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38、深夜、冒険者の集う街へ その4

 カードゲームはポーカーに似たものだった為、すんなりとルールは呑み込めた。前世時代から酒場でゲームに興じるのは好きだったのが功を奏した形だ。

 ルールを知らない瑞穂の為に説明を兼ねて、手始めにデコルテが相手になったが、瑞穂は彼をすぐに伸してしまった。

 知らない内に出来ていたギャラリーが沸く。大半が場慣れした冒険者達や夜のお仕事をしているお姉様方だった。場末の酒場での思いがけないイベントに興味津々だ。

 一方瑞穂はというと、全く周囲の状況は意に介さなかった。賭け事で周囲が沸くことはよくあることだし、経験もしてきたからだ。

 これは面白いと、ギャラリーのうちの数人が瑞穂に挑戦し始める。瑞穂も機嫌良くその戦いを受け入れるものだから、次々と挑戦者を狩ってしまう状況がしばらく続いた。十人ほど挑戦者を倒したところで、熱気も最高潮に達したかというころ、満を持していよいよギョクランが登場した。


「強いじゃない」

 私との賭けゲームだったはずなのに先に居場所を奪われてしまったわと、苦笑気味に対面姿勢で腰を落ち着けた。

 彼女は慣れた手つきでカードを切り始める。

「ポーカーは俺の十八番だからな」

「ポーカー?」

「あ、いや、これはそんな名前のゲームじゃなかったな。こっちの話だ、気にしないでくれ」

 不思議そうな顔をしながらもギョクランはカードを切り出した。そして、必要枚数を並べていく。

「ゲームをしている時の貴方は、より野性味があって好みだわ」

 背後で筋肉男のブーイングが聞こえるが、無視だ。

「そんなこと言っても、俺は動じないぞ」

「でしょうね。その表情無しのお顔を、どうやって崩すか考えてるのだけど」



 ゲームが始まり、二人の順番を繰り返して、そろそろ20分が過ぎようかという頃。

「いつか貴方のお顔が歪む様を見たいわね」

 自分の手持ち札を見ながらギョクランは嘆息した。

「とんだドS発言だなっ――と、ほいよ、上がりだ」

 かなりの攻防戦だったが、瑞穂はなんとかギョクランを制したのだった。



 ギョクラン自ら、これでゲームは終了だと宣言すると、周囲にいた人々は散っていってしまった。

「はい、賭け報酬の五万G」

 約束は守るわと言わんばかりに、ギョクランは腰元の袋からお金を取り出した。

 ちょうど良い布袋が無いといって剥きだして瑞穂の手に乗せられたのは、金貨が五枚であった。

 金貨と言えども大陸によって流通価格が違う。この金貨はガルド金貨だ。一応、アランガルド大陸内では全土で使える共通通貨で、ガルド金貨一枚=一万G=日本円で言うと一万円というイメージである。普段貧乏生活で中々目にしない貨幣なだけに、瑞穂は少し緊張しつつも丁寧に貰った金貨を懐に収めた。


