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37、深夜、冒険者の集う街へ その3

 ギョクランの胸元は実にセクシーだ。たわわなお胸は地球で言う東洋系の衣装に包まれている。露出は狙ってか大目で、スイカ玉の半分はお目見えしていると言えよう。


 大半の男なら、これを見てしまっただけで彼女にノックアウトだろう。

 だが、瑞穂が女に生まれてしまってせいだろうか、一つ大変残念な点に気づいてしまった。


(この世界にサラシやブラジャーもしくはそれに近いの概念の胸を保護するモノがあるかどうかは知らないけど、この人完全にノーブラで人生歩んで来てるよね。だって、まだ二十代前半に見えるのに明らかにお胸が垂れ下がってきている予兆があるよ、コレ!)


 詳しくはブラジャーを扱うメーカーかそれ系のウェブサイトを見て頂ければ分かる話だが、胸が垂れる課程で胸の方向が左右に開くように向いて斜め下を向く段階がある。その傾向がギョクランに現れていたというわけである。

 加齢と共に避けられない現象だが、補強装身具を付ければ、少しなりともこの落下を止められる=抗うことが可能なのだ。

 この美女にしてこのお胸。実に勿体ない話である。なんとか日本のブラジャーをお取り寄せ出来ないものかと瑞穂は思考を巡らせるが……。


「おいこの野郎!聞いてるのか!?ああ!?」

 筋骨隆々男の一声で現実に引き戻された。

「テメー、コイツは俺の女なんだよぉ!?分かってんのか?アァ!?」

「いや~、落ち着いて下さいよ~」

 メンチを切るというお手本のような構図を目の前で見られるのは貴重な経験だな……と思わず意識を飛ばしたい衝動に駆られる。――いや、既に一度飛ばしてしまっていたが。


(って、どうしてこんなことになっているのおおおお!!!???)


 瑞穂は作り出している軽い表情とは裏腹に、一刻もこの場から逃げ去りたい衝動に駆られていた――というのが、今の状況である。


 この大男をぶっ飛ばすのは簡単だ。リヒター姿の力量はまだ戦闘実験をしていないから不明だが、恐らく現状の瑞穂レベルまでは普通に戦えるはずだ。おまけにちゃんと術符は持ってきている。身体強化の術符を使えば、現在の男としての筋力も相まって、ボクサーもビックリのパンチ力で相手を吹っ飛ばすことが出来るだろう。

 だが、その必要は無かったようで、ギョクランが――呆れた顔だが――リヒター姿の瑞穂にしな垂れかかる体勢を止めて割って入ってくれたのだ。


 術符一枚分が浮いてくれて、瑞穂は安堵する。


 =貧乏魔術士 お金と 術符が命取り=


 瑞穂、本日の心の一句である。



「落ち着いて、デコルテ!」

(ブッ、デコルテって!その顔で!デコルテは無いでしょう!?)

 思わず噴き出しそうになるのを必死で取り繕いながら、瑞穂はギョクランが宥めてくれるのを応援することにした。


「大丈夫よ、彼から声を掛けて来たわけじゃないの。私から声を掛けたのよ」

「お、お前から……?そ、そんなっ、俺に飽きちまったのか。う、うおおおおおっ」

 デコルテと呼ばれた男は瑞穂の首元を掴む手を緩めたかと思えば、そのまま一気に床に泣き崩れてしまった。大の男が泣き崩れる場面はなかなかシュールである。

「ちょっとぉ、泣かないでよ。二階へ上がる誘いをしたのはそういう意味じゃないの!」

「ならどういう意味だって言うんだよぉおおおっ」※以下、濁音の号泣が続く。

「私の本業の勘が彼を引き当てたのよ。正確にはカードが示したんだけど」

 ギョクランは冷静な顔で懐からカードを取り出した。見たことの無い紋様が描かれていて、不思議な雰囲気を放っている。

「なんだ!そうだったのかっ……」

 俺はてっきりこの男の美形面にやられたんだとばかり……と言いながら、デコルテは安堵しながら座り込んだ。

 ギョクランの宥め賺しが続いて三分後、ようやくデコルテは静かになった。


 そんな二人の掛け合いを見終えたリヒター姿の瑞穂は嘆息する。

「で、俺は何の用で結局、二階へ誘われたんだ?」

 もしかして、夜のお誘いかもと勘違いした自分が恥ずかしく、それをかき消したい思いに駆られて事の真相を問いただすことにした。人間、動いていれば嫌なことは忘れられるものである。それが他人にはバレない勘違い妄想という赤っ恥であっても。


「私の生業は複数あって、一番優先させているのは占術業。必要な時にしか視ないのだけれど、貴方はその私の滅多にやる気にさせない占術の勘に引っかかったってわけ」


 この女性の勘は恐らく本物だろう。異世界人だろうが、人種が違おうが関係無い。こういった業界の力ある人間は、『本物』に気づく。

(例えば厄介事を丸ごと抱え込んでいる私のような人間は、鴨が葱をしょって歩いてきてくれたような気になったんじゃないかしら)

 瑞穂のような珍妙な存在は、占術師にとっては魅力的な人間に映るに違いない。


「なるほど、君の魂胆が見えて嬉しいよ。だが、俺がそれに付き合うかどうかはまた別だね」

 二階に上がってからだと、占いと称した面倒事に巻き込まれていた可能性が高い。

 そして瑞穂にそんな時間はない。今日の明け方にはホテルに帰って、元の姿に戻っていないとユースに不審がられること間違い無しだろう。

 ……元の姿には最悪術符で幻影を見せてることも考えてはいる。


(とにかく、こんな場末の酒場で正体を見透かされる目に遭うなんて冗談じゃない。酒が残っているのは残念だけど、今日はもう引き上げよう――)

 瑞穂は代金をマスターに手渡して、この場に背をむけた。


「五万G」

「?」

「おいおい、本気かギョクラン」

 瑞穂は振り返った。

「賭けをしない?貴方が勝ったら、掛け金として五万G差し上げるわ。でも、私が勝ったら貴方を占わせて。ああ、もちろん『二階』で」


 二階が好きな女である。何か用意でもあるんだろうか?

 だが、それよりも、である。


 五万Gといえばこの世界ではそこそこ大金だ。貨幣価値は瑞穂も本を読んで学習したが、日本円と大差ないレートと考えてよかったはずだ。


 日当で五万Gは中々難しい。日本でも一般人が日当五万円を稼ぐのは難しいと言えるだろう。


 ましてや異世界に来てから某テレビCMも真っ青な速度で貧乏まっしぐらなのだ!


(お金って大事だね)


 プライスレスな満面の笑みを浮かべて瑞穂はこう言った。


「いいだろう、その話に乗ろうじゃないか」

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