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43、戻ってきた宿にて

「ふぇっくしょーい!うう、さぶっ。今、背中に冷たいモノが走ったようううっ」

「何つまんないこと言ってんだ!精神体のくせに!」

「いやいや、こうして、現実世界に見えるように具現化出来てるんだから、これはもう、ただの精神体ではないって、偉大なる鉱石師テディ・ドラン様の御技であーるっぶふっう!!??」

 瑞穂の容赦ない枕投げがテディに命中する。

「ナイスショット♪夏の大会ではレギュラー出場する日も近いな……」

 瑞穂は地球で部活をやっているのをふと思い出した。夏休みまでにはぜひ故郷に帰りたいものだ。何せテニス部でレギュラーを狙っている最中なのである。幸い優しい先輩に囲まれて、成果も上々だった。

「あーっもう!そもそも夏までには帰れるのかよ!!」

 美形青年リヒター姿の瑞穂は怒っていても絵になった。どこかの有閑マダムに目を付けられたらピンチかもしれない。なんて羨ましい――そんなことを思いながら、テディは口を開いた。


「瑞穂の望郷の念なんてどうでもいいよう!僕に枕をぶつけることの方が、目下糾弾すべき、悪逆非道たる振る舞いだよう!」

「何気にきついこと言うよな、テディって。って、いやいや、非道なんかじゃないからな!今は焦ってんだよ!時間がないわけ!分かる!?恐らく、ユースが俺の部屋に来るまで後三十分程度だろう。昨日七時くらいに来る……というようなことを言ってたからな」

「分かってるよう。だから無理矢理僕を起こしたんだろう?」


 瑞穂はホテルの自室に戻ってから急いで元の瑞穂の姿に戻る手段を考えた。

 路地裏のアクシデントで思わぬ時間を食ってしまって、ユースロッテの前に現す姿の対策がまだ成ってないのだ。

 幻影魔術を使い続けるか、何か別の手段を使うくらいしか、策は思いつかない。

 正直、幻影魔術は術符を消費し続けなければならないから、気乗りしなかった。

 幻影魔術に対する術符の効果時間は、瑞穂の常日頃の燃費改良により非常に持ちが良い。恐らく当分、下手したら数ヶ月は一枚の術符で持つだろう。だが、もしものことがある。ストックが何かのトラブルで尽きてしまえば今度は瑞穂自身の魔力を消費しながらの生活になる。

(それだけは避けたい。あれ、常に貧血の状態に近くなるから嫌なんだよ……)

 かくなる上は宝珠の精(?)テディにいっちょ相談してみますか!ということになったのである。


「でも眠ってる僕を、君のお得意な魔力の質操作で揺さぶりをかけて起こすなんて……!非道い奴と言って何が悪いんだ~!!」

 横暴だ~と言いながら、テディはベッドの上をゴロゴロ転げ回った。

「――そんだけ暴れたら目が覚めただろ?頼むから、何か元の姿に戻る案が無いか一緒に考えてくれ……」

「最初からそう言えば良かったんだよ」

 コホンッと、テディは一息つくと、ああ!と言って手をついた。

「あるよ!僕(宝珠)の力で変化の術を掛けてあげるよ。幻影ではなく、変化だから、仮に誰かに触られても瑞穂という素体に接している感覚と変わらない。身長もすべて変化の術にて変化させているから瑞穂の身長・目線で生活出来るよ。君に提供している部分以外の魔力はまだ潤沢にあるから、ここから僕が変化の術を自動的に作り続ける流れを用意して、展開しておいてあげるよ」

「マジか!?」

「出血大サービスだよ!僕らは一応、利益を共有した一心同体だからね。僕も本体のテディに出会うまで、同郷の仲間を失いたくない」

「そりゃどうも」

「けれど報酬は欲しいな。そうだ、バーダフェーダの冒険者街で有名な白あんこまんじゅうを今度大量に買ってきてよー」

「うっ、仕方ないな……」

(ていうか、実体無いのに食べれるのか?そもそもどこで情報仕入れてんだよ???)

