表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/75

25、上司と部下の雑談

   +++


 暗がりの騎士団支部応接室で男二人の会話が紡がれている。

 ルバニア帝国騎士団・騎士団長兼伝令役ウェイドとイレナド砦辺境警備隊隊長のディアス、この二人が面と向き合って話し合うのはイレナド砦が襲撃された時以来だ。バーダフェーダに来る道中は共にしたが、二人が面と向き合って真面目な話をする時間は無かった。それは二人がそれぞれ騎士団特有の事情を抱えていたりするからだが、その話はまた別の話である。


「おまえさんがこの街に来るのは武闘大会以来だな。どうだ?剣の腕は鈍ってないだろうな?」

「確かめますか?砦の一件ではお見せできませんでしたし」

 剣を鞘からわずかに抜いて見せる。

 騎士団支部の修練場はこの時間帯なら空いているだろう。だが、ディアスの身振りを笑いながらウェイドは制した。

「冗談だ。その剣は使用者を選ぶ程のいわくつきだ。俺では勝てないことは承知している」

「別にこの剣でなくても、騎士団配給の剣でいいですよ?」

「技量でも負けるさ。って、あくまでも上司である俺にそんなこと言わせるなよ」

「貴方と二人きりの時は猫を被るのをやめたんですよ。無駄ですから」

 それを聞いたウェイドは気にもせずに笑いだした。


「で、俺を呼び戻したのは何故ですか?」

 ディアスは声色を神妙なものに変えた。本題はここからだ。

「おいおい、随分不満そうだな。俺の手紙は気に入らなかったか?」

「もちろん。貴方はいつも余計な土産を持ってきてくれる」

 ディアスは不快感を隠すことなく表情を顰めた。


「おかげで俺はせっかくの田舎暮らしを邪魔され、上京する羽目になったんです。これを不愉快と言わずなんと言うんです?」

「仕方ないだろう。最近、地下組織の動きが目立つ。上層部がおまえを呼び戻したがる気持ちも分かってやれ」

「全く、貴方が最終決定権の保持者でしょうに。……砦の件も彼ら――地下組織の仕業ですか?」

「確定は出来ないが、可能性は高い。南方魔族の動きが本格化し始めている」

「……」


 アランガルド大陸北部から魔族を追い払って早百年。だが、それは人間が安穏と平和に暮らせた百年ではなかった。

 魔障に汚染された大地の改善、大陸でも屈強な部類とされる魔物との戦い、隣国の脅威――。それに加えてさらに領土奪還を企む南方大陸に追いやられた魔族にまで動かれてしまうとは。


 この時代、この国に居合わせたことに自分の不運を嘆かずにはいられない。

 ふと、ウェイドは思いついたようにニヤニヤと笑みを浮かべて言う。


「それにしても、彼女……ミズホか。なかなか面白い人材じゃないか?」

「彼女の状況判断能力や戦闘対処術は人材難の我が騎士団にとって十分使えるとは、思います。ただ魔術師としてはどうでしょうね。いくら数が少ない魔術師とはいえ、あのレベルは探せばどこにでもいるものです」

 妙に慣れた戦いの仕草、勘の良さ。一般庶民の女性よりは鍛えているであろう身体能力。正直そちらの面で鍛えて騎士団の一員として活用したいという要素がある。魔術が使えるというのはおまけ程度と考えても、期待出来そうな人材かもしれない。


 しかし、彼女には問題がありすぎる。まずは身元不詳。これが一番の問題だ。本人が弁明していた、誘拐疑惑もどうにも信用出来ない。

 その上、盗掘疑惑に諜報員疑惑もある。これに加えて、宝具をその身に取り込んでしまった時点で、既に要監視人物になってしまっている。

 こんな問題だらけの人物をどう活用せよというのか。普通なら選考から外してしまうだろうに。


「あえて推すべき人材ではないと?俺は好みなんだけどなぁ、ミズホちゃん」

「貴方という人は……。結局本音はそこでしょうが!」

「で、どうなんだよ?おまえの本音はよぉ?」


 飄々として人の心の中に土足に踏み居る男――それがウェイドだと出会った時からディアスは評している。デリカシーのないオッサンといえばそれまでなのだが、奇妙な人徳と食えない性格が人々の心を害することなく掴む。一方で、それが鬱陶しく感じる者も少数だがいるわけで、その一人がディアスである。


「どうもこうもありませんよ。盗掘犯か魔族の間者か、どちらにせよそんな容疑の掛かった女に興味を持てるはずもない」

「こいつは手厳しいな」

 話はここまでだな、とウェイドは時計を見てソファーから立ち上がった。

「そろそろ刻限だ。仕事といこうか。王都の使者殿達は俺より厄介だから心しとけ」

「王家派と反王家派どちらも来ているのでしょう?全く、あいつらを相手にするくらいなら、あのアホ女を相手にしている方が百倍マシですね」

 騎士団支部の最奥の貴賓室で待ち構えている来客にどう対応するか、考えているだけで気が重くなる。愛用の剣を握りしめて姿勢を正し、ディアスは応接室を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