灰色から黒色のグラデーション
帰宅してからの私は、少し動揺が隠せなかった。
何て言ったらいいんだろう……
なんだかドラマのような、非現実的な感覚。
嘘っぽいのに、夫の姿をまともに見れなくて。
おい、そんな顔するなよ。
悪かったから~……
そんな私の姿を見てるせいか、機嫌をとってくる。
素直に喜べない自分。
思い切りキレてみたら良かったのかな。
嫌われたくない……
そんな気持ちしかなくて。
自信のない自分。
そのお母さんの連絡先、知らないの?
すると夫は、
知らないんだよな~……
顔つきが固まる。
明らかに何か違うって、分かりやすい。
そう、幼稚園の休み明けに会ったら話してみる。
あ、そうして。
夫はソファーに座り、ネットゲームを始めていた。
私にとって、今日の夜は夫の背中が遠くにあった。一緒に眠る時間……冷たい。
次の日の朝。
由夏~っ今日から休みだけど、一日何してるの?
すると由夏は、
今日は遊ぶ約束してるーっ
にっこり楽しそう。
誰と遊ぶの?
すると、
あつとくん
……❗❗
絶句した。
私は、まだ寝ている夫に怒鳴りこんだ。
ちょっと正輝、今日も出かけるってどういうこと?
声が嫉妬に狂ってる……
私の形相に、正輝は目を見開く。
いや、話の流れでさ。
他のお父さんもくるんだよ!
じゃ、なんで昨日はそんなこと言わなかったの?
なんであなたの口から聞けないの?
……隠してるみたい
黙る夫。
朝から一気に血圧があがる。
正直仕事どころじゃない。
そんな怒るなって、俺も断れなかったからさ。
楽しみにしてる由夏を見ると、複雑だ。
心から楽しんできてねっては言えない。
そんな気持ちのまま、仕事に向かった……
仕事って、こういう時ありがたい。
嫉妬の気持ちを忘れられた。
今日は、今は、この仕事を頑張りましょうって……
お昼休憩にメール。
相手は夫からだった。
今、遊具で遊んでるよ……
なんか頭痛いなぁ。後で薬ちょうだい
大丈夫?
無理しないでね
そんな短いメッセージを送信した。
仕事が終わるのを心待ちにしていた。
早く帰って話をしたい!
その気持ちしかなかった。
ベルがなり、足早に帰宅した。
今日は玄関を開けることに少し、躊躇。
このドアを開けること、なんでためらうんだろう……
ただいま
おかえりーっ
かけよってくる由夏。
ぎゅっとハグ……
今日ね、あつとくんとあつとくんママと遊んだよ!
マックに行ってきたーっ
……あいつ、嘘ついた。
なにが、他のお父さん……
なにが、頭痛い……?
これって、普通の感覚だとお父さん、お母さん同士なんて出掛けないよ。
まさか……ふ、不倫?
またゲームをしている夫。
ねえ、頭痛いったわりに楽しかったみたいね。
子ども使ってよく言うわね。
もう、嫉妬してるよ。
もう、怒りしかないよ。
あたしを騙した?
信じられない‼
えっ、いや、急にドタキャンされたんだ。
本当だって、信じて。
ねっごめん。
そばにきて抱き締めてきた。
でも、やっぱりこの気持ちは納得できないよ。
なんだかわからない涙が溢れた。
裏切られた……?
まさか。
私が?
嘘、嘘だよね……
夫を振り払い、泣き出してると。
夫は急に立ち上がり、
あっそ、俺のこと信じられないんだな‼
そう言って部屋を出た。
今日は一緒になんて眠れない。
私はソファーで横になった。
眠れない……
眠れないよ
早く、朝を待っていた。