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≪第31話≫逃亡、そして

『アール……?』


 手元の手帳で光る文字に視線を落として、俺はペンを止めた。

 会う?

 ありえない……。


 俺はよわい……。

 一対一なら不意打ちで何とかなるかもしれない。

 しかし……。


『今はレッドラークへの道中だ』

『ほんと?』

『ああ、あと小一時間ほどで着く』

『レッドラークにはどれくらいいるつもりなの?』

『見るものもないし、二日で発つだろう』

『そのあとは?』

『魔の都へ行く』

『そう……』

『ああ』


 これでいい。

 今は会わない方がいい。

 

 俺は言い訳を書き残して、プリンシペラを後にした。

 すぐさま馬車をつかまえてレッドラークへ急ぐ。

 もはや移動規制が解かれた今では、何の魅力もないが、立ち寄ることにする。

 嘘が真実になるように。

 俺は急いだ。


 そして数日後、俺はレッドラークへ着く。

 弱肉強食が具現化されたレッドラークで俺が行ったのは、ただの虐殺だった。

 もともと死んでいるような奴らを殺すのに、何のためらいもなかった。

 私利私欲のために人間を虐げ殺す死霊系のクズどもだ。

 強い奴は技を取り込み、弱い奴は動きを封じた。


 そうしていると聖寵神殿の神官どもが来るだろうという予測を立てていた。

 俺が習得した魔術は、隠密・疾風系統のそれぞれ高位。

 魔法なら、再生魔法・肉体魔法・変化魔法。

 魔術技能なら武装創造(ウェポン・クリエイト)

 せいぜい召喚系統もどきの聖法しか使えないという神官ごとき勝てないはずがない。

 勝てないなら、俺はそこまでだということだ。

 この弱肉強食の世界で、強さが全てだ。

 領域規制がなくなった今、それは色濃く表れている。

 それを見過ごす神殿の長である神族。

 

 セルゲイは言った。

 下級貴族どもを追い詰めろ、と。

 反乱を起こし、人類はのし上がる。

 危機感を抱かせろ、と。

 そのための虐殺。

 全ては人間種進化のために、道徳は効率によって塗り替えられる。


「誰が来るかと思えば全員女か……見るからに魔女だし、予想が外れたな……」


 魔の都には警護隊の他に、魔女隊があるときいた。

 きっとそいつらだろう。

 あてがはずれた。

 だが、セルゲイの言葉が正しいということになる。

 人間種進化のために動く我らは神族によって見過ごされる、と。


「あなた、ここで何をしているのかしら」


 先頭に立つ、赤い髪の女が話しかけてきた。

 おそらくは魔女隊の隊長といったところか?

 隣にいる紫の髪の女は幻魔族か。

 魔女隊の連中は赤い髪がほとんど。

 炎魔族は強力な火炎魔法を使うが……

 まあ俺の再生魔法が上回るだろう。


「べつに何も。俺はつい今しがたこの町に着いたところさ」

「どうしてこの町に?」

「いやなに、少しばかり観光しようと思ってね」

「そう。でも運悪かったわね。あなたが何もしていなかったとしても、都で事情聴取は受けてもらう。レッドラークは異常事態に陥っているのよ」

「ああ、そうかい」


 もとから異常事態だった。

 死霊体どもが人間を食い物にしていたというのに。

 別にこれは義憤でも正義感ですらないが。

 俺はただ殺す口実が欲しかっただけだ。


「はぁぁああ……」


 煙花を吸ってから、殺すことにしよう。

 俺が無防備な状態の時に襲ってこなかったら、

 そんな甘ちゃんしかいない魔女隊なら、

 俺の勝利は揺るがない。


武装創造(ウェポン・クリエイト)――≪高位隠密/ダブル・リライト≫!」


 何もしてこない。

 勝ちだ。




  ☆



「なぜ着いてくる」


 レッドラークから魔の都への道すがら。

 俺の背後をすり寄ってくる少女がいた。

 黒い髪と黄色く濁った瞳。

 悪魔族か。


「クフッ、わたくし、ずっとあなた様にお会いしたかった」

「なに?」

「覚えていませんか? ガルスの郊外であなたが獣人族化を行っているとき」

「ああ……」

「あのときから、ひとときも忘れていたときはございません」

「俺はお前の仲間を殺したぞ」

「あんなの仲間じゃありませんわ」


 それに、とエレインは区切って、


「まだ隠れておりましてよ。魔女隊はあなた様が殺しましたが」

「そうか」

「今からでも戻ってわたくしが殺してまいりましょうか?」

「いいや。いらん。語る者も残さなければならん」

「クフッ、かしこまりました」


 それと、またエレイン。


「このエレイン=エヴェレット、命ある限り、あなた様にお仕えすることをお許しいただきたい所存でございます」

「……勝手にしろ」

「ありがたき幸せ」


 魔の都へと二人は向かう。

 魔の都へ着いたら、レナドのセルゲイのもとへ手紙を出すことにしよう。

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