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40、接点1

 明け方4時頃、すっかり遊び尽くした瑞穂は酒場を後にして宿に戻るべく突き進んでいた。

 もはや元に戻る算段はひとまず置いておくことにした。つまりは宿屋に戻っても幻術で姿を誤魔化すことにしたのである。姿を元に戻す作戦を考えるにはあまりにも時間が足りなかったのだ。


それにしても、賭けカードゲームは久しぶりだった。

現世では一つ下の弟と子供の頃トランプをした程度だ。

(本当に久しぶりだ。賭け、か。勝負事はいつも緊張感がある)

 

かつて勝負で大いに負けたのは二度だけだ。

 

魔王と、勇者にである。


二度とも一騎打ちの戦闘だった。


一度目は魔王と。彼とは楽しみながら、そして良きライバルとして戦った。最後の局面で賭けにでて、負けた。しかし、その後は二人肩を組み合い笑いあったのだ。


二度目は勇者と。彼とは怨嗟の念と咆哮を上げながら戦った。そして、最後には呪いを受けて敗れ去った。


暖かい思い出と苦い思い出が胸をわずかに疼かせたが、瑞穂は頭を振って追いやった。




 懐は膨らみ気分は上々。今はこれからを考えよう。

ほくほく顔になって、薄ら明るい冒険者街を青年姿の瑞穂は行く。

 まだ庶民が活動を始めるには早すぎるが、意識が高い者はランニングしだしたりするかもしれない時間帯。

 ふと、通り過ぎようとした路地裏に目が止まった。道の奥から禍々しい臭いが漏れ出てきているのに気づいたのだ。


 どうにも気になった瑞穂は、少しだけ、と路地裏に向かった。

(良くないモノの気配がする。乙女の第六感ってやつよ)



 急いで駆けていけば、路地裏の奥には倒れている男達が数名いた。そして、その上に立つ者が一人。修道女のような格好の少女が場違いな場にいた。彼女は天に祈りを捧げている。朝靄の中、彼女の天から足下へと光が流れ落ちる。光に遮られて、彼女の顔は見えない。


 光は、足下の男達へも染み渡り……、そして、彼らは灰と化した。


「うぐっ」

(何という場に遭遇してしまったんだ!最悪だ。これはヤバい奴だ。関わると碌なことが無い)

「あら、お客さん?」

 少女がこちらに気づいた。どうやら近づき過ぎたようだ。もとより、これだけの異様な光景をそのままに立ち去る性分でもないから仕方ない。


「――何をしている?」

 嫌悪感で口を押さえたまま瑞穂は彼女に近づいた。


 相手の力は未知数。ただの少女がこんな時間帯にうろついているはずがない。

 加えて自分は、姿形は前世のものだが、戦闘力が戻っている確証が無い。

 なるべく、相手とは距離を詰めずに話すことを心がけた。

「ふふっ、私の力におびえているの?お利口じゃない」

 彼女が何かを呟くと、彼女自身を遮っていた光が霧散した。


「――君は、」

 あのテロの場でディアスへ親しげに接していた女性によく似ている。


 ……だが。

 

 あの女性と断言出来ないのは、あまりにもあの時、遠巻きから見た彼女と年齢的容姿が違うから。

 混乱も相まって、知り合いでも無いので名が出てこない。


 ユースと語り合っていた場面を思い出し、なんとか浮かんだ名を絞り出す。

「確か……エフィアとかいう名前だったっけか?」


「むっ、何故に疑問形?私、そこそこ有名だと思うけど?」

 エフィアと呼ばれて反応した少女は口を膨らませてそう言った。


 そうなのである。確かにテロ現場で居合わせた聖女エフィアなんだろう。この街で聖女といえば有名だ。ただの旅人でも街案内ガイドブックで目にした経験があるだろう。


 だが、違和感が拭えない。彼女の容姿が確信を得させてくれない。


 微妙な顔をしている瑞穂を見て、彼女はああ、と納得した顔で口の端をあげた。


「こうすれば合点がいくんじゃない?」

 エフィアが即座に何かを呟く。

 すると、彼女は『少女』ではなく、『女性』と言われる容貌に一瞬で変化したのだった。



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