きは魔術研究所と騎士団の友好を兼ねた戦闘的な技術協力で、数名各騎士団支部へ職員が出向させられるわけ。有事の際は魔術家研究所も戦闘面で協力することは義務づけられているけど、いきなり連携するのって難しいじゃない?だから、こうやって現場に赴いて日々の業務などで交流して経験を積み、息を合わせる練習をしているんだ。……もちろんそれだけじゃないけどねぇ。出向職員は絶妙な立ち位置だから、騎士団員達と同じ部署で居を構えるわけにもいかない。そこで別途部屋を与えられる。バーダフェーダの出向は僕を含めて五人いるけど、偶然にもこの部屋まるまる一人で使っても良いって言われてね。いやぁ、バーダフェーダ支部は太っ腹だよぉ」


「他の方々は?」


「みんな変人ばっかだから、騎士団支部棟に僕と同じく部屋を貰っている人もいれば、そもそもこの敷地内以外で部屋を借りて引きこもっている人もいる」


「ああ、みなさん同族なんですねぇ」

「君が言うと含む物を感じるのは気のせいかなぁ?」

「気のせいですー」




「まあそんなこんなで、ここで騎士からの事件の相談にのったり、アドバイスしたり、騎士団の魔術師に技術提供したり、実際に一緒に出動したりしているのが僕達魔術研究所職員の役目だね。でも、毎日厄介な事件が起こるわけじゃないし、騎士団員の魔術師が解決してしまう場合は僕らはお呼びじゃないわけ。僕らが前面に出る時はもっと専門的な事件や、王国が絡んでる案件が多いかな」


(魔術研究所の職員が大っぴらにお出ましになる事態になるということは、平穏な生活を望む者にとっては良いのか悪いのか……といったとこかしら)


「それでね、時間をもて余している場合は本業の研究に専念して良しとされている。さらに、普段魔術研究所が技術を提供している見返りに騎士団員達に実験協力してもらえることになっているのさ。いやぁ、ありがたい」


「魔術研究所って、王立でしたっけ?」

「そうだねぇ」

(ビバ公務員ってところかしら。満喫してるわねぇ)




「ところで、君は僕の研究テーマって知ってる?」

「いいえ」


「僕の研究テーマは『魔力の消費』だよ」


 ユースロッテの説明によると、要は少ない魔力で強い魔術が使えたら世の中便利になるよね!という技術を追っているらしい。


(魔力底辺の私にとっては興味はある分野だわ)


「でもさ、実験には時に大きな失敗も付きものなわけ。それで少しでも肉体的に魔力を内包している率が高い血の気の多い騎士団の皆さんに"最新装置"の協力を頂いて……」


「要するに人体実験してんですか!?」


「いやいや、あくまでも合法的に、協力してもらってるんだよ?魔術研究所職員への協力は認められているって言ったでしょ!」


 声音は優しいが、顔がいわゆる『悪い顔』をしている。


「ただ、気付かないうちに自然に協力してもらってるだけ」


 最後にぼそりと小さく漏らした言葉を瑞穂は聞き逃さなかった。


「もしかして、最近、支部内で謎の魔力不足で体調不良を訴える騎士が多かったのは……!?」


 エヘッといたずらっ子のような笑みで舌を出すユースロッテだが、かわいくとも何ともなかった。良い大人がその仕草をしてはどん引きである。


「この非道!人権無視!マッドサイエンティスト!!」


 体内の魔力欠乏は貧血と同じで体調に影響が出ることがままある。酷い場合は適切な治療を施さないと死に至る場合もあるのだ。さすがにユースロッテがそんな限界値まで搾り取ることはないだろうが……。


 騎士達は知らずにこの研究者の実験台にされて、生活には支障のないギリギリのレベルで魔力を引き抜かれていたに違いない。


「どれが魔力を引き抜く装置なんですか……?」


 こうしている間にも瑞穂自身もタダでさえ少ない魔力を吸い取られているかもしれない。そう思った途端、ゾクゾクと背筋に冷たい物が走った。


 部屋をぐるりと見渡すも、それらしい装置は見当たらない。


「さすがに僕自身の魔力を引き抜かれるのは困るからね。この研究室には装置はつけてないさ」


 くすくす笑いながら、ウインクする。


「ヒントは生活用品、かな」

「……参考にします」

「答えが分かっても破壊しちゃ駄目だよ~?一応、支部長には許可貰ってるんだから」

 どんな言葉で言いくるめたのだろう。

 そして、どれが魔力を引き抜く装置なのだろうか。きっと、極普通の生活用品に紛れていたに違いない。


 ――騎士団棟にいる時は常に警戒しているべし。


(恐ろしい男――!絶対に関わりたくない奴だわ)


 瑞穂はユースロッテについてのプロフィールを、心の中で密かに要注意度『MAX』と更新したのだった。



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