第4話 過去と今の自分
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「今日もいないか。みんな忙しそうだなぁ」
初会議以来から生徒会メンバーは僕以外あまり生徒会室にきていない。
理由は劇のための自分の衣装を作るらしい。
僕には彼女達が何をそこまで奮い立たせるのか分からないが、記憶の整理をする時間でもあるので今は正直1人でいる方が楽だ。
「明後日か......文化祭」
生徒会室の窓を覗くと、それぞれの人が自分の仕事をしているのが見えた。
板に何か文字を書いている人もいれば、体育祭の自分が出る種目の練習をしているものもいる。
僕自身学校祭は味わっていないので、少し楽しみだ。でも、少し不安もある。
生徒会室のドアを開く音がして、僕の考えは妨げられた。
「あ、先輩いたのですね」
鳴霞がカバンを持って生徒会室に来た。
「あ、今日は来れるんだね。衣装は完成したの?」
僕がそういうと彼女は首を縦に振った。
「そういえば、先輩は学年の劇は何に出るのですか?」
学年の劇。それは学年が一体となって劇を作るのだが、僕はそれに大きな仕事を任された。
「僕達2年生は桃太郎をやるんだけど、僕は桃太郎をすることになったんだ」
そういうと、鳴霞は感心したようにこう言った。
「すごいですね、やっぱり先輩は憧れます!」
彼女は目をキラキラしてそう言った。
憧れるか......そらは今の僕?それとも、前の僕なのか?
そう言いそうになったが、喉の奥で何とかとどめた。
これは言ってはいけない気がした。
「でもさ、少しオリジナリティも入ってるんだ。桃太郎は旅の途中で記憶を失うけど、桃太郎の仲間達の頑張りで記憶が戻って鬼を退治するって話だよ」
何だろう、鳴霞の目が少し怒っているような気がする。
「先輩は......自分が記憶喪失のせいでその役をやらされているんですか?」
鳴霞が力強い声で僕に尋ねた。
「多分そうだろうね。でも、僕はそれでもみんなの役に立てればいいと思っているから。さらに、みんなも自分の役割をちゃんと果たしているし良いと思うよ」
僕は鳴霞に心配して欲しくないので、出来るだけにっこり笑うように言った。
それでも、鳴霞の不安の目は消えなかった。
だめだ......これ以上鳴霞と一緒にいると彼女を傷つけてしまう。
僕は生徒会メンバーに言ってはいけない言葉を最近気付いて来た。
何か彼女達は闇を抱えている。
そして、前の僕はそれを解決している。でも、前の僕はいなくなった。そのせいで、彼女達はまた不安がっている。
「何とか......しないとな!」
僕はつい口に出していた。
なんとか鳴霞にはごまかし、居づらくなったので鳴霞に適当に理由を言って、生徒会室を出た。
「はあ、どうしようかな」
僕は生徒会室に居づらくなり、生徒会室から出た。でも、ここから行く先がないので記憶を取り戻すための何かを探し、学校を歩き回ることに決めた。
「何だこの部屋?」
3階の端にある教室の入り口に、黒色の暗幕がかけられていて、窓から中が見えないようになっていた。
僕は好奇心でその教室のドアをノックした。
そうすると、中から空いてるから入ってきなと声がしたので僕は失礼しますと言い、中に入った。
「おお、久しぶりだね秋作氏。夏休み前以来だっけ?」
中には背が小さく、ロリっぽい顔をした少女が結構高価そうな皮のソファによしかかり、座っていた。
その服装は制服とは違い、黒色のドレスだった。
「えっ?あの、僕の知り合いですか?」
そうすると、彼女はキョトンとした目で僕の顔を見つめた。
「ああ、そうか、君は記憶がなくなったのだね。最近は君と会っていなかったから忘れていたよ。まあ、腰をかけて座っていな。お茶を持ってくるよ」
そう言い、彼女は立ち上がりポッドからお茶を出し、僕に差し出した。
僕は近くにあった椅子に腰掛け、彼女を見つめた。
「あの、あなたについて教えてください」
僕のことを知っている人物。
もしかしたら僕の記憶回復の鍵になるかもしれない。
「君が初めて私のところに来たのは、今日みたいな時だったな」
彼女は語り始めた。
「あの時の君も今の君と同じように気まずそうな顔をしていたね。あっ、名前を教えていなかったな。私は3年1組の黒鷲涼音だ。覚えていてくれ」
この人先輩なのかよ!
僕はつい驚いて、口に出してしまった。
「はっはっは、君は私と初めてあった時と同じ反応だな!やっぱり、君は君だな」
「あの、すみません。後輩かと思ってました」
彼女はいいよいいよと言い、話を続けた。
「ここは占い部だ。部員は見ての通り私1人だ。多分私が卒業したらこの部活は無くなるだろう。そして、君はなぜここに来た?」
占い部......そんな部活があったのか。
そういえば、この学校マニアックな部活多いよな。
オカルト研究会とか料理部の他にパティシエ部とか分けられてたり、新聞部とか釣り部とか。
「たまたま目に付いたんです。ここが」
俺は正直に彼女に言った。
彼女は真っ直ぐ僕の方を見ているせいなのか、嘘をつくことはできない。
嘘をついても見透かされるような気がして。
「君はさすがだな。私の前では嘘をつけるものなどいない。でも、君は違う。伝えたいことは伝えず、嘘をつかない程度で伝えたくないことを言わない。さすがだ」
だが、それも見抜かれていた。
「そして、君は生徒会絡みでここに来たのか?」
「はい、それも正解です」
この人......人の心でも読めるのかというくらい、僕の考えを次々と当てて言った。
「まあ、君が初めて来た時も同じ悩みだったからな。そして、困ったことがあったらいつも私に相談して来たね」
僕はこの人のことをとても信頼していたのか。
でも、その気持ちは分かる。この人はとても良い人だ。
「私はとても良い人だと思っているだろう?それは違う、私はとても悪い人間だよ。だから、私は嫌われている」
「えっ、嫌われているって、3年生全員にですか?」
涼音先輩は黙って首を縦に振った。
まあ、この人少し怖い感じも出てるけど、中身はこんな良い人だ。
だから僕にはにわかには信じられない話だった。
「あの、涼音先輩と話していたら少し落ち着いて来ました。じゃあ、もういきますね」
「ああ、また困ったら来るんだぞ。私はいつでも君の力になると誓っているからな」
頼りのある先輩だ。
でも、僕の記憶には何も反応はなかった。
こうして、ただ時間だけが過ぎていき、ついに学校祭前日まで迫って来た。
「はい、これはここに運んでくださいね」
「あ、これはもう使わないですよ」
僕たち生徒会は学校祭の準備のために、放課後に全校生徒に指示を与えていた。
「あの、秋作君。ちょっといいかしら?」
純恋に呼ばれ、彼女の方を見た。
「どうしたの?」
彼女は言いづらそうにしていたが、意を決して言った。
「明日の午後の自由時間は私とデートして欲しいの」
それは予想外の言葉ではなかった。
僕は彼女がこう言うのを大体察していた。
「ええと、1日目は詩織と佳織で交代して回る予定があって、2日目は鳴霞と回る約束があるから、鳴霞の後でいいかな?」
僕は事前に他の3人から一緒に回ろうと言われていたのだ。
だから、純恋が言ってくるのではないかと思っていたら、案の上言ってきたのだ。
「え、本当かしら?私が出遅れたのね。じゃあ、それでいいかしら?」
「うん、いいよ。俺も純恋と2人きりで話したいことあるし」
そう言って彼女の顔がとても赤くなっていたことに僕は気づかなかった。
秋作に迫る4人デート