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61、最強の剣聖と、 その③

 先に斬りかかったのはロワールだった。

 己の筋肉は限界まで鍛えられており、それは大剣を難なく操って見せる。


「いくぞい」


 ロワールの剣には魔力が巡り、そのうねりが可視化するほどのエネルギーの波となっていた。

 まさに大剣そのものが、技と術の結晶で、ひとたび生身で触れれば、その身が消し飛ぶのは言うまでもないだろう。


(老いてなおこの力か……。恐ろしいジーさんだぜ!)

 だが、面白い。単純にワクワクしてくるのはリヒターが魔族故だからだろうか。

 リヒターも身体中の魔力を両手に集中させる。ロワールの剣に対抗するには強靱な魔力の層を身体と武器に流すしかない。

 

 リヒターはロワールの剣を自身の剣を十字に交差させて受け止めた。

 イメージはナ○シカのユ○様だ。


 両者の剣が交わったとき、駒の打ち合いのように火花がはじけて見えた。

 もちろん、ただの火花ではないし、もっと大規模な、雷が弾けるような光景である。


 一瞬二人は面白いといった表情で笑いながら目線を合わせた。


 魔族の将軍同士の戦いはこのように恐ろしく、だが惹き付けられるものなのだ。



 受け止められた剣をロワールはひるむこと無く次への攻撃へと移していく。

 縦横無尽に繰り出される剣技は遅くなるどころかどんどんスピードを加速させる。

 リヒターはそれを引っかき回すような体術で躱す。ただし、そんなに余裕がある風でもない。


 強者と戦いたい――魔族特有の戦闘狂体質の勘は当たっていたのだろう。

 ただの将軍クラスではない。彼は――ロワールは間違いなく"とりわけ"強い。


 いつもなら余裕綽々で戦闘に興じているリヒターが真正面から戦うことにするぐらいなのだから。



 ロワールの剣はさらにスピードを増し、リヒターは背中ギリギリでかすって躱すことも増えてきた。


「青年、おまえはそれだけ、なのかの?」


 ロワールの剣が大きく薙いだ。そして、その直後、リヒターは彼の大剣の剣先に足を下ろしたのである。


「――面妖な体術だの」

「昔厳しい特訓をしたからな。身軽なのが売りなんだよ。じゃあ今度は俺から行くぜ!」


 リヒターは左手の剣を眼前に掲げ、右手の剣は背中に寄せて構えると同時に、ロワールの腹元へ飛び込んだ。


「――双竜波!」


 左手の剣を右から左へと掻き切るように一閃する!

 すると、大きな真空波が形成され――いわゆるソニックブームというやつだ――ロワールの腹へと押し迫った。


 この間わずか0.3秒の時間しか流れていない。


 しかし、ニヤリと口角を上げてロワールは己の剣の構えを解くことなく、リヒターの技を一身に受けたのである!


「狂ったかジジイッ」

「このような技、ワシには効かぬわ!小童め!!フンッ」


 ロワールは息を腹にこめると、それまでもいかつい形状をしていた腹の筋肉がさらに膨れあがった。

 そして、ついには迫ってきた双竜波を鋼の筋肉が受け止め、四方に衝撃を散らしてかき消してしまったのである!


 ヒュウウウッ


「恐えージジイだなっ、と」

 感嘆の口笛を鳴らしながら、リヒターはしかし攻撃の手を止めない。


 彼の右手剣の出番が残っている。


 リヒターの身体は突っ込む形でロワールに再接近していた。しかし、左手の剣の技は消えてしまっている。

 ロワールも防御だけのままではない。

 双竜波を消した時点で、大剣を横薙ぎにして、凄まじい振りの勢いでリヒターを今にも捉えようとしていた。


 この間、0.5秒。


 だが、リヒターも当然そうなることは想定していただから――……。


「むっ!」


 ロワールの目の前から突然リヒターの姿が消えた!


「どこだ!?」


 ――上か!?それとも背後か!!??いや、地面からか!!!!????


「残念、俺のコントローラーは最新式だから、十字ボタンじゃなくてスティック式なのよ」


 ――正解は斜め上!


 流れを正確に言うと、リヒターはロワールの懐から瞬時に地面に一度足を着き、ロワールの腕の下をくぐり抜け、背後へ回り、ロワールから見て斜め上空へと飛び上がったのである。


「真斜双竜斬!!」


 グオオオオッ

 ロワールの悲鳴が轟いた。


 リヒターの右手剣から繰り出された技は、ロワールの身体を頭上斜め上から足下まで一気に切り裂いたのである!


 凄まじい轟音と共に辺り一帯の地面が割れていく。

 地面が砕けていく様は終わらない。

 切り裂いた岩に埋もれながら、沈むロワールの元へリヒターは駆け寄った。


 

「ぐっ、ぐほっ。さすがだ、魔王の右腕よ。王国の一将軍に甘んじているのが恐ろしい……」

「ジーさんも、強かったぞ」

「負けて言われても嬉しくな……いの…」


「……。勝敗は決したけど、まだやる?俺はまだやれるけど??」

「必要ない。これ以上は無意味じゃ」

「俺、今回の戦いでとどめ刺す意味を感じてないんだよね。カタつけて欲しい?」

「御免被る。ワシも給料以上の仕事はせん主義じゃ。十分働いたと思うぞ。見逃してくれるなら、さっさと引退宣言して帰らしてもらいたいがの」

「いいんじゃね?俺たちも周囲の奴らも今の戦いを見て、十分ガス抜き出来たと思うしな」


 そう言うと、リヒターは笑いながら二ふりの剣を軽く回転させて両脇の鞘に押し込めたのだった。


「俺達の軍は今日はもう帰るわ。アンタらもそうしたら?」


「ぐほっ、ぐっ、は、はははは……。そうだの、ワシの軍も随分消沈しておるようじゃ。素直に引かせてもらうかの」


「そりゃよかった。お互い面倒なことせずに済んで良かったな。メデタシメデタシ。……あ、そうだ!どうせこの辺りの戦争って、毎年のごとくやってる小競り合いなわけじゃん?それなら、毎年この地で国同士の武闘大会でもしたら、民のガス抜き出来そうだよな。おお、これって案外良いアイデアじゃね?」


 なぁ?と笑顔でロワールに語りかけるリヒターの雰囲気は、先ほどの戦闘モードからは既に抜け出ているようであった。

 近寄れば切り裂くといった戦闘狂の目から、軽い軟派師のようなチャラい雰囲気になっている。



「おもしろいの、実現した暁にはワシも参加したいの」

「その前にまずその傷を治せ」


 ――おまえが傷をつけた張本人だろうが、その口が何を言う……。

 そんな思いを剛胆なロワールが思うことも無く、ガハガハと笑い続け、ぶっ倒れたのであった。


 リヒターが大きく展開していた殺気を解き、ロワールに背を向けて数分後。 

 ケセンドニア王国の軍陣で見守っていた救護術師達が慌ててロワールの元へ向かってくる。


 そのような様を見ながら、リヒターは自国の陣へと悠々と馬を走らせるのだった。



 これが後にエンフェリーテ史に残る、『ナミココ平原の戦い』の顛末である。



 尚、余談だが、翌年、本当にナミココ平原にてリーダルハイム王国とケセンドニアにおける武闘大会が開催される。

 この武闘大会は広く民衆のガス抜きとして受け入れられ、リーダルハイム王国が滅亡する一年前まで、数十年と長きに渡って開催され続けたのであった。











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