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31、テロ遭遇4

「サンフェル王子、こんなところにおられましたか!探しましたよ!」

「おーい!ディアスじゃないか!久しぶりだな。いつ戻ってきたんだ?見てくれたか?私の剣捌きも中々上達しただろう?」

「はぁっ……。開口一番がそれですか。勝手にいなくなったと騎士団支部では大騒ぎでしたよ。そのせいで、我々は貴方の捜索に駆り出されたというのに……。どこで油を売っていたかと思えば、余計な騒ぎに自ら首を突っ込まれているとは」

 フードを被っていた美女の危機を救った金髪剣士に対し、ディアスは呆れながら言い放った。


 この青年の名はサンフェル・セイ・ルバニア。ルバニア王国が第二王子であった。先月二十歳になったばかりである。流れるようにサラサラな金髪と青い瞳、鍛えてはいるがマッチョではない引き締まった身体は、まるでおとぎ話に出てくる王子様のようだ。

 いや、事実彼は王子様であるから始末に負えないとディアスは思っている。

 キラッキラの笑顔を浮かべて近づいてくる王子の姿に、どこぞの腐れ縁である研究バカ(ユースロッテ)を彷彿とさせる。だが、ディアスは彼以上に王子の方が厄介だと感じていた。


 サンフェルは駆けつけた騎士団員に後を任せると、ディアスの元へやってきたのだ。

 無事鎮火した馬車や介抱される人々を背に、朗らかに手を振り歩いてくる風景は妙なちぐはぐさを醸し出させる。これもサンフェル王子独特の気質のせいなのだろうか。


「貴方が出る必要は無かったんです」

「私があの時、手を出さなければエフィアの身は危なかったさ」

「周囲には駆けつけた騎士もおりました」

「それにしては動きが鈍かったな?」

「言葉もありません。あいつらは帰ってから鍛え直します。ですが、それとこれとは話が別ですよ?」

「はっはっはっ!王子、お忍びする時はお供を伴ってもらいやせんと、いざという時がありまさぁ。だからこそ、支部の連中が焦って俺らまで殿下捜しに寄越したわけで。美女も大切ですが、御身はそれ以上に大切ですって、なぁ、ディアス?」

 二人のやりとりに割って入ったのはウェイドであった。事が終息してからの登場は重役出勤さながらである。

 そして、ウェイドはなぜかサンフェル王子と話す時はどこぞの下っ端のような喋り方になる。わざとかそうでないのかは判別し難い。

「自ら悪目立ちする行為だけは慎んで下さい。護衛騎士の胃薬の量が増える一方です!」

「そうそう厄介事は俺達に任せておいてくだせーよ」



「何アレ……」

 そんなディアス達のやりとりを瑞穂とユースロッテは少し離れた物陰から眺めていた。

 魔術媒体の処理をようやく終えて、火の上がっていた馬車の方へ目を向ければ、知った顔が集っていたのだ。


 上機嫌でウェイドはディアスの肩をバシバシと叩いている。大船に乗ったつもりで、とでも言いたいのだろう。泥船の間違いだろうとディアスは言いたげだ。彼の顔が引き攣っていたのを瑞穂は見逃さなかった。

(中間管理職も大変だなぁ)


 さて、事件は終了だろう。ユースロッテといえは、バケツの中で水に浮いた燻った蜂の巣を、木の棒で飽きずにツンツンと突ついている。

「馬車に戻ります?」

 あえてディアスに会って挨拶する必要もないだろう。本来、瑞穂は騎士団支部へ送られることになっていた。ユースロッテはその監視だ。お互い彼らに見つかるのは都合が悪いだろう。

 それに二人共に個人的興味が解決した今、この場に留まる必要も無い……はずだった。


「もう少しだけここにいると面白いものが見られるよ」

 はぁ?、と疑問を呈していると甲高い声が耳に入ってきた。


「ディアス様!」

 どうやら助けられたフードを被っていた美女が手当てを終えて、ディアスにお礼を言いにきたようだった。それにしてもお礼をと言うのなら、形式的にせよ、まずは王子に礼儀を持って伝えるべきではないだろうか。


「エフィア」

 暗にディアスもそれを伝える視線を送ったことに気付いたエフィアと呼ばれた彼女は恥ずかしそうにしながら、

「お礼が遅くなって申し訳御座いません、サンフェル王子殿下」

 すぐさま淑女の礼をとった。見事に洗練された振る舞いだ。王子は満足そうに頷く。

「うむ、無事で何より。最初に切りつけられた女性の方は大丈夫であったか?」

「はい。殿下にお守りして頂き、傷一つありません。少し精神状態が高ぶっている為、ご挨拶は後ほどとなりましょうが、御容赦下さいませ」

「気にしなくてよい。礼もいらんぞ。貴女からこの場で頂いたから十分だ。しっかり養生するように伝えてくれ」

「ありがたきお言葉。確かに伝えさせて頂きますわ。彼女もきっと喜ぶことでしょう」

「貴女も今日は災難に見舞われたな。人のことは言えないが、まさか聖女殿がこうも市井に気軽に繰り出していようとは思わなかったぞ。御身も国の宝だ。今日のようなの件もある。『天の加護』があるから安心とはいえ、万が一のこともある。十分に配慮する行動を取られよ」

「耳が痛いですわ。私は身分など隔てなく民と接したいのです。しかし、今回の準備は不十分でしたわね。今後はこのようなことが無き様行動させて頂きます」

 エフィアは静かに頭を下げた。そのやりとりにディアスも胸をなで下ろしているようだ。



「さて、行くか。な?ウェイド」

「はっはっは、殿下も気が利きますなぁ」

「庶民に寄り添った政治をするのが私のモットーだ」

「いやはや!俺も殿下のそういう所が大好きでさぁ」

 急に二人は斜め上の発言をしたかと思うと、その場を後にした。


 残されたのは意味が分からないという顔のディアスと、彼に再び視線を戻したエフィアである。但し、エフィアの目は先ほどまでの至って冷静で整然としたものではない。熱を帯びた眼差しをディアスに向けている。

 ようやく彼とゆっくり話せる。そんな感じだろうか。


(ああ、そういうことね)

 さすがの瑞穂も察した。

「まさか彼女が馬車に乗っていたとは予想外だったよね。しかも聖女殿はディアスにご執心だからねぇ。いやはや、見ている方があてられそうだ。――ね?面白いもの見られただろ?」

 なぜ二人の関係に対して瑞穂に意見を求めるのか分からない。が、気になることは出来た。

「聖女、ですか?」

 ん?という表情でユースロッテは振り返った。予想外の点に食いつかれたという顔だ。

「あー……そっか。そうだね、君は知らないんだね。まったく本当に、どこ出身だよ?」

 瑞穂は苦笑いで反す。

「田舎者ですいません」

「まあ、いいさ。説明してあげるよ。とにかく場所を移そうか」

 どうやらユースロッテは機嫌が良いらしく、説明してくれる気になったようだ。

(有用な情報なら長話にも付き合うわよ)


 異世界サバイバル信条その一。


 情報はどの世界でも生命線、である。


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