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≪第3話≫金色の瞳

「地下は儀式場と私の研究室、それとあとは倉庫があるだけだ。一階はリビング。二階に空き部屋が三つあるが……二つは物で埋まっているから、角の部屋がお前の部屋になる。いいか?」


 階段を上るガルディの背中を見つめる。

 どうやらこの家は縦に細長く、やたらと通路が狭い。

 俺は体が小さいし、ガルディは細身なので問題はないが、巨漢が来たらハマってしまいそうなほどの細さだ。


「と、といれは?」


 どうしてだろう。肉体に引っ張られるように、声も言葉遣いも幼くなっている気がする。


「ん、ああ。トイレは二階だ。風呂はないぞ。シャワーしかない」


 この世界に風呂はあるらしい。衣食住のうち、住は最低限確保されているわけだ。

 一階につくとガルディは何かの皮のソファにかけられた布を放ってきた。

 見ると、幼児サイズの白シャツだ。

 シンプルなものだ。首元にボタンが一つついているだけの。

 黒布を床に置いて、シャツに首を通す。


「サイズが合うといいが」


 なんだ、魔法とかでサイズが調整されたりとかしないのか。

 それもそうか。そうだったら、最初からシャツが幼児用なわけないしな。

 次に渡されたカーキー色のズボンに足を通す。


「やけに身のこなしがいいな。身体能力は6歳のはずだが…そんなものか」


 ぶつぶつと呟くガルディ。

 おそらく6歳の体であっても、服を着たことがない人間は服をうまく着れないだろう。あまり子供と触れる機会のないガルディはそれに気づかない。

 さわさわ。

 なにか背中がこそばゆい。

 背中に両手を差し込むと、髪の毛が服に入ってしまっている。

 

(……髪ながくね?)


 腰当たりまで伸びている。服から引き出すと、きらきらと光っているように見える。これがまさに、髪をなびかせる、という表現が正しいのだろう。

 我ながら美しい金髪だ。くすみのない、金色の髪。

 ふと部屋の隅にあった鏡が目に入る。


「これは……」


 そこには金髪金目のイケメンがいた。

 というか俺だった。

 安っぽいシャツのはずが、まるで王子様ではないか。

 これは勝てる! なぜだが知らんがやる気が沸いてくる。


「何をしている。部屋にいくぞ」


 ガルディはすでに階段の中腹にいて、不思議そうにこちらを見ていた。


「あ、はい」


 変なおっさんだ。こんなイケメンなのに驚きもしなかった。

 それともこの顔面レベルが平均なのか…?

 いや、ガルディのおっさんはそこまでだ。

 今の俺の方が遥かにイケメンである。



   ☆



「ふぅ……」

 ぼすん、と自室のベッドに腰を下ろす。

 部屋はわりと広かった。

 12畳くらいはあるんじゃなかろうか。

 贅沢なものだ。人は4畳半もあれば普通に生活できるだというのに。

 窓は二つあって、光が入り込んできている。

 片方からは午前9時か、午後3時かぐらいか。


 「なんなんじゃこりゃ……」


 ガルディとかいうおっさん。

――腹は減らないか、便意と尿意は?

――食欲があるなら好きに食え。保管庫は一階にある。

――もし何か欲しいなら言え。

――今日の夜、あらかた生き方を教える。それまでは部屋で待て。


 そういって、さっさと地下室にこもりやがった。


「ありゃあ……へんじんってやつだな」


 口に出してみておもう。

 あの変人がこの世界の平均だとしたら?


「おれはとんでもないところにきてしまったことになるな」 


 くくっ、と自嘲気味に笑ってしまう。

 なんなんだこれは。

 俺は死んだはずじゃなかったか?

 日本一ぐらいのビルから飛び降りたはずでは?


「ああ、へんなゆめだ…」



  ☆



 夢ではなかった。

 ベッドで眠りこけていると、いつの間にか、あたりはどっぷり暗くなっていた。瞼を押し上げると、薄ぼんやりした天井がみえる。


「リメルティ、起きろ」

「…はぇ?」


 その聞きなれない男の声で、意識が覚醒していく。

 見れば四十過ぎの男が見下ろしている。

 ガルディだ。


「下で話すぞ」


 言って、さっさと部屋から出ていく。

 耳をすませば階段を下りる音が聞こえ、振動も伝わってくる。

 ほんとうにマイペースなおっさんだ。

 慌てて口元のよだれを裾でぬぐって、部屋を出る。

 階段を下りると、飯台の上には二斤ほどのパンと、スープがあった。

 黄色をしているので、コーンスープだろうか。

 まあいいか。

 俺はあまり食べ物にこだわらない。

 食べられるのであればなんでも食べた。

 飛び降りる寸前なんて、ロクなもん食ってなかったもんだ。


「さて、何から話したものか」


 ガルディが口を開いた。



  ☆



 この世界は神と、その107柱いる眷属たちの領域(パーク)しかない、らしい。

 その第七眷属、メルティアは学術を司り、≪魔術≫を生み出したらしい。

 魔術。

 魔法とは違うらしい。中途半端な理解だが、おそらくは、勉強して使えるのが魔術で、勉強しても使えないのが魔法だ。

 魔法というモノの反対に、聖法というモノもあるらしいが、ガルディはよく知らないようだった。まあきっと聖法があるんなら聖術もあるんじゃなかろうか。

 メルティアには魔術学校が三つあり、それぞれ特色がある。

 基礎研究を重視するデリトル派、応用研究を重視するティレンタール派、未知の分野へ挑戦すべきだとするトリンデール派、といった三つの学派が学校を創立したらしい。

 デリトル派は研究職に強く、ティレンタール派は技術職に強い。

 トリンデールはあまりおススメではないらしい。

 昔は新進気鋭の学者を多く輩出していたが、今では貴族たちの子どもたちが多く在籍しており、質が落ちているとか。

 貴族。

 封建社会かよ。

 ここでいう貴族とは神の眷属、つまりメルティアとかの末裔らしい。

 そりゃ偉いわけだ。

 ……。


「15まではここで学べ。初等部なぞ行っても何の得にもならん。お前は凡人ではない。俺の因子を受け継いでいるからな。主に隠密系統を相続させる。いいな?」


 いいな? どういうことだよ。

 俺が魔術師になる以外に選択肢なしかよ。

 そんなことをこのおっさんに言っても無駄だろうな。


「……いんしというのは?」


「魔術師は親から子へと自ら学んだ系統を相続できる。ちなみに隠密系統は既に極めた。あれ以上は無理だ。違う系統を極め、お前もまた子へと相続するのだ」


「なるほど……」


 いや、全然わかっちゃいないが。


「15まではいえからでてはいけないのですか?」


「ん? 外に出たいのか?」


 まるで外ですることなど無い、と言われたみたいだ。


「はい。きょうみがあります」

「そうか、興味を持つことは良いことだ。しかし、移動できる領域というのは生来定められているものなのだよ、リメルティ。おそらくは、ここ、とあと三つくらいだろうな。その三つなら好きに行ってもかまわんぞ。だが、自衛の手段をある程度身につけてからだ」


 なぜだかわかるか? とガルディは問う。


「ぼくはよわいです」


「そうだ。死はなくとも束縛や支配の呪はある。私の隠密系統を全て習得してからだ。外に出るのはな。よいな?」


「わかりました……ちちうえ」


「くくっ、お前は優秀になりそうだ」


 ガルディは冷笑を浮かべた後、すべてはしゃべり終わったと言わんばかりに、パンをかじり、スープを飲み干し、何も言わずに地下室へとこもった。



 

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