≪第29話≫フィアンデル=ファイデマン
フィアンデル=ファイデマン。
長くて、ちっとも可愛くないのがこの名前は、お父様に付けてもらった。
お母さまとか周りからはよくフィアって呼んでもらってる。
フィア。
わたしの名前。
お父様に付けてもらったけど、あまり気に入ってない。
でもお父様に文句などいえるはずもない。
こわいのだ。
わたしにもちっとも優しくない。
お母さまは仕方のないことだと言っていた。
お母さま。
とっても綺麗。
わたしの紫色の髪はお母さまとそっくりだってよく言われる。
お母さまはやさしい。
でも、わたしが魔法少女隊にいることには良い顔をしてくれない。
それでも、やる。
わたしはいつか魔女隊に入って、都のみんなを助けたい。
「こっちだよ!」
「……」
わたしはいま、エレインを連れて魔法少女隊の兵舎へ向かっていた。
エレイン=エヴェレット。
幻魔族と悪魔族のハーフらしい。
黒髪で濃い黄色の瞳。
学校のレンガ廊下で張り紙を見てたからつれてきた。
幻魔族の魔法少女隊は少ないし、悪魔族だともっと少ない。
できれば一緒にやりたかった。
同じ二回生だし。
すごいムスッとしてるけど……。
「フィア~」
「あ、ビーちゃん」
休憩室に行くと、やっぱりいた。
雷魔族のベイリン=バームズ。
キンキラ金の髪の毛がいつものようにツンツン逆立っている。
どうしてか蜂みたいだって、ビーってみんなに呼ばれてる。
「フィア聞いてくれよぉ~、サラスの奴がよぉ~」
「ビーちゃんまた勝手にサラスのおやつ食べたんでしょ」
「べっつにおやつくらいいいじゃんかよぉ~」
ズボンのポケットの両手を突っ込んで、悪びれる様子もない。
またか……
四日経ったからそろそろだと思ってたら、また懲りずにやってる。
休憩室のどこかに隠してあるというサラスのおやつ。
わたしもどこに隠してあるか興味はあるけど……
「あれ、そっちのやつ誰?」
「興味ありそうだったから誘ってきたの。見学したら入ってくれるかなって。エレインちゃんだよ」
「えれいん……えれいん……? あれ、グーダスフィアで謹慎くらってたのそういう名前の奴じゃなかったか~?」
「え、そうだっけ?」
振り返ってみると、エレインは肩を落として、深くため息をついていた。
皮肉げに少し笑って、
「そうだよ。そんなことも知らずに誘ったのか、フィアデマンのぼんぼん娘」
挑発するようなことば。
それに怒ったのはやっぱりビーだった。
呆けてるわたしを置き去りに。
「おまえ、ムカつく奴だな……」
「フン、魔女隊も貴族の道楽に付き合わされるなんていい迷惑だろうナ」
「このっ……!」
ビーが今にもエレインの胸倉を掴もうとしたとき。
「やめなさい」
ピシッと空気が張り詰める。
一人の声で、ビーがぴたりと動きを止めた。
往生際の悪いビーが「だってこいつが」の一言もなく、エレインから離れていく。
「アメリア=ガーネットよ。初めまして、エレイン=エヴェレットさん」
灼熱色の髪、情熱の灯った赤色の瞳。
炎魔族。
直系でないも関わらず、バイムレス魔法学校で学年主席。
四回生にして生徒会長を務めている。
「どいつもこいつも貴族様かよ」
「エレインさん、魔法少女隊も変わりつつあるのよ。でも、決して私たちは遊びでやっているわけじゃない。みんな真面目に取り組んでる」
「ふぅん」
アメリアの横に立つ小さい影もコクコク頷いている。
サラスティー=サファイア。
氷魔族。
気高い種族だって話だけど……
白銀色の短い髪にはチョコがついてるし、背も140センチくらいしかないせいか。
あまりわからないの残念なところだ。
「あたしは別に真面目じゃないけどなー」
「ラングル、余計なことを言わないで」
「真面目ぶんな生徒会長ぉー」
「そ、真面目じゃなくて真剣だったわね」
「そうそう、やるからには命を懸けるのが獣人族。真面目じゃなくて、真剣に」
鋭い目つきと、にやりと笑うと覗く白い犬歯。
ラングル・ラースター。
獣人族の狼型……狼型って言い張ってるけど、犬にしか見えない。
「でも、窓から入ってくるのと不真面目なのは別問題よ。ラン」
「だるいんだよなー扉から入るのって」
いつもの風景だ。
ビーがサラスのおやつを食べて、サラスが怒っていじけてどこかに隠れて、アメリアが探してなだめて戻ってくる。わたしが来るとだいたい三人がいて、あとからランが窓から入ってくる。
基本五人組の魔法少女隊で、五種族揃っているのはとても珍しいらしい。
前に居たのは700年前くらしらしいし。
その魔法少女隊は魔女隊になって同じメンバーで、数々の功績を遺したらしい。
捕まえた罪人の数は数知れず、だ。
みんな口には出していないけど、それを目指していると思う。
「……フン」
「信じられないのなら自分の目で確かめてみたら?」
「なに?」
「私たちはまだ見習いの後方支援だけれど、魔女隊の実戦を見てみるといいわ」
実戦。
久しくなかったことだ。
アメリアの言葉は近々大規模な戦闘があることを意味する。
戦うのが本来の仕事だけど、七割は何でも屋みたいなことをやってる。
その三割がきたのだ。
「アメやんそれまじっ?」
「ビー、椅子の上に立つのは行儀が悪いわよ」
「いやだってさぁ~」
ビーが興奮するのわかる。
わたしだってちょっとワクワクしているくらいだ。
魔女隊の戦う姿が見られるのだから。
「アメリア、どの隊が出るんだ?」
「ガーネット隊よ」
「うっしゃぁあああああああああ!!!!」
珍しくランの咆哮が響き渡る。
ガーネット隊。
アメリアの母親がリーダーを務める隊だ。
相当大きな案件ということになる。
「ふぅ、久しぶりに熱くなってきたぜ。でも、そんな大きな事件あったけか」
「あまり知られていないけど、魔獣が大量発生しているのよ」
「……そういうことか」
「そうよ」
「身内の恥かもしれないんじゃ、あんまり喜べないな……」
「ううん、隠蔽しているのはビーテスト魔法学校だけれど、首謀者はおそらく違う」
「なに?」
「発生しているのがレッドラーク近郊なのよ。それに神格が神格なのよ」
「なんなんだ?」
アメリアはつばを飲み込むように、一区切りをつける。
「カラスよ」
心臓が、どくんと跳ねる音がした。




