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41、接点2

「私ってば有名だから~、この姿を見れば貴方も分かるでしょ?」

(いやいや、ちょっと自意識過剰じゃないっスかぁ?)

 緊迫した場面ではあるものの、内心苦笑しつつ瑞穂は彼女を見据えた。


 目の前の人物の姿形はまさしく、テロ現場でサンフェル王子とディアスに助けられた聖女エフィアである。

 けれども、彼女は最初に目撃した年齢より五年は若くした少女の姿でこの場にいた。ユースロッテが語ってくれた聖女情報の通り、当初十七歳くらいだった印象から十二歳へ変化した感じだ。

 そして、今、瑞穂の目の前で瑞穂が知っている年齢の大人(十七歳程度)の姿に"戻った"わけである。



「うんうん、面識は無いが知ってるよ。聖女エフィア様だよな。かの有名な貴女が、どうしてここでこんなことをしているんだ?それにその不可思議な変化の術は何だ??」

「あら、この状況で質問攻めなんて勇気あるわね。いいえ、馬鹿なのかしら?とにかく、私は私の仕事をしてるだけ。そして、私が貴方に自己紹介したのも、目撃者は始末するのみだから、せめて死ぬ前の貴方の疑問に答えてあげたいというサービス精神から来たものな・わ・け」

 お・わ・か・り?という腕組みポーズをエフィアらしき女性は決める。


「君は見てくれは聖女エフィア様だがエフィアでは無いような気がするな……。ああ、違和感はこうだ。人格が全く違う気がするんだよ。君は一体"誰"なんだ?」

「お好きに捉えてくれて結構よ♪冥土でじっくり考えてちょうだい!!」

 言葉と共に、聖女を称する女性が瑞穂の懐に飛び込んで来た。

 彼女の武器エモノは短剣二つだ。その切っ先が瑞穂の腹部分に向けられた。


(リヒターの身で躱すことは容易い。いけるっ)

 リヒターは伊達に魔王の右腕を名乗っていたわけではない。魔術にも体術にも長けて一番を貫いてきたからこそ、その座に就けたのである。

 魔力面を封じられていても、物理的な筋力や体力、体術は封じられたわけではない。

(この姿に戻ったのなら、いけるさ……!)

 瑞穂は腹筋に力を篭めて寸でのところで、身を転がした。エフィアの短剣は二回続けて空を切る。

「――ちょっとお、動かないでよ!」

「突っ立ったままだと死ぬだろ!ふざけんな!!」

(最初見た時から分かっていたが、何つー危険な女なんだ!思考からしてヤバイ)

 ちょっと痛めつけてやろうとかいう雰囲気じゃない、彼女はその言動通り、殺すつもりで来ている。その無邪気さというか淡泊な言動はよもや冗談で言っているのではと勘違いさせらせそうになるが、残念ながら本気のようである。

 目的の為なら死者を出しても構わない類の人間は、こちらもそれ相応の覚悟で相対さないと命の保証は無い。

 ――非常に面倒だ。

「フンッ」

 エフィアは両手に持った短剣二つを、憤慨しながら地面に叩き付けた。

 今の一撃で瑞穂を仕留められると思っていたエフィアは上手くいかなかったことに苛立っているようだ。

 確かに彼女は訓練された者の動きをしているが、一流では無い。どちらかというと、魔術師としての面の方が得意分野なのだろうと推察出来る。そもそも聖女自体が肉体派ではない術使いの性質を帯びているわけで、彼女自身が本物のあの聖女エフィアなら尚のこと、物理戦闘向きではないのだ。

 仮にどこかで小さい時から暗殺の訓練でも課せられた『暗殺者兼聖女』とかいうややこしい設定を背負っているなら話は別だが、そういった人物でも無さそうだ。


 エフィアはさらに背中から短剣というよりは飛苦無(とびくない:投げることに特化した小型の忍刀)に近い剣を取り出して投げつけてくる。

 遠方標的を外さず捕らえることに重きを置いた武器に切り替えたことは、瑞穂の力量を彼女が認め、より精度を重視した姿勢に切り替えたことを示す。

 次々飛んでくる飛苦無を時には避け、時には護身として携帯していた剣を抜いて瑞穂はたたき落とした。

(次から次へと沢山武器を持っているんだな。それだけ常に戦闘を想定して生きているってことか?この平和そうな街中でも???)

 街の外なら様々な危険があるだろうが、このバーダフェーダに訪れてから得た印象はまずは治安がそれなりに保たれていることでった。

(確かにテロだのなんだのに遭遇はしたし、安全とは言い切れないだろうが、その装備はちと過重装備じゃないか?)


