表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反☆ケモナーの心得  作者: 夏澄
過去編
25/35

幕間~???失われる風

 戦へと戻っていくドラゴンの姿を見送る。遠くへ消えていく銀の光が消えてなくなるまで、ずっと――。

 侍女が肩を抱いて部屋に戻るよう促す。

「さぁ乙女様、お部屋に戻りましょうね。お茶を淹れてさしあげますから。きっと心が落ち着きますよ」

「……えぇ、そうね。とても喉が渇いたわ」

 白銀のきらめきが消えた空を再び見上げる。

「カーマイン……」

 応える者もなく呼び声は溶けていく。


 ――カーマイン、貴方が好きなの。どうか傷付かないで。また私の元に戻ってきて。名前を呼んで抱きしめて……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おねがい、……………………………………………………私をひとりにしないで――。


 侍女の淹れた茶を飲むと沈んだ気持ちが落ち着いていく。

 穏やかになるというのとは少し違う。これは感情の起伏が平らになっていく感覚だ。

 一緒に焚かれる香を嗅いでいると、この世に哀しいことはないのだと感じる。そして胸を弾ませるほどの喜びもまたないのだと――。


 すべての感情が均一になっていく。

 何もないのだ。戦いで大切な人たちを失ってしまうかもしれないという恐怖も、ひとりぼっちになってしまうかもしれないという予感への戦慄も。過去も未来も希望も期待も何もない。

 凪いで行く。

 すべてが。――心が。


 ※ ※ ※


 最初に気付いたのは幼い子供だった。

 その丘はいつも心地よい風の吹く場所だった。母親に連れられて、新しく買ってもらった風車がくるくると回るのを見て楽しむ。

 ふと風が途切れてしまった。

 幼い子供は待つ。

 風は止まってしまってもすぐに次が吹いてくるものだ。

 けれども、待てども待てども風は吹いてこなかった。


「おかあさん、風がふかないよ」


 首を傾げる子に、母親はそれなら自分で吹きなさいと促した。

 風を待ちきれずに口で吹く。

 風車はくるくると回ったが、息を吹き掛けるのをやめるとすぐに止まってしまった。

「つまんないの。おかあさん、おなかが空いたぁ」

 風車を放り投げて、子供は母親の膝にぎゅっと抱きついた。

 子の頭を撫でつける母親。

 優しい光景に、だが風は再び吹いてこなかった。


 決定的な瞬間などなく、気付けば世界から風は失われてしまっていた――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