 瑞穂はあえて聞かないことにした。とにかく、今は変化の術を急いで展開しなければ。

「じゃあ、いくよ!目を瞑って!」

「オッケー!」

「鉱石師たるテディ・ドランが命じる!宝珠よ!主の命を聞き、彼の者を変容させよ!!」

 テディが詠唱すると、光がリヒター姿の瑞穂を包み込み、あっという間に現世の瑞穂の姿へと変えたのだった。



「ぐっ……」

(ちょっと待って。なんかこれ、気持ち悪い……)

 うめく瑞穂の姿を見て、テディは動揺した。

「えっ!僕の術が悪かったのかな!?ごめんよぅっ。えっ、大丈夫???」

 瑞穂は地面に手をついた。四つん這いの体勢となる。

「大丈夫、じゃない~。うええっ、何これぇっっ」

 瑞穂の声がおかしい。男性と女性の声が二つ重なって発せられている。リヒターと瑞穂の声が二重になっているのだ。姿もリヒターと瑞穂の身体がブレるように映っている。


(魔力の流れがっ。異種の魔力の流れがぶつかり合って、反発しあってるんだっ)

「ぐっ。呪いの魔力と宝珠の魔力かっ、くっ。なら…私の、ま、魔力も、ぶ、つけれ、ば……」

 瑞穂は冷や汗を流しながらも身体の芯へとなけなしの自らの魔力をぶつけてみた。

 その瞬間、体内で大きな魔力が反響しあう音が響いていく。

 大きな力二つは対になる形で拮抗していたがために、瑞穂の特異な魔力をけしかけることで、"それ"に引っ張られて、体外へと放出されてしまったのだった。

「や、った……。う……」

 何も出来ず冷や冷やしながら見守るテディを余所に、瑞穂はそのまま光の奔流に包まれた。

 そして、光が消えきった先には……元の姿、高校生の瑞穂の姿が出現したのであった。


「えっ、えっ、と……。何が起こったの?僕の術が成功したんじゃ…ないよね?失敗したわけでも無いと思うんだけど……。姿は女子に戻ってるし」

 テディは瑞穂の周りを歩きながら、うむむっと思考に浸りつつ、彼女が回復するのを待った。今、テディが手出しするのは良くないと思われたからだ。

「ううっ。し、しんどかった……。ある意味助かったわ。ありがとうテディ、と言えなくもないわね」

 お礼を良いながら、瑞穂はベッドへ身体を覆い被さった。



「テディ(本体)が開発したオリジナル変化魔術を使ったんだけど。粗の無い魔術だと太鼓判を押しておけるほどの術なんだけどなぁ」

「ええ、貴方の魔術は成功してたわ。ただ、私に掛けられていた"呪い"の力が反応するほどテディ(本体)の力は精工で凄い力だったみたい。呪いの力にとっては、貴方の術が予想外で、ぶつかり合ってしてまった。私の調子がおかしいのが影響して、呪いの力が不安定になって過去の姿に戻っていたところへ、テディの力が向かって、不安定な力の流れがテディの力へ引きつけられた。そして、引きつけ反発しあう力のところへ、さらに魔族の部分では無い、私の"瑞穂"の人間のみの魔力を流しこんで、どちらも体外へと突き出してやったのよ」

 分かる?という素振りをして、瑞穂はテディへ目だけ、視線をむけた。身体はしんどくて動かせない。

「ああ、なんとなく、分かるよぉ。しっかし、おったまげたね、それは……」

「私の人間の魔力なんてたかが知れてるわ。でも、私の魔力は異質だし、魔力操作は得意だからね。他者の魔力の誘導がぶっつけ本番で成功するとは思わなかったけど、良かったわ」

「ほぁえ~。瑞穂、君はぁ、魔術のセンスがすこぶる良いんだねぇ。びっくりだよぉ」

「ふふふ、ありがと」

 

「――っと、とにかく僕の術も君の姿を戻すことには貢献したんだよねぇ?なら、白あんこまんじゅうヨロシク頼むよ~」

「分かってる。回復したら買ってきてあげるわ」

「あ~よかった。なら僕はお役御免だよね?じゃあ、僕は久々に術を使って疲れたから、続きはまた今度ね」

 じゃ、と言って、テディは姿を消してしまった。


「さんきゅ~テディ」

 瑞穂は突っ伏したまま消えたテディのいた方向へ手だけふってやった。


「服、着替えよう……」


 こうして元の瑞穂の制服に着替えた。



 そして間もなく、ユースロッテの声がドアの外から聞こえてきたのだった。





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