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35、深夜、冒険者の集う街へ その1

 カイケロ街の夜は長い。なぜなら、大人の冒険者達が集う酒場が多く出店しているからである。いかがわしい店も当然、ある。

 ――そんな店がひしめく中に存在する極普通の酒場の一つが、今宵はいつも以上の賑わいを見せていた。

 入り口から店内の盛り上がりが漏れ聞こえているのに気づいた男は珍しそうにして、足を止めた。男――ヘルディックはこの店の常連だ。ただ、今日は懐が寂しいため、寄ろうか寄るまいか悩みながら……気づけば店の前まで来てしまっていたのだが……。そんな酒好き男は不思議に思う。いつも、深夜二時も過ぎればこの店の客は数名くらいだ。なのに、どうして今日はこんなにも人が集まっている気配がするのか、と。


 ポケットを無造作にまさぐると、数枚の硬貨が指に当たる感触がした。――ビール一杯くらいはなんとかなるだろう。

「……」

 ヘルディックは好奇心に負けて、店に足を踏み入れた。

「やるなー兄ちゃん!」

「すげえっ!すげえ!」

 テーブルの一角に人だかりが出来ている。知り合いの一人を見つけて早速声を掛けることにする。

「よお」

「おー、ヘルディックじゃねーか。金がねーとか言ってたのに来たのかよ?」

「ほっとけ。来週にはギルドもオープンするんだ、そこでクエスト受けまくって荒稼ぎするからいーんだよ。それより、この騒ぎは何だ?」

「あそこだよ」

 男はカウンター近くのテーブルを指差した。


 夜の街に出現する妖艶な美女や傭兵の男達がテーブルを囲んでいる。席に着いているのは二十代頃の金髪の優男と三十代半ばであろう傭兵然としたむさ苦しい男だった。どうやらカードゲームに興じているようだ。ギャラリーの熱がこちらまで伝わってくる。

「あいつら、賭けてるのか?」

「もちろん。あの若い兄ちゃんが今のところ押している」

「――華がある奴だな」

「いやいや、ああ見えて鋭い手札を切ってきやがるぜ?」

「おまえも対戦したのか?」

「つい先ほどな。負けちまったけどな」

「そりゃあ、ご愁傷さまなこって」

 自分が対戦を申し込んだらどのようなゲームになるだろう?……とは思ったものの生憎今日は手持ちが僅かだ。ギャンブラーとしての性が疼くが、必死で押さえ込む。

(次、もしこの酒場で見かけたら声を掛けてみるか)

 そんなヘルディックは、沸き上がる一角を背に友人と酒を酌み交わすことにするのだった。




 今、瑞穂は非常に面倒な事態に直面していた。なんだか凄い美女にしな垂れかかられており、これまた凄い剣幕の男に首元を鷲づかみにされていた。

「テメー、コイツは俺の女なんだよぉ!?分かってんのか?アァ!?」

「いや~、落ち着いて下さいよ~」

 メンチを切るというお手本のような構図を目の前で見られるのは貴重な経験だな……と思わず意識を飛ばしたい衝動に駆られる。

(って、どうしてこんなことになっているのおおおお!!!???)

 瑞穂は作り出している軽い表情とは裏腹に、一刻もこの場から逃げ去りたい衝動に駆られていた。




 あれから瑞穂はホテルから外に出ると決め、すぐに行動を起こした。

 白いシャツと黒のスラックスという単純な出で立ちで、早速カイケロ街へと繰り出したのである。


 ティディとのやりとりの一悶着はあったが、実のある会話は為されないまま、ティディの時間切れとなって宝珠に戻ってしまったのも一因だ。ティディの実体化や自らの前世姿への変貌の件については後で話し合うしかない。そして最悪、夜明けまでに姿が元に戻らなかったら、瑞穂の姿に擬態する幻影術(術符二枚も消費!)を行使しなければならないだろう。なかなか頭の痛い問題である。


 そんなことを考えながら、数軒サッサと物色して、中でも一番良さそうな店に目を止めた。

 いかにも深夜、カウンターの片隅で酒を嗜むのに都合が良さそうな店構えだった。

「うっし、入るか。……酒代くらいはまあ、いけるだろ」

 イレナド砦の魔物退治に貢献したことで、瑞穂にも少なからず報奨金が与えられていたのである。これはウェイドの鶴の一声で起きた計らいであった。遺物を盗んだ疑いがあろうがなかろうが、あの時点で瑞穂は事実として役に立ったという主張をディアスに押し通してくれたのだ。

(懐の深いおっちゃんマジ感謝!)


 久々に好きな酒が呑めるとあって、上機嫌で暖簾をくぐって少しして、異変は起きた。

「?」

 何やら各々のテーブルでよろしくやっていた人々がこちらに視線を寄越してきたのだ。

(注目されている?おかしいな、身なりはこの世界でも違和感無い、極普通のものを選んだつもりだったんだけど……)

 瑞穂は忘れていた。

 ――本当に久々に前世の姿を得たものだから、自身がどれほど美形だったかってことを!


(他人の目線なんて気にしてたらキリないよね)

 それよりも今は久々の酒にありつきたい。未成年ではないこの身体で早く飲みほしたいのだ。いつ元の姿に戻るか分からないのだ。急がねばなるまい。

 注目されていることを無視して、瑞穂は笑顔でカウンターの端に腰を落ち着けた。

「マスター」

「おう、何にする?」

 さすがはマスター。どんな人物であろうが、客である限り余計な質問はせず、当たり障りの無い接し方をしてくれた。

(……だからそんな店を選んだんだけどね。勘が当たって良かったわ)

「この地方の地酒はあるのか?」

「バーダフェーダはやっぱりライム酒だな」

「へえ、じゃあそれで」

「度数が高めだが大丈夫か?」

「久々の酒なんだ、迎え酒として申し分ないね」

 分かったと言ってマスターは、奥へと引っ込んで行った。



 用意されたライム酒と追加で頼んだ酒のあてのソーセージをつつきながら、暫く味わって数分後のことだった。

「お兄さん、冒険者かしら?」

 いわゆる夜の蝶たらんとした女性が気づくと横の席に座っていた。

 二十代前半ぐらいの美女だった。白い肌に泣きぼくろ付きの黒目はセクシーさ満点だ。 黒髪を頭上で結わえ、それを簪で固定しているが、その配置さえも自らを演出するための拘りが感じられた。

 衣服は胸を強調した素晴らしいデザインだ。しゃらん、と音を立てそうな玉を散りばめた宝飾を服のあちこちに散りばめて色気に事欠かない。


(うおっ!巨乳の美女だっ!)


 まあつまり、そういうことだった。


主人公の感想が小学生並だった…!?(笑)

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