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34、変容

今回はちょいと短めです。前振り的な回。

「あばばばばばっ!た、大変だ~!おねーさん、起きて起きて!」

「う~ん、あと五分……」

「そのネタはもういいよう!」

 寝ぼけた瑞穂の頭にティディが渾身のツッコミチョップをお見舞いした。

「いった~!ん?うおっ!ティディ!?現実に姿を現してるじゃない!どうなってんの???」

(ん?何かおかしいな)

 ――ティディが夢に現れていないことだけじゃなく、自らの身にも違和感を感じる。

 違和感の理由その一は……、

(声か!)

 思わず声優さんかと思えるくらいナイスな男性ボイスを自身が発しているのだ。恐らく乙女が聞いたら振り返ってしまうくらいの美男子声だ。

(ちょお待て。この声は妙に懐かしいぞ、というか、これは……)

 嫌な予感がする。

「ちょ、ティディ、私の身の違和感が半端無いんだけど、説明出来る?」

「ううっ、おねーさんが、僕のもっともいけ好かないアイツになっちゃったよぉおお」

(あ、それで確信したわ)

 自棄になって瑞穂の隣でベッドのクッションをバシバシ叩き出したティディを放っておき、机の上にあった小さな鏡を手に取った。

「うわー、マジかー……」

 映し出された姿は紛れもなくよく知る金髪優男だった。

「よく知るというか、自分ですね、ハイアリガトウゴザイマスー」

 死んだ目と、虚ろな声で呟くも、その姿すら周囲の人間が見れば様になると言うだろう。

 つまりは――何の因果か分からないが、瑞穂は前世の自身の姿となっていたのだった。

「って、何でやねーん!!!」

 その後、五分ほどティディと一緒に大声で発狂していたのは言うまでも無い。

 ……。寝る前に念のため防音魔術を展開していた自身の用意周到さに、瑞穂は感謝するのであった。



 ティディにたたき起こされて、自身が前世の姿となっているのを知ってから半刻後、とりあえず部屋に置きっ放しだった夕食を勢い良く食べている瑞穂であった。冷めていても中々美味しい味付けであり、瑞穂は上機嫌である。

「おねーさん、さっすがだねぇ。こんな状況になっても、まずは食べるんだぁ」

「このどんなことにも動じない性格は長所と言って頂戴な。何が起こっても腹が減っては戦は出来ぬというでしょ?だからエネルギーは最優先♪」

「あのー、できればその姿で女性言葉は止めて欲しいのですが」

 急に言葉遣いを変えてまでティディは指摘という名のお願いをしてきた。

(うっ、確かに男性姿で女性言葉は違和感あるか……。まさか、今の私ってオネエキャラっぽいのだろーか?)

「分かった。まあ、そこそこ気遣いながら話すとするかな」

「うん、それでよろしくお願いするよぉ」

 違和感が大分マシになって安心したのか、ティディは口調が元に戻った。

(アンタ本当に嫌だったんだね、はははは……)


「おねーさん、それ食べ終わったらそろそろ本題に入っていい?」

「分かってる。私も聞きたいことがあるからね」


(……、一人称はどうしよう。外に出たら『俺』呼びの方が自然かなぁ。ティディの前で今、『私』呼びしてみたけど、精神的にこっちの方が楽なんだよねー。『俺』っていう言い方、今の『私』=『普通の女子高生』の性格的には馴染まないんだよ……。もう少し、昔の自分の感覚が戻ってきたら『俺』を使ってもいいかもしれないけど……。いや、変に意識して『私』呼びすると出自とか警戒されるかな?ならやっぱり『俺』呼びで行った方がよいか……。ティディには女性と男性の私どちらも見られているから『私』って言いたい気がするんだけど諦めよう)


 かくして、リヒター姿の自らの呼称は『俺』に決定したのであった。


「さて、本題に入る前にやることがあるな」

「ええ?まだ待たされるのぉ?これ以上待つの嫌だよぅ」

「いや、さすがにこの格好のままでずっといるのは気まずくないか?」

 ティディは胡乱な目で瑞穂の姿を見て、恐るべきことに気づいたようだ。

「おおうっ!!??僕ってば、変なことが一気に起こり過ぎて、違和感に気づかなかったよぅ!!!」

「のようだな。――さすがに青年が少女服のままじゃヤバイだろう」


 想像して見て欲しい。かなりのイケメン優男が少女服を着ている(もちろん服のサイズが合わないからそこかしこで微妙に皮膚の露出が増えている)姿を。色々な意味で恐ろしい絵面である。瑞穂はそれが前世の自分の姿でやってしまっているからこそ、羞恥心は倍増である。


 睡眠欲→食欲が満たされたなら、今度は身だしなみを整えることが重要だ。

 瑞穂は一刻も早く着替えてしまいたいと思ったのだった。


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