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≪第7話≫系統樹の限界値

 一年が経った。

 ガルディ直筆の魔導書をもとに、熟読・理解・実践を繰り返した。

 中位に至ると、下位からまたやり直し、上位に至るとまた中位からやり直した。

 定着させるためには反復練習がいいらしい。

 いざという時のためにも息を吐き息を吸うように、術を使えるほうがいい。

 だが存在値を限りなくゼロに近づける、秘術を練習したのは一回だけだ。

 正直、もう二度と使いたくなかった。

 精神力がごっそり自分で削って、思考も曖昧になり、意識して行動するのは一分が限界だった。それを超えると、戻ってこれなくなりそうになる。

 

「存在値を失えば、あらゆる物体は消滅する。理から死が外れたためにある程度歯止めが効くが、多用は避けるように」


 ガルディはそう言っていた。

 隠密系魔術。

 俺はそれを上位まで習得した。ガルディよりは劣るだろうが、極めたといってもいいだろう。あとは経験値を積み、改善していくしかない。

 ああ、そういえば習得できる系統の数に限りがあったはずだ。

 この場合はどうなるのか。

 問題は、俺が霊化系統と黒闇系統を習得したことになるのか、だ。


「人間種と亜人種であるならば誰しも系統樹を持っている。だが、その系統樹に限界値というのがある。限界値がどう定まるのかはまだ分かっていない、ということになっている」

「では、わかっているのですね」

「ああ、そうだ。二十六師の老体どもはケチをつけてくるが、限界値はそのものの種族値と属性値を合わせたものだ。だから、混血の方が必然と限界値は高くなる」

「では、ぼくのげんかいちは……」

「分からん。習得しようとして習得できなくなればそこが限界値だ、と判断される。心配するな、お前が習得したのは隠密系統だけだ。相続の場合、その前段階の系統は数に入らん。これは経験的に分かっていることだ」

「けいけんそく、ということですか」

「そうだ。二十六師は相続を行うことで更に力を強めていった」


 俺が獲得した隠密系統。

 二十六師という、メルティアの末裔たち。

 系統樹の限界値。種族値と属性値。

 知れば知るほど、知らないことが多くなる。

 そして、この知るということに、俺は喜びを感じていた。


「そういえば、めるてぃあじしんのけいとうじゅはどうだったのですか?」


 107いるという神の眷属の一角、メルティア。

 もうメルティア自身はいなさそうな感じだが、どうなのだろう。


「文献にはメルティアは全ての系統樹を持っていた、と記されている」


 全ての系統樹を持ち、子孫に一部を伝えた、と。

 だが、ガルディの言い方が変だ。こんな間接的な表現をするときは、ガルディはそうは思っていないということか。


「ちがうのですね?」

「ああ、わたしはそう考える。たしかに、メルティアは人間種と亜人種が持ちうる限りの系統樹を網羅し、その派生形さえも極めていただろう。――しかし」


 ガルディが一度言葉を区切る。


「しかし、系統樹は人間種以外にも存在するはずだ。精神生命体(スピリット)悪魔族(デーモン)天使族(エンジェル)妖精族(フェアリー)竜族(ドラゴン)獣人族ビースト)幻魔族(イリューノ)水魔族(シーシップ)雷魔族(サンダラス)氷魔族(ブリガノイド)…………キリがないな。魔法を使える種族との混血、彼らも異なる系統樹を持っているとすれば、メルティアが手にしたモノ以外の、系統樹を広げることができる」


 デーモン……ビースト……イリュー……。

 一気にガルディがまくし立てたせいで、まるで頭に入らなかった。

 つまりは、魔法を使える種族にも系統樹があると。

 ということは、メルティアは魔法を使えなかったのか。

 そして、今は生きていない、と。


「めるてぃあはにんげんしゅなのですね?」

「ん? ああ、そうだ。言ってなかったか。眷属もまた様々な種族がいる。いまだ存在している眷属もいる」


 なるほどな。

 聞いていると、とても旅に出てみたくなってきた。

 外に出て、知らないことを知りたい。

 前世では旅行なんぞ一回もしたことがなかったからな。

 一人旅出て未知と遭遇するという、幸せもいいかもしれない。



   ☆



『へえ、アールに弟がいたとはおどろきね』

『まあ血は繋がっていないがな。よく一緒に遊んだり、俺が勉強を教えてやってる』

『む……フクザツなのね』

『そんなことないさ。父が変人なせいで、ちょっとややこしくなってるだけだ』

『ふふっ、会ってみたいものね。アールの父親に』


 今日もまた手帳に羽ペンを走らせる。

 手帳を見つけてから、毎日書いているような気がする。

 話すうちにルミエールとも段々親しくなってきた。

 他に話す相手なんて、ララナさんとユート、たまにガルディのおっさんくらいだ。というか、一緒に住んでるのに三人の中で話すことが一番少ないというのはどういうことなんだ。


『会う?』

『じょ、冗談よ!』

『いや、ルミエールの本体ってどこか別の場所にあるのか?』

『ほ、本体……? 一体どういうこと……?』

『どういうことも何も、ルミエールは本に居るんじゃないのか?』

『――は?』

『違うのか?』

『本の中に入るなんて聞いたことないわ。スピリットじゃないのよ?』

『その割にはルミエールの言葉はまるで喋っているように感じるけど』

『それは自動書記を使っているからよ?』

『自動書記ってなんだ?』

『割とメルティアでは普及しているものだと思うのだけれど、口に出した音を文章化して書いてくれるのよ』

『なに? ルミエール、お前メルティアにいるのか?』

『運命の赤い(レッド・ブックス)は同じ領域(パーク)の中でしかメッセージをやり取りできないはずじゃない?』


 メッセージ? 自動書記? 口に出して喋る?

 ルミエールがメルティアにいるだと?


『おまえ……人間なのか』

『はぁ? 人間じゃなきゃ何だと思ってたの?』

『いや……』

『言いなさい』

『でも……』

『早く言いなさい』

『てっきり……』

『てっきり?』

『本の妖精だと思ってた』

『………………………………』


 沈黙だった。

 何も書かれていないのにわかる。

 痛いほどの沈黙だった。


『…………ぷっ――ぷぅふふふっ――あはははははははっ――もうだめお腹痛いぷっ――ぷぷっ、ほ、ほんの妖精って――いくらなんでもぷっ――』


 それから三十分、ルミエールの笑いが鎮まることはなかった。

 

 死にたい……



 

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