地獄から這い上がるまでの時間
私の中では、今日も当たり前のように時間は過ぎていた。
幼稚園の娘をもち、交代勤務の夫を支える良き妻。
今までは家庭を優先しながらのパートタイマーだったけど、
やっと正社員で働くことができることに、喜びを感じていたの。
私も働くことでお金を稼げる……
自由に使えることもできる……
そしてなにより、自分が社会に役立っているんだということが嬉しかった。
なぜなら、専業主婦だったときも、パートタイマーを掛け持ちで頑張っていた時も。
夫は自分が稼いでる、そんな意識しかなかったから。
私が家事、育児。彼は仕事……
子どもが産まれてからはずっとすれ違い生活。
だから、休みが合うように……と私も合わせている生活でした。
彼が合わせるんじゃない。
私が合わせていたの……
不平不満だらけ。
子どもが泣くと怒鳴られ、外に出掛けたり。
たまの休みかと思えば、彼は友達と遊びに行ってしまう。
出掛けたくても、子どもがいて不自由……
でも、私の努力が実った。
正社員として私が働くようになり、彼も少しずつ家事にも協力的になってきた。
でも、
彼がしてくれることは、正直自分が求めていることではなかった。
雑だったこと。
また私の仕事が増えるじゃない……
さらにストレスが上がる。
でも、我慢していた。
もう、我慢することが当たり前のようになっていたんだね。
私の中では、彼を見くびってたんだ。
考え方がまだまだ幼稚なところがあって。
ガキだと思ってた。
すぐにお金になることばかり夢を見て、そのプロセスを大切にしない価値観を、バカにしていた。
だから、私が教えてあげないとダメなんだ。
そう、あの頃の私は、傲慢な上から目線的な良くできる妻だったの。
でもそれは。
娘のたった一言で打ち砕かれた。
その日は幼稚園の修了式。
私は仕事で休めなくて、夫に頼んだ。
仕事から帰宅し、娘に今日は楽しかった?と聞くと。
今日はあつとくんママと遊びに言ってきたよ
無邪気に笑う娘に、私は固まった。
あつとくんママ?
娘の同じクラスには、そんな名前の子どもはいなかった。
私、知らない……
急に胸の心拍数があがる。
手のひらが震えだす。
ぎゅっと締め付けられるような感覚……怖い。
でもこの不安を解消するには、夫に聞くしかなかった。
ねえ、今日あつとママと遊びに行ってきたって?
すると彼は、
あ、なんか由夏が仲良しらしくて、そうなったんだよ
一瞬、視線反らした。
今までそんなこと、なかった。
私の知らない幼稚園のママと遊びに行くなんて……
私の中で、すごく黒い疑惑が沸き上がった瞬間でした。