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59、最強の剣聖と、 その①

 リヒターが長らく生きてきた魔族の生の間で、リーダルハイム王国が他国と対立してきたことは幾度とあった。

 リーダルハイム王国の南東にある魔族の国であるケセンドニア王国もその中の一つであった。


 「ここから東方、十キロメートル先でケセンドニア王国軍が待機しております。すぐに動く気配は見せてませんが……」

 リヒターの副官であるネヴィラは地面に着こうかという程の青い長髪を揺らしながら、リヒターに伺いを立ててきた。


 ネヴィラはセイレーン種族だけあって、人を惹き付ける声と容姿でファンも多い。が、彼女が夢中なのは上司のリヒターであった。


 ちなみにネヴィラのファンである周囲の男達は「なんであんな奴に……」とか、「あの女たらしはセイレーンまでも虜にするのか……」などぼやいている。




 本日、リーダルハイム王国の軍勢を指揮官として率いてきたリヒターは、軍勢の一番前に出て、馬上で双眼鏡をかかげた。そしてそのまま、ケセンドニア王国軍がいるとされる方角を見やった。


「……。お~ケセンドニア王国軍うじゃうじゃいるな。ウチの軍も数は揃えちゃいるが、統率はあちらさんの方が執れてそうだ」

「リヒター様、そんなことは」

「う~ん、あるんじゃないか?なんというか、俺たちの軍勢て、個性豊かな面子がそろってるし。中々言う通りに動いてくれないだろ?」

「レッド隊長は確かに異彩を放っておりますが、それ以外の方はまだ『今回』は穏やかな方々です」

「そのレッド隊長が問題なんだよ」



「おいおいおいおい、リヒター指揮官様よぉ。いつになったら、彼奴らんトコに突っ込むんだよ?」

 噂をすればなんとやら、後方で陣取っていた隊長のレッドが、馬に乗りながら背後から声を掛けてきた。

 恐らく待機時間が長くて暇を持てあまし、リヒターに文句を言いにきたのだろう。

 体の良い鬱憤晴らしとも言える。


「落ち着け、まだ機を見ているんだよ。ケセンドニア王国軍のロワール将軍が今回の総大将だろう。そして、あの男はまさに深謀遠慮かつ一騎当千の力をもつ老将だ。下手をすると被害が大きくなる」

「そのお顔、普段のチャラ男とのギャップがたまりませんわ!リヒター様」

「あ、ネヴィラはちょっと黙ってて」


 リヒターはその性格の通り軽くてチャラ男の代名詞のような魔族であるが、殊仕事に関しては真面目なのである。


 そうでなくては魔王の右腕を名乗れる地位まで上り詰めていない。


 リヒターには一面だけでは評価出来ない魅力と何かがある。


 それは周囲もよく承知していて、だからこそ彼の周囲にはファンとアンチが溢れる状態になっている。

 そうして、ファンとアンチの間にはマリアナ海溝並の溝が広がっている。


 


 膠着状態が続いて数時間後、敵陣から離れて一騎だけで駆けてくる者が現れた。


  不思議に思ったリヒターは深く双眼鏡を覗き込むと、そのレンズはロワール将軍を映し出した。


「げ、あの老将軍、単騎で来やがった」


「一騎打ちを所望しているのでしょうか?古風ですわね……」

「関係ねーよ、総出でボコっちまおうぜ!どんなに強くても要は勝てばいいんだからさー」

「その強さは剣聖と謳われるほど、レッド様の言うとおりですわ。真面目にこちらも一人で相手などせず、血気盛んな我らの軍を畳みかけさせる方が得策かと」


(その前にしれっと、レッドが後方から戻ってきてる方が気になるんだが、ツッこむとまた話が折れるから無視しとくか……。本当に俺の命令聞かねーよな、レッドの奴)


「まあわざわざ、敵将の作戦に乗ってやる必要は無いわけだが……。ここは一つ俺も一人で相手してみたいな」

「ええ!?リヒター様本気ですか!!??」

「おまえ、美味しいとこ取りするつもりか!?」


 強い相手を目にすると戦いたくなるのは戦士の性だろう。リヒターもその例に漏れず、強い奴が大好きなのである。既に背中がうずうずしだしている。


 ――ビュンッという音と共に、空気を切り裂く振動が地面に響きわたる。


 リヒターが騒ぎ立てるレッドとネヴィラの前に、二本の剣を交差するように突き立てたのだ。


 その速度はネヴィラなどもってのほか、レッドの目をもってしてもギリギリ追うことが出来たかどうか。


『――ッ』

 黙り込む両者を前にして、リヒターはに爽やかに微笑んだ。


「残念ながら、今回の指揮官は俺だ。俺の命令には逆らってもらっちゃ困る。悪ィけど、腕試ししてみたいんだよ。最近諜報活動ばっかで、身体が鈍っているんだ。久々に肩慣らしさせてくれ」


「チッ、好きにしろ。そして、いずれは俺がおまえに挑むからな!」

「リヒター様が決断されたことならば、異論はありません。どうぞご随意に」


「ありがとな」


 リヒターは土に埋まった二本の剣を引き抜くと、

「一騎打ちでもし俺が負けたら、すぐに軍勢を率いて撤退しろ。そして、四天王に連絡を取って加勢を頼んで、体勢を整え直せ。臨時で指揮官の座をレッド、おまえに譲る。頼んだぞ」

 と言って、ロワールがちょうど留まっている場所へと馬を走らせて行ったのだった。



 馬と駆け行く背を見ながら、ネヴィラは呟いた。

「はああぁ♪馬を駆る姿も貴公子ですわね、お美しい……」


 一方レッドはリヒターが先ほど突き立てた剣が収まっていた地面に着目していた。


「アイツの今日の獲物はあの二ふりの剣か。対するロワール将軍の獲物は確かバスタードソードじゃなかったっけか。こりゃあ、どう戦うか見物だな」



 単純なリーチの差をどう考慮して切り込むのか?

 せいぜいゆっくり見物してやろうと思いながら、レッドは顎をなでた。

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