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55、騎士団女子寮 その1

 騎士団支部事務局に着くと、ユースロッテが事務員と掛け合ってくれて、数ある応接室の一つへと通された。その時にユースロッテとはお役御免と言われて別れたのだった。


 今更ながらに、ユースロッテって実は面倒見の良い人間かもしれない……。


 事務員の女性からは、まずは瑞穂が所属するバーダフェーダ騎士団支部『蒼龍隊 1班(ディアスが管轄する隊で、且つ1班はディアスが直接動く時に指揮する班である)』に所属することが決まったと伝えられる。


 本来なら、今日この場で顔合わせしたいところだが、班のメンバー全員がそれぞれの用で来ることができない。なので、任務開始時に初顔合わせと打ち合わせをして下さいとのことでった。


 正直、瑞穂としても、今日いきなりこの場で全メンバーと顔合わせは、気持ち的にもキツかったので助かったと思っている。


(これから騎士団女子寮で挨拶やら荷ほどきもしなきゃならないのに、余計な神経で精神削られたくないっス)

 どうせ、仕事が始まれば、嫌でも顔を付き合わせて生活しなければならないのだから。


 続いて、騎士団支部での生活の基本的な説明受けたり、登録手続き、そのほか諸々の説明を受けて、二時間後にようやく解放の時を迎える。


「それでは、今日は騎士団女子寮に移動して寮母さんへご挨拶して下さいね。あと、明日の朝に支部内の敷地にある『蒼龍隊』の詰め所へ向かって下さい。ディアスさんからそう伝言を預かっております」


 こうして、事務的な説明は終わり、瑞穂は騎士団女子寮へ。


 騎士団女子寮も支部敷地内の一番西に併設されている。

 瑞穂は事務員から教えてもらった通りに移動して、なんとか女子寮へと辿り着いたのだった。


 女子寮の棟と思われるその前で、一人の女性が枯れ葉掃除をしている。

 身動きの取りやすいロングドレスで、腰まであろうかという髪は肩のあたりでひとまとめにされている。薄い金の髪は日の光に照らされてさながら天使のようだ……。


 腰元には分厚いベルトとそこにつながれた鍵の束があり、胸元のポケットには一般人では気づかないであろうが、恐らく飛び道具の類の武器が入っていることに瑞穂は気づいた。

(結構な使い手かも。穏便に対応しておきたいわね)


 彼女は瑞穂の姿に気づくと、こちらにゆるりとした歩調で寄ってきた。


「あら~、お客さん?」

「ミズホ=アキと申します。今日からこちらの女子寮でお世話になります」

 ぺこりと頭を下げると、女性は合点がいったのか、にっこりと笑顔を返してくれた。

「はい、よろしくね。貴女がディアス隊長のお気に入り、なのね。うふふ、大丈夫、貴女がいわくつきな事情で入団したことは、上長クラスまでしか伝わっていないから。安心してね」


(お気に入り……?何か騎士団内で間違った情報が伝わってるのでは……???私はお気に入りではなく、嫌疑の目を常に向けられているのですようっ)

 ――と、声に出したい瑞穂であったが、話の腰を折るのも躊躇われたので、苦笑いをして肯定も否定もしないこととした。


「私はカリーナ=キャスティン。この騎士団で唯一の女子寮の寮母をしているの。以前までは『炎龍隊』の隊長していたのだけど、負傷しちゃってね、こっちに移動となったわけ。でも、今でも助っ人でかり出されることも多くて、ずっとこの寮に滞在しているわけではないから、用があるなら気をつけてね」


「カリーナさんですね、よろしくお願いします」

「ふふふ、元気の良い子は好きよ。ちょうど、お掃除も目処がついたところだし……。貴女の部屋はもう準備出来ていることだし……。いいわ、早速案内しましょう。私に着いてきてくれる?」

「はい」


 瑞穂は新しい住居に、少しながら胸をときめかせてカリーナに着いていくのであった。



   +++


「貴方も大変ね、いきなり騎士団で働く事になるなんて……。ベルテク支部長から"事情"があるとは聞いているけれど。協力出来ることがあればなんでも言って頂戴ね」


 カリーナはてきぱきと三階建ての寮棟を案内してくれた。


 白の壁と木製の柱が骨子の建物で、調度品はどこもこざっぱりとまとめられて配置されているようだ。

 真新しい建物ではないが、清潔に使用されているのが伺える。


 二階に上がると、テラスがあり、晴れた午後の日差しを受けた洗濯物がはためいていた。それを見ると自然と気分が高揚してくるものだ。絶好の引っ越し日和だと思いながらカリーナに着いていく。

 寮での注意事項や手続きなどを会話に織り交ぜながら歩き、最後に瑞穂の部屋になる場所へと誘われた。


「ここ、三階の五号室が貴女の部屋になるわ」



 女子寮は使用者が少なく、運良く瑞穂は一人部屋を当てがわれることとなった。305と書かれている木製のプレートが掛けられたドアをカリーナが開けてくれる。玄関の先には八畳一間くらいの空間が広がっていた。


「出勤はいつから?」

「一応、打ち合わせは明日からで、本格的には一週間後になるらしい……です。また変わるかもしれませんが」


「明日からね?なら、今日は諸々準備しておくことね。女子寮の住人達は支部でも様々な職に就いているから、基本、決まった時間に顔を合わす人間は少ないかもしれないけれど、一度は全員には挨拶しておくといいわ。そうそう、隣の四号室には貴女と同年齢くらいのエイミィという子がいるの。今日は仕事も終わってで部屋にいるみたいだし、早速顔を出してみてはどうかしら」


 それからもカリーナは瑞穂のことを気遣いながら話を進めてくれた。


 どのようにベルテク支部長から瑞穂のことを話されているのか気になるが、始終笑みと共に頷いておく。さらにディアスが瑞穂を気に掛けていることも知っていた為か、どういう関係なのか聞かれたが、それにはイレナド砦から事件に巻き込まれた縁で同行していただけだと伝えてみた。……が、カリーナがどう受け取ったのかは疑問である。


「寮の門限は特にないわ。先ほども言ったけど、住人の職に統一性が無いから無意味なのよ。騎士の女性も少なからずいるし、その場合、深夜でも出動とかあるしね。事務員やコックとして働いているコもいるし。でも、どのような時間帯でも節度ある使用を心がけてね。必要以上に大声を上げて過ごしたり、男を連れ込むのは禁止。そういうことをしたいなら別の場所で、ね?」


「ははっ、相手がいませんよ……」

「あら、かわいいのに。干物女発言にはまだ早いわよ?」

 言うべきこと言ってカリーナは去っていった。


(異世界で異性と恋仲になる予定は今のところ無いんだけどねぇ)



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