21、ルバニア王国の神域
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アランガルド大陸の中央よりやや東に位置するルバニア王国は大国ではないが、小国でもないという実に中堅どころの領土を所有している。
中でもルバニア王国北東のメリディシア遺跡群は大部分が謎多き地域だ。遺跡が発見される前までは、極普通の手つかずの絶壁が連なる自然山岳地帯とされていた。
ところが二十年ほど前、状況は一転する。何の前ぶれも無く、突如、遺跡群が山岳地帯や麓にその姿を現したのだ。驚くべきはそれだけではない。『絶壁の山岳地帯一帯』は確かに文字通りその表現で間違い無いままであった。
が、まるで別の地域と置き換わったかのような山々に変化したのだ。芽吹く花々や織りなす木々はそれまでそこにあった種とは全く違うものに変化していた。息づく植物が違えば、そこで暮らす動物も違ってくる。――天候も、空気も、全てが変わっていた。いや、すげ替えられたと言った方がしっくりくるかもしれない。
王家は状況を聞くと直ちに変化におののく住民を制する行動をとった。また、王家直属軍(騎士団とは別の軍)を派遣し、一帯を封鎖した。
その後、住民には魔力汚染の強い地に変化していると説明し、避難させる勅旨を放った。そうやって一般人がいなくなった遺跡群を有する山岳地帯を王家が直轄する非公開の地――メリディシア封鎖域――と名付けた。こうして王家はゆっくりと腰を据えて、メリディシア封鎖域を調査することが出来る状況を整えたのである。
調査は王家に許可された高名な学者達が長年にわたり行った。
その結果、どういった経緯か分からないが、王家に伝わる古文書に記されていた古代帝国の遺跡群が何かのきっかけで姿を現したという結論になる。
だが、主要箇所とされている大部分が、強力な古代魔術の封印結界により足を踏み入れることが出来ていない。結界が無い遺跡を調査すると、遺物が発見されることが多く、その周辺も魔力が普通以上に満ちていることも分かった。
ということは中枢部にはもっと強力な遺物が発見される可能性がある。
領土にある遺物利権を独占し続けてきた王家の懸念事項は、この遺跡から得られた遺物を利用して王家を脅かす力を持つ勢力が現れることである。
王家は目ぼしい要所に『王家の墓』やら『王家の禊ぎ』の地と称して神域を作り上げた。
後々、封鎖を突破して他者に踏み入れられることになろうとも、一番重要な部分は王家にしか手が出せないようにしておけば、強力な遺物は王家が確保しておける。利権に執着のある彼らからしてみれば、こうしておけば一安心だとでも思っていたのだろう。
尚、この事は王家の中でも重要な役職に就いている者以外知らない。騎士団には『メリディシア封鎖域』は『王家の神域』とのみ通達されている。そして、そこを守れという教育を施されてきたのだった。
さて、王家の神域は各所にあり、不幸なことにその一つが瑞穂が足を踏み入れた『王家の泉』だった。
洞窟の奥の泉で起きた不思議な現象は、瑞穂の身に何かを宿らせた。不思議な光を浴びて紆余曲折を経て、前世世界の宝珠と接触しただけという認識の瑞穂だったが、それが王家がそれはもう大切に、慎重に扱っていた遺物の一つだったとは思いもしなかったわけである。
A子ちゃんにとっては道具の一つでしかないものであっても、B子ちゃんにとっては宝物。認識の違いで争いは起こる。世の中はつくづく難しいものである。




