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17、グラノーツ峡谷3

「おいユース!無駄口を叩くな。そんな暇があるなら怪我人を世話しろ。思ったよりもケンデスの村の被害は大きいぞ」

「そうだね。でも、何か引っ掛かるんだよなぁ……」

「……おまえもか?実は今回の騒ぎ、妙に気にくわない流れと感じている」

「あ、やっぱりディアスも?何だかね、こう出来すぎっていうか……。何だか胸につっかえている物がある感じ」

「……」

 沈黙が場を支配したその時だった。

 

 ドォオオオンッ


 二人の疑念を解決するよりも先に、事は起こった。


 大きな振動が足下に走った。

 震源はここグラノーツ峡谷から遙か北西――。

 思わずディアス達はそちらの方向へ顔を向けると、イレナド砦辺りから煙が立ち上るのが確認出来た。


「――やられた!」

 ユースロッテが苦虫を噛み潰したような表情で言う。

「っ、急いでイレナド砦に戻るぞ!アシュレイ隊、ケンデスの村の事後処理はお前達に任せる。残りの隊は俺に付いて来い!」

 ディアスはそう言って、すぐさま馬に乗り込み出立した。部下の騎士達も彼に続く。

 グラノーツ峡谷からイレナド砦までどんなに馬を早く走らせても、五十分は掛かる。その間に砦に残っている人間で対処出来れば良いが……。

 イレナド砦に常駐してた騎士の大半はグラノーツ峡谷へ連れて来てしまっていた。国境の小競り合いと聞いた時に、どれだけの戦力が押し寄せているか把握出来ていなかったから、万全の体勢で臨めるように自分を含めた五つの隊を率いてきたわけだ。となると、逆にイレナド砦には二十名ほどしか残っていなかった。普段なら十分だが、何か大きな襲撃を受けた場合、応じることが出来る戦力であるかというと微妙なところだ。ただの盗賊集団であれば特に問題は無いはずだが……。


 今、イレナド砦には盗掘関係で捕らえた盗賊達が収容されている。ちょうど数刻前まで尋問待ち状態だったのだ。

 つまりは騎士団としては砦に火種を抱えたまま、さらなる厄介事に見舞われた可能性がある。

(もしくは、抱えた火種が自ら暴発した可能性もあるが、どっちだろうな……?)


 ――それに件の少女もあの砦にいる。


 まるであの少女のところにトラブルが吸い寄せられているようだ。彼女が苦笑いしながら関係無いですと否定する顔が何故か浮かぶ。


(まずいな。嫌な予感がする)


 色々考えを巡らせながらも必死にイレナド砦を目指してディアスは馬を走らせた。そして、彼の後ろには行きと同じくユースロッテが同乗しており、彼もまた思うところがあるようでディアスに話し掛けた。


「僕思ったんだけどさ、ケンデスの村人の大半は紛れもなく一般人だったんだと思う。けれど、残りの一割ぐらいは、この騒動を仕組んだ"紛れ人"側だったのかもしれない」

「どういうことだ?グラノーツ峡谷にはアーノルド隊しか残していないぞ。今、あいつらがさらに別の敵に襲われたら、分が悪いぞ」

「大丈夫。恐らく、紛れ人の者達はあの場から姿を消しているよ。目的は果たしただろうからね」

 イーディー部族連合国側の野盗を体良く村へ誘導する者達がケンデス村の村民に紛れていたとしたら――。そして、彼らの目的がケンデス村の襲撃は囮でイレナド砦にあるのだとしたら……。

 まさか、村人の人数まで数えて確認するまでは考えが至らなかったし、必要性も感じていなかった。今更、当初の村人の人数と今の人数を比較しても遅いだろうとユースロッテは思った。


「目的とは?あれか、イレナド砦の方が真の目的だったって言いたいのか!?」

「そうかな、って僕は思うだけ。目で見て確認するまでは何とも」

 ディアスに抱きつきながらなので、格好は付かないがユースロッテは肩を竦ませる素振りをした。

「真の首謀者は別にいるというわけか。どうやら俺達はまんまとそいつの手の平で踊らされていたようだ」


 しばらく無言のままディアスを筆頭に騎士団の隊は草原を駆け抜け続けた。

 


「ディアス、気落ちしないでね。何も知らない大半の村人が襲われていたのは事実だよ。僕らが来たことで彼らの命は救われたんだ。行かなければ死んでいった者達がいたはずだ。だから、僕らが赴いたことには意味があったんだよ」

「――そうだな。それすらも今回の騒動を描いた奴の計算の内だろう。俺はその卑劣さに腹が立つ」

「同感だ。珍しく温厚な僕も一発殴りたい気分だな」

 冷笑しながら肩を叩いてくるユースだが目は笑っていない。

 もし本当に、騎士団の戦力をイレナド砦から裂く為だけに、ケンデスの村を野盗に襲わせたのなら……その行為は卑劣極まりないと言えるだろう。

 善良な民を踏み台にしたことは、決して許せるものではない。


「そういえば彼女――ミズホちゃんだっけ?大丈夫かなぁ」

「――アイツは変わり種だったからな。後々尋問しようと思って倉庫に閉じこめてある。良くも悪くも目立たない場所だ。余程、運が悪くない限り、気付かれることもないだろ」

「運、かぁ」

「悪運は強そうだな、アレは」


 そんな二人の呟きは意外にも的中していたかもしれない。




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