「あの男たちが光を浴びて灰と化した理由は何だ?」

「答えるわけないでしょう!」

「だろうな、俺でもそう言うさ!」

「貴方は始末させてもらうんだから!」

「おっとそれはノーサンキューだ、なっ」

 エフィアは魔術に切り替えたのか、魔術で呼び起こした炎の矢を瑞穂に向けて放ってきた。

 わずかな会話の間にも呪文詠唱は行っていたのはさすがである。


 しかしながら、瑞穂も準備は怠っていたわけではない。


「霧よ!」


 咄嗟に取り出した瑞穂の術符が光り出し、周囲一帯を霧が包み込みだした。


 聖女エフィア(?)に接触した時から『面倒事』に関わることは覚悟していたのだ。


 となれば、相手側の事情に出来るだけ接触して、情報を得たいが、相手の出方次第ではこちらが攻撃を受けることは必至だろう。そう推測していた瑞穂はこの場から撤退出来るように、発動に時間のかかる霧の魔術の下ごしらえを今に至るまでずっと行い続けていたのである。


「霧の海を作ったって無駄よ!私の炎の矢は貴方に命中するまで追跡をやめないんだから!」

 魔術の矢だからこそ、霧には関係なく標的に向かっていくと言いたいらしい。

「ねちっこい奴だな!」

(けれど、それは『どこの世界』の魔術だろうな?お嬢さん)

 ニヤリと、瑞穂は艶やかに笑う。


 トライディアの魔術はトライディアの住人の魔力を源流として作られているのは当然の話である。(普通は世界を股にかけることを想定していないので当たり前なのだが。)

 つまりは、トライディア人の魔力を元に構成されているわけだ。


 一方、瑞穂は現在『地球製』かつ前世引き継ぎの『エンフェリーテの魔力』を所持している。必要に応じて、トライディアの魔力に合わせた自身の魔力変化は特技として持っているが、それを今する必要は無い。

 そういうわけで、エフィアのトライディア人の魔力に沿った追跡型攻撃魔術は決して、瑞穂の魔力を嗅ぎつけることは出来ないのである。もちろん、視認していれば手動で操作して瑞穂の身体を捉えることは出来ようが、現在はご覧の通り濃い霧の中に姿は隠れてしまっている。


 行き場の失った炎の矢の術は瑞穂を素通りして、彼方へと過ぎ去ってしまう。恐らく、炎の矢自身の魔力が尽きるまで、方々をさまようことだろう。何せ、標的となる魔力が捉えられないのだから。


「嘘っ!何で!?何で当たらないのよ!!??」


 霧の向こうで地団駄を踏むエフィアの声が聞こえてきた。


「種明かしなんてするわけないだろ?それこそ、君の『人を灰にする術』の秘密を言わないのと一緒さ」


 瑞穂は既に退却体勢に入っていた。

「じゃあな、もうお互い会わないことを祈ろう」

「ふっざけないで!今度会ったら、ただじゃ置かないから!というか絶対見つけ出して、殺してやるから!!」


 自棄を起こして、追加で放った彼女の炎の矢が瑞穂の肩をかすめていった。

「うげっ、闇雲に打たれた魔術の方が当たる精度高いって怖えーよ!!」

 瑞穂は地面に手をついて、身体を捻って回転させる。その瞬間、地面に落ちていた『灰』を迷わず救いあげてポケットへと詰め込んだ。

 その一瞬の動作は霧に紛れていたこと、瑞穂の俊敏さもありエフィアには見えていない。

 瑞穂は任務完了とばかりに口の端を上げ、思いっきり息を胸から吐き出した。

 このあたりで退却しておくのが吉だと判断したのだ。


 わめく彼女を背に、瑞穂はもう振り返らずに思い切り走り去ったのであった。



 念のため、宿までは気配を絶つ魔術も展開することにする。

(うわ~、執念深そうだなぁ。でも、今の私はリヒター姿だし、この街ではあの女性が居そうな場所でリヒター姿にならなければ、いきなり襲いかかられることはないはず……)


 幸いにもこのリヒター姿で街を出歩いていたのが良かったようだ。

 普段は瑞穂の現世姿で活動しているわけで、後は一刻も早くリヒター姿から戻る手段を手にいれれば問題ないはずであった。


 宿についたころには時計が午前六時を指していた。ユースロッテが、午前七時には声をかけにくると言っていたのを思いだし、息つく間もなく瑞穂は彼を出迎える体勢を整え始める。


(宿を抜けたのは自業自得だけど、見事に貫徹ねー!あ~眠いわ)

 なんだか異世界に来てから、睡眠時間が度々削られる羽目に合っている気がするのは何故だろう。

 気のせい気のせいと言い聞かし、瑞穂は作業に移るのであった。


   +++



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