「ありがとな。でもさ、君、本気じゃなかったよな?」

「……。表情には出さないようにしてたつもりだけどバレてたかしら?」

「いや、単純に君の集中する先が手札というよりも、俺に向いていた気がしたからそうかなと思っただけ」

「半分正解かしら。貴方と対戦することで、貴方の中にある『性質』を見極めようとしていたの。だから100%本気を出せなかった。言い訳に聞こえるでしょけど」

「へえ?それで、俺の中に何があるか見通すことは出来たのかな?」

 瑞穂はニッコリとギョクランに笑い返した。しかし、内心は大慌てである。

 瑞穂の前世と現世の状況を全て見透かされるとは思わないが、思わぬことを言い当てられることもある。この手の占術師の勘は馬鹿に出来ないからだ。


「成果はこれから見せるわ。そもそも、私もまだ知らないのよ」

 小さく妖艶に微笑んで、ギョクランは胸元に手を突っ込んだ。なんと大胆なと思ったのも束の間、抜き出された手には一枚のカードが瑞穂に向けられるようにあったのだった。


「私にはカードの裏側しか見えてないの。表には何の絵が描かれているかしら?」

 カードの絵はいわゆるタロットカードと同種のようなものであろうことが推測出来た。

 とすれば、カードの絵には何か瑞穂自身を暗示する表現が描かれているのだろう。

「女性が車輪を持っている絵だ」

「男性ではなく女性が車輪を持っているのね?」

「そうだ」

「ッフフ、あははっ。本当にとことん面白い運命にある御方のようね」

「意味は?」

「本格的な占いじゃないから不確かなことも多いわよ?大雑把に言わせてもらうと、貴方は『因果律の女神に魅入られた数奇な先駆者』といったところね」

「――もっと分かりやすく言ってくれ」


「過去も現世も未知の地を自身で切り開くしかない性分かつ運命。ただ、立ちはだかる壁がちょっと変わった物が多いから、貴方は苦労も多いかもしれないけど、その先に見ることが出来る風景は常人よりひと味違ったものになることが多いわ。ああ、巻き込まれ体質なのね!」

 ギョクランは一人で得心したとばかりにテンションを上げて声を放った。

「でも、常に選択肢は貴方にある。どれを選びどれを捨てるかで大きな世界の因果を動かすこともあるでしょう」


「俺も厄介な女神に魅入られたもんだ」

「でも、車輪は貴方の手で回すのだから。貴方はきっと『物語』の根幹を否が応でも携わる事が出来るラッキーな人種かもね」

「大きな流れを特等席で鑑賞出来る優待持ちってとこか?」

「この絵を見れば、鑑賞というより『干渉』できそうね」

「はははっ、こりゃ参ったな」

「これで私の簡単な占いは終わり。デコルテ、このカードは小箱に直しておいて」

「分かった」

 デコルテがカードを大切そうに受け取って、専用の硝子ケースに入れると、中に入ったカードの絵柄は一瞬にして消えて真っ白になってしまう。


「占術カードは魔力がかかっているの。あのケースに入れれば無に帰すわけ。そしてまた占いの時に使用すれば、客に合わせて絵柄が出てくるの」

「凄いな」

「これは特製のカードよ。ちなみに絵柄の種類は一万一千種よ」

「は?マジか!?」

「凄いでしょ。だからカードの意味を読み解くのも毎回その場で占術師が見極めて言葉を発しているの。私の経験上、このカードは初めて出現したわね。それくらい貴重なカードよ。ホント、やっぱり貴方は興味深い人だわ!」

「そりゃどーも。って言っても何も俺からは出ないけどな」

「結構。この占いは私が好きでやったことなんだし」


 これでお互いの用も終了だろう。瑞穂は今度こそ席を立ち上がった。そろそろ宿に戻らないと本格的にまずい。朝を迎える準備をせねばならない。

「本当は本格的な占術を『二階』にお招きしてやりたいところだけど……」

「悪いな。俺は興味ないんでね。時間的にもそろそろお暇させてもらうよ」

「そう、賭けにも負けちゃったしね。もし詳細な占いが必要になったら来てちょうだい。私がこの街にいる限り、この酒場の二階に拠点を構えてるから。貴方ならいつでもウェルカムよ!」

 出来れば『二階』にお世話になる日は来て欲しくない……と何となく思いながら、瑞穂はギョクランから名刺に似たカードを貰う。カードには店の案内が書かれていた。

 なんとなくそれを見つめながら、今度こそ「じゃあな」と言って瑞穂は店を後にしたのだった。



 店を出ると、まだ暗いが夜明けは近いと感じる。午前四時くらいだろう。

 瑞穂は上機嫌で宿へと歩を向ける。

(いや~、なんだかんだあったけど久々にお酒を飲めて、五万Gも手に入れて、タダで占いしてもらったんだから結構良かったよね!終わりよければ全て良し!)


 占いの結果が多少気になったが、気にしすぎても仕方ない。

(当たるも八卦当たらぬも八卦ってね)


 とりあえずはこの五万Gをいかに活用するか、まずはそれから考えよう――と、まだ姿が前世のままであることをどこか棚の上に乗せたまま、瑞穂はカイケロ街の酒場ストリートを駆け抜けたのであった。

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