表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/75

50、あの時



 アウローラ、それは前世での俺の愛した女性の名。

 

 美しく透き通った水色の髪と白い陶器を思わせる肌の色。

 触れれば折れそうな華奢な容姿。

 

 けれども心の芯は気高く誰も傷つけることは決して出来ない。

 

 彼女の結婚式を控えた前日に、勇者を擁する彼の国は攻めてきた。


 "ありえないこと"の連続が続き、難攻不落を誇った魔族の国リーダルハイムは一日にして墜ちた。


 魔族の大半は死に絶えた。

 俺も、アウローラも例外ではなかった。


「リヒター様!お逃げ下さいっ」


 あの時、俺の目の前でアウローラが崩れ落ちていくのをただ見ていることしか出来なかった。


 勇者の『魔の呪』に身体の自由を奪われた俺は、彼がアウローラを目の前で剣で貫き、剣から発せられた氷に彼女が飲み込まれていくのを、ただただ見ていることしかできなかったわけだ。


 言葉にならない叫びを、怨嗟の念を放つ俺に勇者はただ冷えた目で見据えるのみだった。


「っっっ!!!アウローラ―――ッ!!!」


 アウローラを完全に凍りづけした後、勇者は手下の術師達を呼び、幾重にも呪術の鎖を"氷付けにされたそれ"に施させた。


 身動きの取れない俺を眼下に、勇者は感情の無い声を放った。


「愚かだな、魔王の右腕ともあろう者が」


「ふざけるな!何が言いたい!!」


「無知は罪だ。それが上に立つ者ならより一層だ」


「何を言っている!」

 地面に沈んだ俺は身体に激情が走るも、立ち上がることさえ出来ない。


 ――力があれば!コイツ以上に力があればこんなことには!!何が魔族のナンバー2の実力者だ!肝心な時に身体を動かすことも出来やしねぇ!


「文字通りだ。さあ、もう終わりにしよう。こんな馬鹿げた狂劇に付き合うのは沢山だ」


 あの時、俺は彼奴(勇者)が何を言っているのか分からなかった。

 分からないまま、惨劇は続いたのだ。


 ……そうなのだ、俺の地獄はここで終わりじゃなかった。


     +++

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