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26、望郷

 魔王の威光を称える白亜の城、その名をルーデンベルグ城という。

「ルーデンベルグ城の造形はエンフェリーテで一番だと庭師が言っていたわ」

 瑞穂がリヒターと呼ばれていた頃、青銀の髪を腰元までなびかせていた姫君が嬉しそうに話していたのをよく覚えている。

 地球でいえばドイツのノイシュヴァンシュタイン城とホーエンツォレルン城を足して二で割ったような城だった。

 天まで伸びると言えば多少は大げさだが、当時の技術の粋を集めて作り上げた城の棟はそれはそれは高くそびえ立っていた。

 白亜の城と総称されたる白い壁作りを基調として、三角錐の深い濃紺の屋根は民族的な紋様が随所にあしらわれ、城の荘厳さに拍車をかけていた。

 リーダルハイム王国随一の絶景とされた小高い丘の上に、ルーデンベルグ城は堂々とした風情で建てられていた。そして、丘の下まで続く林を抜けた先に王都が広がり、王城をぐるりと取り囲むように都市が形成されていた。

 失った故郷の象徴の一つ。そして、遠い日の思い出の一つが、滅びる前の平和な静寂さを保ったまま、自らの頭上で投影されている。

「……っ」

 瑞穂は思わず息を飲み込んだ。


 彼の王城と王都はいつの間にやら、知らない世界で勝手に『幻影都市リズクレイム』と名付けられているようだ。

(幻影都市?ふざけないで!あの世界を、城を幻と言うな!私達は確かにそこにいた。生活していたんだ。それを勝手に名付けて解釈して見世物にしてくれるな!!)


 脳裏を埋め尽くす『どうしてこうなっている!?』という言葉に、答えを持ってきてくれる者などいない。

 憤慨、嘆き、疑問、そして望郷という懐かしさが混ぜこぜになって心が一杯になる。


(落ち着け!落ち着け落ち着け自分!)

 ――この異世界トライディアに来てからの違和感。初めて来たというのに何か以前から知っているような感覚に囚われたその理由が、あの遠い空に浮かび上がったモノと関わりがあるのではないだろうか?


(この世界と前世世界は何か繋がっている可能性が……ある?)

 そう思えば、スッと霧が晴れるように頭が冷えてきた。


 故郷リーダルハイム王国に関する情報は喉から手が出るほど欲しかった。前世ではやり残したことが沢山あるからだ。

 ゼロに近いわずかな可能性だろう。けれどもゼロではないのだ。今生では諦めていた前世に関する様々な情報の糸口が見えかけている気がする。


(それにしてもリズクレイムとは……。とんだ名前を付けてくれたものね)

 リズクレイム――それは、トライディアの言語で『反響する捕らわれた魔の風』という意味を持つ。なるほど、今の風すら吹かない時の止まったような風景に中々相応しいではないか。名付け親は中々に詩人だったのかもしれない。

 対するルーデンベルグ城を擁するリーダルハイム王都の真の名はエルディンという。『光の秤』を意味するその都が、戦女神の秤を自らに傾けられず、戦に負けたのは皮肉な話ではある。



(まさか異世界に飛ばされて可能性が広がるなんてね。こうなったらタダでは転ばないわ。きっちり前世に関する情報を土産にして地球に帰ってやるんだから!あわよくば、前世の力も取り戻してやる!)

 それでも瑞穂は一度決めた信念を揺るがせることをしない。

 前世のことも大事だが、今のホームはどこだと聞かれたら瑞穂はこう答えるだろう。

 地球、だと。

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