60、最強の剣聖と、 その②
両国の軍陣のちょうどど真ん中辺りでロワールは馬の足を止めた。
馬から降りると、背中の大剣を地面に刺して悠然と構える。
敵軍(リーダルハイム軍)から馬を走らせてくる一人の男に気づいたからだ。
(彼奴がワシの相手をしてくれるのかのう、楽しみじゃ)
「おい、ジーさん」
「むむう、よく来た青年。其方は……」
「リーダルハイム王国の将軍その一だよ」
「おお!思い出したぞ。魔王の右腕か!名はリヒターといったか」
「え?俺って結構有名??そんな感じ????いやあ、照れるわ~」
「リヒター将軍、其方の浮き名は国を渡っておる。その美貌――なるほど、さすがよのぅ。ただ、女相手の軽さだけならず、身のこなしの軽さも存外本物のようじゃ」
ロワールは地面に突き刺した大剣を引き抜き、リヒターに向かって静かに構えた。
対するリヒターも好戦的な表情を見せ、待ってましたとばかりに両脇から二ふりの剣を引き抜いた。
「二刀流か?」
「俺ってば自他共に認める武器マニアなんだよ。それで今はこの剣の使い方にハマってるわけ」
リヒターの二ふりの剣はいわゆるショートソードにしては長く、ロングソードにしては短い長さだった。
具体的な記述をすると、剣の長さは70センチといったところである。レイピアほど刀身は細くはないが、かといって一般的な西洋剣ほど幅が広いわけでもない。どちらかといえば日本刀に近い刀身である。
「アイツ(魔王)に言わせれば俺は武器の天才だが飽き性で、一つの武器を極めていない分決して一流にはなれないんだと」
酷くね?と言いながら、リヒターは一方の剣を手の上でくるりと回転させて、おちゃらけて見せた。
「それはワシにとってはどうでも良いことじゃな。今必要なのは軍主同士の一騎打ちじゃ」
「だろうね。一騎打ちなんていう前時代的な戦い方、相手が乗ってこなければ実現できないのに、変わってるなジーさんは」
「この戦争はただの小競り合いだの。国家間の演出じゃ。民の息抜きの妙薬か。ワシら軍人を出汁に好き勝手に政治家が動いておる。なれば、ワシらも好きな戦い方をしたいと思うての。業務は全うしておる、文句はあるまいて。して、今日は偶然にもアタリの敵軍主が出てきてくれたわけじゃ。ラッキーじゃの」
ロワールが一人で敵陣へ向かう中、仮に敵軍が総攻撃で出撃してきたのなら彼は対処を変えたのだろう。もしかしたら、自軍も出撃させたかもしれないし、文字通りの一騎当千をやってのけたかもしれない。この御仁ならそれが可能だろう。
しかし、一騎打ちをしてくれる変人が出てきてくれた。ロワールは好みの戦い方が出来て僥倖といったところであった。
――彼の釣り餌に引っかかったのが、リヒターだった。ただそれだけのこと。
「始めようかの」
「いつでもいいぜ」
二人は戦闘モードに移った。
剣をお互いに構え、じりじりと間合いを取る。
風が二人の間に走り、砂煙が舞った。